虹色に汚れちまった彼女
悪本不真面目(アクモトフマジメ)
第1話
僕らの色は無色透明。それでよかった。
「朝陽、宿題したか?」
「あっ!夕樹、宿題見せて。」
僕は溜息を吐き、渋々ノートを朝陽に渡した。ノートを受け取った朝陽は左手を僕の方へ出して親指を上げ、舌を某お菓子の某○○ちゃんみたいにペロと出した。これはいつものことだ。
「いつも本当にタスカルボナーラ。」
「いいから早くしないと授業が始まる×△□。」
これもいつものことだ。幼稚園の頃からの幼馴染である僕らはこのような他の人には入ってこれないやり取りをよくしていた。そのおかげで僕たちは他の人たちとは混ざらない無色透明な清らかなままでいられた。誰の色も介入が出来ない。
あいつら付き合っているという噂もたたない。それくらい僕たちはいつも一緒で、みんなは僕たちに興味がなかった。屋上で二人、イチャイチャとかそんなのではないが、一緒にお弁当を食べる。中学では給食だったから、高校生になったら一緒に屋上でお弁当食べようねと約束をした。朝陽はそういう漫画みたいなことが好きで、僕はそこにただ合わせていた。幼馴染という関係で起こる自然の摂理みたいなものだ。お弁当を交換し合う訳でもなくただ傍にいて、自分のお弁当をパクパク食べる。大体、朝陽が何か愚痴を言うので、僕はただそれを聞いていた。
「今日は、何かなかったか?」
「うーん、あ、そうそう!昨日お母さんが!」
そして僕は決まってこれを言う。
「それはヒドゥイナ!」
下校時間僕が帰る準備をして教室を出ようとして振り返ると朝陽は慌てて、カバンに教科書を入れていた。
「ちょっと待って!」
朝陽は決まって僕と一緒に下校をしたがった。登校の時もそうだ、わざわざ朝陽が家まで迎えにくる。
「それにしても夕樹って帰り支度は早いんだから。」
「なんだよ『は』って?」
「だって、朝めちゃめちゃ弱いじゃん。いつも起こすのも大変だよ。」
「ほら、僕前世きっとドラキュラなんだよ。」
「また、そんな漫画みたいなこと言って、もっとしっかりしなさいよ。」
「宿題してない、朝陽にいわれてもなぁ~」
「別にしてもいいんだけどな~」
「おいおい何様だよ。」
「そうね、朝陽様かな~。」
朝陽は笑顔でそう言って、僕をいつも照れさせていた。
高校二年の頃、初めて朝陽と違うクラスになった。朝陽は笑顔で僕に向かってこう言った。
「たまにはいいかもね。」
僕はその笑顔には照れなかった。
トイレの帰り道、朝陽の教室を通るので、一応朝陽がいるか確認する。どうやら朝陽はいないようで、恐らく入れ違いになったのだろう。幼馴染ならそういうこともある。
朝、朝陽は迎えに来なくなった。どうやら母から聞いた話ではバスケ部に入って朝練で忙しいらしい。確かに元々朝陽は運動神経がよくて、色んな運動部からスカウトされていたらしい。僕は、次第に朝ちゃんと起きられるようになり、一人で登校をする日が多くなった。
休日に欲しかったゲームがあって、駅前までやって来た。すると朝陽を見つけ、声をかけようと思ったが、その後男女四人組が現れてそいつらとカラオケに行ってしまった。そこには「タスカルボナーラ」の彼女の姿は見えなく、薄くはあるけれど化粧をしていたようにも見えた。色んな色が彼女に入ってくる。赤や青、黄や紫、桃色と彼女はどんどん無色透明とはほど遠い存在へと変化していっている。
一人での下校も慣れた頃、相変わらず僕の色は無色透明でいた。朝陽とはここ2か月話もしていない。でもそれでいい。だって彼女はもう虹色に汚れちまったんだから。一度汚れれば無色透明には戻れない。幼馴染の自然の摂理に反してしまったのだから当然だ。僕は何色にも染まるものか、混ざるものか。
ドンと何かがぶつかってきた。でも僕はそれがなにか分かっていた。朝陽だった。
「夕樹、今日は帰れるよ。」
彼女は笑顔でそう言った。
「なんだよ、朝陽か。」
「相変わらず下校するの早いんだから、たまには私の教室前で待ったりとかしないの?」
「いやだって部活が・・・。」
「今はテスト期間だよ、たとえそれでも待ってたら一緒に帰れるのに。」
「じゃあ今度そうするよ。」
「本当、タスカルボナーラ。」
彼女は笑顔でそう言い、僕の虹色に濁った眼を照らしてくれた。それは朝陽は無色透明で僕が少しくすんでいたことを気づかせてくれる光。
虹色に汚れちまった彼女 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615
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