第20話 仲間探し

「ネルク君、あれから講師としての活動は順調か?」

「そうですね、自分ができることは全てやれていると思います」


 俺は3回目の講義が終わった夜、学長から呼び出された。

 何かまずいことをしたのかと不安になりながら、学長室に向かったが杞憂だったようだ。


「今日はどのようなご用件ですか?」

「そうだな、本題に入ろう。この前君からお願いされていた、ダンジョン攻略を最終課題に組み込みたいという話だが……許可が取れたぞ」

「本当ですか!?」


 学長にお願いしていた話が通ったという喜びで、思わず大きな声を出してしまった。


「ただし、場所はこちらで指定させてもらう。使用許可がおりたのは、王都から少し離れた場所にある、初心者向けダンジョンのメサビだ」

「メサビですか……」


 俺は王都周辺のダンジョンのことはあらかじめ調べておいた。

 もちろんメサビも知っている。

 ここら辺ではかなり古くあるダンジョンで、初心者向けの中ではやや難しめのダンジョンだ。

 だが、癖のあるダンジョンではないため、攻略自体はそこまで難しくないだろう。


「分かりました。メサビは事前に調査しておきます。最終課題には私も同行する予定ですので、生徒を危険な目にはあわせません」

「そうしてくれると助かる」


 学長からはその話だけであった。

 明日と明後日はアメリア様から休みをもらっていることだし、すぐに調査に向かうとしよう。



---



 俺は早朝に寮を出た。

 ダンジョン攻略に必要な準備は昨晩済ませておいた。

 メサビは王都から近いため、攻略して帰ってくる全ての行程は二日間で終わるだろう。

 だが俺一人でダンジョンに挑むわけではないため、多少のズレが生まれる可能性がある。

 ダンジョンにおいて、自身の力を過信することは命を失うことに直結する。

 だからこそ自信を客観視することが大切である。

 その結果、俺には仲間が必要なのだ。


「仲間集めをするなら、ここしかないよな」


 俺が仲間を探すために訪れたのは冒険者ギルドだ。

 ダンジョンといえば冒険者。

 ここならダンジョン探索の仲間を見つけることができるはずだ。



---



「メサビ、メサビ……あった!」


 俺は掲示板でメサビ攻略の仲間募集を見つけた。

 初心者向けのダンジョンということもあって、やはり新人冒険者が多い。

 そういう俺も、冒険者としてのランクは一番下のEだ。

 一緒にパーティを組むことができるのは、Dランクまでである。


(荷物持ちくらいでもいいんだが……)


 今回の俺の目的は、ダンジョンの様子見なので、前線に出る必要もない。

 

