奇妙な目、美しい世界

雨蛙/あまかわず

奇妙な目、美しい世界

ここに座ってどれくらいたっただろうか。俺は道端で絵を描いて売っているんだが、今日も一向に売れる気配がない。


俺の絵を見た人は口をそろえて「気味が悪い」という。


理由はわかっている。俺の絵は色使いに問題があるらしい。


俺はただ目に見えているものをそのまま描いているだけだ。なにがどう違うかなんてわからないし誰も教えてくれない。


時間が進むにつれて借金が増えていく。返せる見込みもない。


俺の人生は潮時かもしれない。


「おじさん、なにしてるの?」


うずくまっている俺に1人の少年が話しかけてきた。


「見ればわかるだろ。絵を売ってるんだ」


「この絵はおじさんが描いたの?」


「そうだがそれがどうした」


「へー!すごいね!ちょっと見てもいい?」


「好きにしろ」


少年は置いてある絵画を端から見ていった。最初はいつもの冷やかしかと思ったが、純粋な目で1枚1枚丁寧に見ている。


「すごいなぁ、まるで別世界を見ているみたいだ。どうやって描いてるの?」


「どうやってって、俺は見たまま描いてるだけだ」


「おじさんいつもこんな世界を見てるの?いいなぁ」


「いいことあるか。俺の目はほかのやつらとは違う。この目のせいで気味悪がられ、蔑まれ、差別されてきた。生きている心地はしないよ」


「じゃあなんでその目で見た絵を描いて売ってるの?こんなことしてたらもっといじめられちゃうよ」


「俺は誰が批判しようとも、俺が見ている世界が好きだからだ。この美しい世界をいろんな人に知ってほしかった。だがそれも無駄だったみたいだ」


しばらく沈黙が流れる。子どもには少し重かっただろうか。


「ねえ、この絵、もらってもいい?」


やるせない俺の表情を見て同情でもしたのだろう。


「お前がばかにされるだけだぞ」


「いいよ。僕、この絵好きだし」


「そうか。だったら好きなだけ持っていけ。俺はもう疲れた」


俺は立ち上がって帰る身支度をした。


「お金忘れてるよ?」


「どうせたいした金額にはならないからな。勝手に持って行ってくれ」


俺は少年と絵画を残してその場を去った。


家に着くと机の上に置いてあったウイスキーの瓶を口に当てる。もう1適しかのどを通らなかった。


台所にあった切れ味の悪い包丁を手に取る。


次の瞬間、真っ黒のインクが床に飛び散った。

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奇妙な目、美しい世界 雨蛙/あまかわず @amakawazu1182

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