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上殻 点景

2034 April 4/1 Saturday

[ルーム「妖精の遊び場」 チャット欄]


【電子の女王】

 2035年ッ、世界はVRの波に包まれた、でござる

【電子の女王】

  次世代VRにつぐ、VR機器が出て現実はより仮想空間と密接になったでござる。

【電子の女王】

 だが、変態たちはVRchatにログインを止めなかったッ、でござる

【妖精「初期アバ茶」】

 デデッデー、デレレーレレ

【電子の女王】

 デレレレッレー


 「──コレ、いつまでやる気だ?」


 チャットの画面を消します。

 無駄に広いソファーに腰掛けて、外を確認。

 庭には、倉庫、花壇、砂場、そして────ビームを出す少女。

 

 緑髪サイドテール少女は、険しい顔をして座禅を組み、手からビームを出した状態で360°回転。


 「どうしてそうなった」

 「なっ、wikiで調べた感じそうなっていたで、ござる」

 「ならしかたないか......いやしかたないか」


 疑問が付きません。

 2035年にもなると昔の記憶は曖昧になり、

 少しだけ未来に溢れたモノたちがやってきています。


 (しかし、凝った顔とビームの効果エフェクトだ)


 記憶を探りますが店では見たことがありません。


 つまるところ、自作。


 「また、手の込んだものを」

 「ふふふ、今回も自信作ですぞ」


 少女から目線を上げれば、

 ヘンテコリンとしか形容できない空。


 雲はもくもくと音を鳴らし、

 太陽は北斗七星の如く並んで、

 飛ぶ鳥は図鑑を持ってきたと思うぐらい種類があります。


 (いや、皆、凝った物は作ってたか)


 もう少しカオスな部屋だった気もしてきます。


 「あー、今日も誰も来ませんな」

 「そんなもんだろ、こんな過疎部屋に人が来るかよ」


 メニュー画面での部屋の人数は、2/100 


 「そもそも、部屋がっていうか、サーバーが過疎ってるしな」

 「接続人数も悲惨でござる」


 ゲーム全体の同時接続20人。

 もはや鯖代すら怪しくなってるレベルです。


 「こればかりは、相手が悪いでござるな」

 「妥当だ、妥当」


 あれから10年もたち、機器は進化しました。

 今ではゴーグルして寝るだけで、VR仮想現実で動けるそうです。

 未だに右スティックと左スティックを使っている人間には分からない話です。

 

 「でも新型機高いで、ござる」

 「中古でよければ安い物は知ってんぞ」


 末端で60万円、

 新古品で100万円。

 新品200万に比べれば安いという話です。


 「貧乏学生には辛いでござる」

 「貧乏おっさんにも辛かったわ」


 しばし、塩、砂糖と水で暮らした思い出がよみがえります。


 飲み屋で飲んだ帰りに、調子に乗って新品を買うべきではありませんね。


 「で、妹に取られたのでござるか」

 「馬鹿ッ、貸したんだよ」


 正確には埃被ってタンスの前に置かれてたのを持っていかれたといいます。


 「どーも手が進まなかったんだよ」

 「逆張りもここまで来ると馬鹿で、ござる」

 「ある物を使い続ける、エコの精神だ」


 横髪サイドテール少女の眼は、俺を見る。 


 「その体を持っていけないからでござるか」

 「べ、別に似たような体ならいくらでもあるだろ」

 

 部屋の【ミラー】を起動させる。

 

 映るは────卵を被った妖精。


 「ほぼ初期アバターで、ござる」

 「うるせー、これでも作るの時間かかったんだよ」


 


 「アバターぐらい買えばいいのにで、ござる」

 「8000円で買うぐらいなら作りたいと思ってな」

 「200万は即決できるのに? でござる」

 「いや、それはアレだよ」

 

 ボーナスが入って、酔っているというバフモリモリだからできた芸当です。


 「でも意外と気に入ってるんだぞ」

 「それは誰もが知っていることで、ござる」 

 「本当かぁ、このアバターにしみ込んだ汗と苦労と電気代を知ってんのか?」


 まずはソフトの使い方を覚えるところからだろ。

 何人もの仲間に使い方を教えてもらって、

 半年かかって初期アバターが模倣できて、

 そんでそっからアクセサリー作って、


 それから、それからだな。

 

 「それから───」

 「幾度もなく聞いたで、ござる」

 「あっ、いや、あ」


 また、思い出しちまった。


 「全く......いや、もうこんな時間でござるか」

 

 宙に浮くウィンドウ、

 メニューの時間は午前2時。

 良い子はとっくに寝る時間です。


 「今日も仕事かぁ......憂鬱だ」

 「いつも大変で、ござる......」

 「うん、どうした?」


 横髪サイドテール少女は俺を見つめます。


 その瞳には涙は溜まらずとも、

 涙に溢れているという印象を焼き付けるほど、

 可憐で可愛く儚い、そんな一瞬が写されます。


 「明日も、明日も来ますか......でござる」


 だが、彼がそんな事に気づくことはありませんでした。


 「当然、明日も来るだろ。どーせ暇だし」


 暇というより、彼にとっては生きがいです。

 

 30代まで真っ当に仕事をしてきたにも関わらず、

 たまたま友人に誘われて大ハマりしたのが10年前、

 そっから時間と電気代を費やして今に至るわけです。


 そういうお前こそ────


 という前に横髪サイドテール少女は消えていました。


 ログアウトでもしたのでしょうか。

 きっと彼女も眠かったのでしょう。

 彼の体もゆらゆらとしています。


 メニュー横の【ログイン】のボタンを押して彼は────

 

 (なんかおかしい気がしたが...眠い.....眠すぎる)


 彼は遠慮なく、ボタンを叩きます。


 明日も仕事だ。現実に戻って仮想現実VRchatの為に頑張って働きますかね。


 [Welcome to My world]


 ◇◆◇


 「キュー(いや、なんじゃこりゃぁぁぁッ!!)」

 「「ドンッ」───うるさいっ」

 「キュー(すんませんッ)」


 彼は朝から叫びます。

 3秒前、ひげを剃ろうと洗面台に立ち、

 1秒前、鏡に映ったのが───可愛らしい小さな妖精。

 

 (俺は少なくとも人間のはずだ)

 

 「キューキュウ(まだ寝ぼけている?)」


 確かに朝飯は食べてないし、冷蔵庫にはコーヒーしかないが。


 何時もと変わらぬ日常。


 廊下に落ちてるのは卵の殻  


 「キュッキューッ!!(コレ、俺のアバターかッ)」

 「「ドドッン」だからうるせえ」


 ボロいアパートには、朝から大きな声が響き渡る。


 ◇◆◇


 「広島の朝ニュースです」


 [速報]

 昨夜未明、大規模な発光現象が見られました。

 場所は広島メガフロート。瀬戸内海に建造中の人口島です。

 警察は工事中の事故であり、事件性はないとの発表。


 「詳しい内容は、後日の会見で公表されるとのことです」


 ────以上で朝のニュースを終わります。

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