転生球児の冒険録

浜こーすけ

転生球児の誕生

 160キロを超える剛速球。七色の変化球に、針の穴を通すような制球力。抜群の守備力に、場外へ飛ばすほどの圧倒的パワー。それらの能力を有し、日本の野球界において至宝と言われた逸材がいた。

 彼の名前は、金田かねだまこと。チームメイトからの信頼も厚く、チームではエースで4番。そのクールな表情で、どんな場面でも冷静に対処し、試合を勝利に導いてきた。

 「ストライク!バッターアウト!!」

 投げては三振の山を築く。

 「真、ナイスピッチ!」

 「次の打席はお前からだよな?絶対勝つぞ、この試合!」

 予選の決勝、勝てば甲子園へ出場する夢が叶うことになる。仲間からの言葉に軽く頷き、彼はバッターボックスへと向かった。

 (必ず…必ず勝つ)

 心は熱いが、見た目は冷静。その内に秘めたる闘志を宿しながら、真は軽く息を吐いた。左手をポケットに入れて拳を強く握りしめ、深呼吸しまた息を吐く。その風格は、王者の貫禄さえ感じる。何千何万と戦ってきた戦士のごとき佇まいだ。彼のオーラに圧倒されているのか、相手ピッチャーの表情は動揺が隠しきれておらず、暑さと緊張の汗が混じりながら、大きく振りかぶった。

 指先はおろか体全体が力み、小刻みに震えている。そしてその余計な力は、思わぬ方向へと進んでしまい、リリースされた白球は相手キャッチャーのミットから大きく外れた。

 「ガンッ!!!!!!」

 球場に鳴り響く大きな音に、そこにいた全員が一瞬静まり返った。打席に立つ真のヘルメットに、ピッチャーが投げたボールが当たった音だ。頭部へのデッドボールによりヘルメットは割れ、返事をすることなく彼はその場に倒れてしまった。

 「おい君、大丈夫か!?しっかりしろ!」

 審判が駆け寄るも、真の反応はない。

 (やば、意識が…俺は、俺は……)




 チームメイト、監督、相手チーム、審判団、観客―――最後まで全ての者が彼に声をかけたが、かすかに聞こえるその声に、その青年は終始応答することはなかった。

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