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上殻 点景

2034 April 4/1 Saturday

[ルーム「妖精の遊び場」 チャット欄]


【電子の女王】

 2024年ッ、世界はVRchatの波に包まれた、でござる

【電子の女王】

 エナドリは枯れ、睡眠時間を削りあらゆる変態オタクは次の日に絶望した、でござる

【電子の女王】

 だが、変態オタクはログインを止めなかったッ、でござる

【調査団「一般」】

 デデッデー、デレレーレレ

【電子の女王】

 デレレレッレー


 「────いや、同じ部屋に居るんだから話やがれッ」


 チャットの画面を消す。

 無駄に広いソファーに腰掛けて、外を見る。

 庭には、花壇、砂場、塩化カルシウム、そして────緑髪サイドテールの少女。

 

 だが、ただの少女と侮るなかれ。

 緑髪サイドテール少女は、険しい顔をして座禅を組み、手からビームを出した状態で回転していた。


 「そうはならんやろ」

 「なっ、wikiで調べた感じそうなっていましたぞ」


 絶対改変されてるぞ、そのwiki。

 回転してビーム出すアニメは、ロボット物しか知らんわ。


 (しかし、凝った顔とビームの効果エフェクトだ)


 記憶を探っても店で見たことない。と、すれば自作か。


 「また、手の込んだものを」

 「ふふふ、今回も自信作ですぞ」


 少女から目線を上げれば、無作為に動く空。

 昼なのに太陽は沢山あるし。

 飛んでいる鳥は、何故か死ぬほど種類が多い。


 (いや、皆、凝った物は作ってたか)


 リビングのソファーが小さい時だってあった気もするぜ。


 「あー、今日も誰も来ませんな」

 「そんなもんだろ、こんな過疎部屋に人が来るかよ」


 メニュー画面での部屋の人数は、2/100 


 「そもそも、部屋がっていうか、サーバーが過疎ってるしな」

 「接続人数も悲惨でござる」


 同時接続20人だとよ。

 もはや、鯖代すら怪しくなってるレベルだぞ。


 「こればかりは、相手が悪いでござるな」

 「妥当だ、妥当」


 あれから10年もたってんだぞ。機器の進化についていけるかよ。

 今では、ゴーグルして寝るだけで、VR仮想現実の五感を感じられるとよ。

 皆、新しい世界に旅立っていったわ。


 「でも、新型機高いでござる」

 「中古でよければ安い物は知ってんぞ」


 末端で60万、新古品で100万ぐらいだっけな。

 新品200万に比べれば安いハズだ。


 「貧乏学生には辛いでござる」

 「貧乏おっさんにも辛かったわ」


 暫し、塩、砂糖と水だけで暮らすだぜ。

 調子に乗って新品なんぞ買うんじゃなかったぜ。


 「で、妹に取られたのでござるか」

 「馬鹿ッ、貸したんだよ」


 埃被ってタンスの前に置かれてたのを、パクられたともいうがな。


 「どうも手が進まなかったんだよ」

 「逆張りもここまで来ると、馬鹿でござるな」

 「ある物を使い切る、エコの精神だ」


 横髪サイドテール少女の眼は、俺を見る。 


 「その体を持っていけないからでござるか」

 「......べ、別に似たような体ならいくらでもあるだろ」

 

 部屋の【ミラー】を起動させる。

 映るは────白髪ポニテの美少年。

 あどけなさが残る童顔に合わさるは、重力を無視したような流れを描く、長めのポニーテール。そこに一味加わる、男性という文字。


 (やはり、有名プロ絵師が作った体形モデルは一味違う)


 「敢えての、あえての男性アバターですよッ」

 「女性のアバターが高くて買えなかっただけでござろう?」


 う、うるさい。

 5倍、男性の5倍の値段だぞ。あの時は馬鹿らしくて買えなかったんだよ。

 再販しないと知ってたら、借金してでも買ってたわ。


 (それにな、この体も手間だけならプロには負けてないんだよ)


 髪の毛を作るのに、何人の手も借りたし。

 現実で使わないメイク術も教え込まれたし。

 無駄にかっこいいコート送られたし。

 それから、それからだな。

 

 ────ああ、クソッたれだ、ボケッ。


 「全く......いや、もうこんな時間でござるか」

 

 メニューが示す時間は、午前2時。

 良い子は寝る時間をとっくに過ぎている。


 「妥当だ。さっさと寝るとしますか」

 「そうでござる、な」

 「どうした?」


 横髪サイドテール少女は、俺を見つめる。


 「いや────明日も、明日も来ますか......でござる」

 「当然明日も来るだろ......暇だし」


 暇というより、生きがいみたいなもんだからな。

 我ながら、仮想現実VRchatに人生歪まされすぎだな。

 そういうお前こそ────


 という前に横髪サイドテール少女は消えていた。


 (ログアウトでもしたか)


 大方、奴も眠かったに違いない。

 俺も瞼がだいぶ重いしな。


 メニュー横の【ログイン】のボタンを押して俺は────ん?

 

 (なんかおかしい気がしたが...眠い.....眠すぎる)


 遠慮なく、ボタンを叩く。

 明日も仕事だ。現実に戻って仮想現実VRchatの為に頑張って働きますかね。


 ◇◆◇


 そして────朝。


 「いや、なんじゃこりゃぁぁぁッ!!」

 「「ドンッ」────うるさいっ」

 「すんませんッ」


 隣人よ、鏡を見て叫んだのは許して欲しい。

 俺が朝ひげを剃ろうと洗面台に立ったまでは────OK。


 だが、問題は────鏡に映ったのは金髪ポニテ美少女。

 俺の顔は、黒髪短髪おじさんのはずだ。

 

 (まだ寝ぼけている?)


 俺は朝何事もなくトイレにだって行ったんだぞ。

 ブラックコーヒーだってキメたし、食パンも食った。


 何時もと変わらぬ日常をして、小説みたいな美少女転生なんて────

 

 いや、金髪ポニテ、女顔、男......


 「いや俺のアバターかッ、コレッ!!」

 「「ドドッン」────だからうるせえ」

 

 ボロいアパートには、朝から高音の声が響き渡る。

 数時間後、怪しげな格好をして手紙をポストに投函する俺が一人。



 ────背景 母上へ。

 桜が咲き誇る季節になりました。

 母上は、いかがお過ごしでしょうか。


 私は、季節の変わり目につき風邪をひいてしまいました。

 それも、声が出ないレベルの風邪です。

 救援物資として、食料一週間分ぐらい送ってくれませんか。

 後、偽造マイナンバーカードなんかもあるとうれしいです。

 

 P.S.

 特に深い意味は無いのですが、母上が若い時に来ていた服を送ってください。


 息子より


 

◇◆◇ 


 「本日、午後の5分ニュースです」

 「世界各地に出現した遺跡と思われし建造物について」


 ────各国は調査団を派遣し、安全の検証および、

 探索を行うことを決定しました。


 「詳しい内容は、後日の会見で公表されるとのことです」


 ────以上で午後のニュースを終わります。



 世界は大きく、俺は小さく、変わり始める。




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