「おっ、これならちょうど良さそうだな!」


 俺は募集張り紙の中の一枚を手に取った。

 求める人材はダンジョンの経験がある人物。

 EかDランクの人物。

 まさしく俺に適した募集条件だ。


 そのパーティはギルド内にいるようだ。

 ギルドというのは大抵の場合食事ができる場所がセットになっている。

 そこにそのパーティはいるそうだ。



---



「すみません、あなたがクロムさんですか?」


 俺は書かれていた特徴の人物に話しかけた。


「もしかして、募集仲間を見てきてくれた?」

「はい」

「よっしゃーー!!ほら、俺が言った通りなんとかなっただろ!」

「確かにそうね。それにしても、よくこんな大雑把な条件で集まったわね」

「本当に私たちのパーティでいいんですか?」

「おい、そんな不安な言い方をして彼が辞めるって言ったらどうするんだ」


 用紙に書いてあったように、彼らは四人パーティだ。

 見た目だけの情報だが、前衛二人、中衛一人、後衛一人のパーティなのだろう。


「まぁ、とにかく来てくれたのだから、ありがたく受け入れようじゃないか!」


 俺は前の席に座るように促された。


「まずは自己紹介だな。俺はこのパーティのリーダーをしている、クロムだ!」

「私はペトラです」

「私はルチルだよ」

「僕はコランです」

「俺たちは全員がDランク冒険者で、今回は昇格試験のダンジョンに初挑戦するんだ。だからダンジョンに詳しい助っ人が欲しくて、募集していたんだ」


 今の説明でなんとなく彼らの事情が分かった。

 冒険者がランクをあげる時に、EからDは規定の依頼量の達成でいい。

 しかしDからCは依頼量の達成と二つ以上のダンジョン攻略が必要なのだ。

 だからこそ、Cランクから一流冒険者と言われているのだ。

 そして彼らは今回が初めてのダンジョン攻略だ。

 いきなりメサビは厳しい可能性があるが、それも経験だろう。


「俺はネルクです。ランクはEですが、ダンジョン攻略の経験は豊富なので、パーティに加えていただけると嬉しいです」

「今回はダンジョンに詳しい人が欲しかったから、ランクは問題ない。参考までにどれくらいダンジョンに挑んだことがあるんだ?」

「そうですね、10回以上は挑んでいますよ」

「「すごっ!!」」


 俺の回数を聞いて四人とも目を丸くした。


「そんなベテランがついてきてくれるなら、初回で攻略できるかもしれないな!」

「そうね、私たちかなりついていたわ!」

「あっ、でもメサビは初めてなので、もしかしたら判断をミスる可能性もあります」

「ミスなんて誰にでもあるさ。そもそも俺たちだけじゃ、ダンジョンというのを知るのに、1ヶ月はかかるんだから、こうして慣れる機会を貰えたらだけでもありがたいよ」

「わかりました。俺も全力でサポートします」


 気持ちのいい冒険者だ。

 冒険者という職業は、いい奴もいれば悪い奴もいるというのが顕著に現れる。

 俺が加わることができたこのパーティーは最高だと言っていいだろう。



---



「ネルクさんはどうしてEランクなのですか?」

「さん付けはいらないですよ。俺はまだ15なので」

「えっ!同い年じゃない」

「僕もてっきり年上だと思っていました」

「やっぱその眼帯が歴戦の猛者感を出しているよな。くー、隻眼の剣士か!かっこいいな!」


 クロムは俺の眼帯をかっこいいと言っている。

 学園ではあまり印象の良いものではなかったが、冒険者の間では悪いイメージは抱かれなさそうだ。


「期待してもらったところ悪いんだけど、実は隻眼じゃないんだ。ただ、左眼は少し調子が悪くて眼帯をしているんだ」

「もしかしてそれが昇格しない原因なの?」

「いや、そういうわけじゃないんだ。眼帯生活ももう五年になるし、全く問題なく動かことができる。昇格しないのは、忙しくて依頼をあまり受けることができないからかな」

「へぇー、ダンジョン経験は豊富なのにEランクのままって変わってるな」

「でもそのおかげで、こうして私たちとパーティーを組んでくれているので、ありがたいですね」


 俺たちはメサビを目指して歩く中、いろいろな会話をした。

 当初は俺も自分の情報は最低限しか話さないつもりだったが、彼らと話しているうちに気が変わった。

 俺は自分のことについても少しずつ話すことにしたのだ。

 やはり同年代の仲間を持つという経験が嬉しかったからだろう。

 今までは年上の方と関わることが多く、こうして打ち解けて会話することも少なかった。

 俺の話で一番驚かれたのは、才能を持っていないという話だった。


「えっ!?才能を持ってないの!」

「そうなんだ。今時俺のような無能は珍しいよね」

「確かに珍しいな」

「それよりも、才能を持ってないのにダンジョンに何度も挑んでるの?」

「そうだな。才能が無くても体は鍛えることができるし、剣の技を磨くこともできる。そしてダンジョンについての知識もたくさん集めて、なんとかして才能の差を埋めているんだ」

「すごい……」

「すごい?」

「すごいですよ!だって才能を持たないってことは、それだけ基礎能力が低いってことじゃないですか。しかも魔法だって使えないですよね!」

「そ、そうだね。魔法は才能がないと使えないから、俺は剣しか使えないよ」

「魔法が使えないのに、剣一本でダンジョン攻略するなんてすごすぎますよ!」

「まぁ俺は仲間と環境に恵まれたからね」


 俺は仲間と環境に恵まれた。

 ダンジョンについての知識を集めることができる場所があった。

 実戦経験を詰める環境があった。

 俺一人のミスじゃ、全く崩れない強い仲間がいた。

 才能はなかった、でも運がなかったわけじゃない。


「才能なしを信じることは難しいかもしれないけど、信じてついてきてくれないか?」

「当たり前だろ」

「そうね、こんなすごい人に案内してもらえるなんて光栄だわ」

「僕もネルクを信じているよ!」

「私も尊敬しています!」

「みんな……ありがとう。俺は絶対にこの攻略を成功させて見せるよ!」


 この瞬間、俺は彼らにダンジョン攻略という経験を絶対にさせてあげると誓った。

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