才能を持たない一人の少年と異世界から召喚された勇者の物語〜天才と呼ばれた兄の想いをその身に宿して、世界の運命に立ち向かう〜

カネキモチ

序章

第1話 天才と無能

「ライ兄、今日の儀式楽しみだね!」

「そうだな!」


 兄は綺麗な青色の瞳に満面の笑みで応えた。



---



 八歳を迎える今日、僕たちは選定の儀を迎える。

 神官様がこの村を訪れ、八歳を迎えた子供達の才能を確かめる儀式……それが選定の儀だ。


 この村は非常に小さく、同年代の子は双子の兄しかいない。

 そして兄は間違いなく才能を持っている。

 しかも誰よりも凄いものを。

 これは僕だけが知っていることだ。



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 あれは五歳の頃……

 一緒に近くの森に冒険をしに行ったときのことだった。

 初めての体験で浮かれていた僕たちは森の深くまで入って行ってしまったのだ。

 そこで僕たちは魔物と遭遇してしまった。

 その魔物は大人が三人がかりでようやく倒せると言われるレベルの魔物だ。


 その魔物と対峙するのはたった5歳の子供2人……

 絶望という言葉では足りないほどの状況だ。

 当然僕たちは逃げ出した。

 だが足も遅く、鈍臭い僕はぬかるみに足を取られて、転んでしまった。


「にいちゃん……」


 俺は背後に迫る魔物から逃げる為に、震える手を兄の方に伸ばした。

 僕の震える声に応えるように兄はその場に踏みとどまった。


「「うぉー!!」」


 兄はその場に落ちていた木の枝を拾い、踏み込みと共に魔物の目玉を貫いた。

 一歩の踏み込みで五メートルは移動している。

 だがその一撃だけでは魔物を仕留めることはできなかった。

 魔物はすぐに前足で目の前の兄を切り裂こうとした。

 だが次の攻撃が分かっていたかのように、兄は横に二歩動いた。

 そして魔物の攻撃を躱すと、右手で魔物の顔にパンチを繰り出した。


「「パァーン!!」」


 破裂音と共に魔物の頭が弾け飛んだ。

 首から溢れた返り血が僕と兄に降り注そぐ。


「兄ちゃん!」


 俺は涙と血ででグチャグチャになった顔で兄に飛びついた。


「ネルク……」


 兄も涙で溢れた顔で僕のことを受け止めてくれた。

 その涙が溢れる眼は青色に光り輝いていた。


「兄ちゃん、眼が!!」

「眼?」


 兄の眼は元々僕と同じ茶色だった。

 だが両眼が、綺麗な深い青色の瞳に変わっていたのだ。


「眼がどうしッ、グハッ」

「兄ちゃん!!」


 兄は突然血を吐いてその場に倒れた。

 そして眼からも血を流している。

 すぐに隣に行き兄を担ぐ。

 呼吸はしているが返事がない。



 それからどれくらいの時間が経っただろうか……

 僕は兄を担いで森を出た。

 森に遊びに行って帰って来ない我が子を探して、父が森の入り口まで来ていた為、なんとか兄は一命を取り留めることができた。


 だが兄が魔物を倒したことを知っているのは僕だけだ。

 両親も兄にそんな力があることは知らない。

 兄は魔物に襲われたことしか伝えなかったのだ。



---



 それから兄は剣を学び始めた。

 僕も真似をするように兄と剣の練習をした。

 両親も元冒険者の血が騒ぎ、積極的に剣の練習をさせてくれた。

 だが兄はあの日見せた力を一度も両親の前で見せることはなかった。


 僕と森に遊びに行った時だけ、こっそりと力を見せてくれた。

 剣の一撃で折れる大木、指先から放たれる炎の渦、ウサギを余裕で追い越す速さ。

 そして、少し先の未来を見て行動する未来予知の力。

 あの日兄は瞳の色が変わったのと同時に、これらの力に目覚めたそうだ。

 そんな兄に憧れて僕も剣を振るうが、木に傷を付けることすらできない。

 指先から火を出そうとするが、魔力の流れの一つすら感じない。

 ウサギのように早く走るどころか、足が絡まって転んでしまう。

 兄と比べて僕は鈍臭かった。


 それでも兄は選定の儀を迎える今日まで、ずっと僕と一緒にいてくれた。

 そして今日、兄の才能は表に出るだろう。



---




「それでは只今から選定の儀を始めます」


 今日は村にある唯一の教会に神官様が選定の儀を行いにきている。

 選定の儀は才能を確かめるのと同時に、その力を解放する儀式だ。

 それには神の力を借りるようだ。


 僕にも何か隠された力が……


 そう期待して僕は神官様の前に立った。


「こっ、これは!」


 驚くような声をあげる神官様に俺の期待は最高潮に高まった。


「全く持って、無能力ですな」

「え?」

「貴方には才能と呼べるものがありません。

この時代に全く才能がないというのは珍しいですな」


 ほとんどの人は大小はあれど才能を持っている。

 兄程は望まないが、僕にもなにかしら才能があると信じてきた。

 だか現実は残酷だ……

 僕はなるべく落ち込んだ表情を見せないように神官様の前を離れた。


 僕と入れ替わるように兄が隣を通った。

 兄の顔はどこか悲しそうな顔をしていた気がするが、すぐに元通りの真面目な顔に戻った。

 そして神官様の前に立つ。

 神官様は覗き込むような形で兄を見ると……


「こっ、これは!」


分かっていたことだ。


「貴方にはとてつもない才能があります!それにすでに才能は解放されている。これほどの才能となれば、将来は学園に入学ですな」


 特別な才能を持つものが集まる場所、それが学園だ。

 貴族様などが多いが、稀有な才能を持つ平民も入学していると聞く。

 兄ほどの才能があれば、そのようなことになると分かっていた。


「そうですか。ありがとうございます」


 才能を認められた兄は表情を変えることなく、神官様の前を離れた。


「詳しい才能についてはご両親にも伝えたいと思います」



---



「ライオットにそんな才能が!」

「あなた、学園ですって」

「よし、明日から俺が剣を教えよう。魔法は君が教えてくれ」


 神官様から兄の才能のことを聞いた両親はとても舞い上がっていた。

 学園のこと、剣のこと、魔法のこと、それはそれはとても楽しそうに話していた。

 だが、そこに僕の話題は一つもない。

 話は全て兄についてだ。



 俺は部屋の外に出て、ただただ天井を眺めていた。


「ネルク、少しいいか?」

「ライ兄…」


 兄が僕に話しかけてきたのだ。

 そして僕は兄に誘われて家の外へと出た。

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