放課後始まる異世界生活

文月ヒロ

第1話って訳で俺は多分異世界転移した。は?どゆこと?

「あぁ、そーいや今日からだったか……このイベント」


 机の横に掛けていた自分の鞄からスマートフォンを取り出し電源を入れる。

 ゲーム画面を開くと、ガチャイベントが開催されていた。


 夏、だるような熱気に辟易へきえきするのがこの季節だが、実は結構好きだ。

 高校1年生である俺――並家新丞なみやしんすけは夏休みを間近に控えていたのだ。数日経てばアニメ三昧にゲーム三昧の素晴らしい日々が待っている。引き籠り?オタクの俺には最高の誉め言葉さ。


 クーラーの効いた教室内は、期末考査が終わった直後の放課後とあって浮わついた雰囲気に包まれていた。俺と同じく、夏休み前であることに気を良くしている奴もちらほら。


「おっ、エクスカリバー出てんじゃん!って、確率低ッ。0.00000000001%とかほとんど当たんねぇだろ、頭おかしいんじゃねぇの運営…!」


 イベントガチャ限定のレアアイテムが出ていたことに興奮するも、その確率の低いこと低いこと。思わず声に出してしまった。


「けどっ、エクスカリバーは欲しいなぁ。…うし、こうなったらいつものアレでいくか」


 そう言って、別の画面へ移る。しかし、ここで問題が起きた。


「ナニナニ並家ク~ン、課金ですくぁ?ヒュ~ウ、おっ金持ちィ」


 教室窓側の一番奥にある俺の席へ、ウザ絡みをしてくる奴等が数人。俺はビクッ、と嫌な予感がして座っていた椅子をずらし、くだんの連中の方へ右半身を向ける。

 金髪に着崩した制服、俺の視界には分かりやすい校則違反をした不良共がいた。不本意ながら、俺にとっては見慣れた光景である。


「はい5000円♪今す~ぐ頂戴な」


 不良の一人が右の掌を俺に差し出して言う。

 こんな公衆の面前で喝上げですか。相変わらず躊躇ないですね。


 けれど聞いて欲しい。俺、お前らのニヤけた面を見ながら思ったんだ。


 (ざっけんなボケェ!)


 口には出さないが、これが本音だ。入学して以来、俺は度々コイツらに金を毟り取られている。理由?弱っちそうでオタクだ~からッ。ナメんな!


「い、いやぁ…はは。今月お小遣いが少なく―――」

「で?」


 苦し紛れにお金を出したくない、もとい、出せない理由を話そうとすれば、冷えた笑みとこの言葉で一蹴された。俺、笑顔で相手をビビらせる能力持ってるのって、女の子だけだと思ってたよ。あれって男でも出来るものなのね、驚きだ。


 でも、一番の驚きはそこじゃなかった。


「え、なに?もしかして出せないの?だったら親から貰って来いよ、馬鹿かお前」


 どうやら、限界らしかったのだ。


「おっと馬鹿だった。だはははははっ!」


 ビックリしたよ、本当に。何せ俺は小心者だから、こんな暴挙に出ようだなんて本気で考えないと思ってたから。


「―――ぷっ、鏡見て言えよ」

「あ?」

「鏡だって、か・が・み。漢字書ける?あ、無理かぁ。だって馬鹿、だか…ら?―――――や、やべっ…」


 我慢の限界を迎えた俺は、今一番言ってはいけない台詞を、一番言ってはいけない連中にぶちまけた。そして、気付いた時にはもう遅かった。


「んだとゴラァ!」

「ひぃぃッ…!」


 俺を脅していた不良はキレて、拳をこっちに向かって振りかぶる。窓の反対方向へ逃げるようにそれを避けたが、恐怖のあまり心臓が今もバクバクと音を立てている。


(ア、アホしたぁぁ………ッ!何やってんの!?何やってんの俺ぇ!!)


 一瞬にして冷静なった俺は後悔をした。

 気分?見ての通り最悪だよ。何故って、これからシメられるから。強制的にぶちまけさせられるのは、涙と鼻血と、それから財布の中身。当然、全部俺のだ。


 不良共がこちらへにじり寄り、俺を囲む。

 背中に固い感覚。振り替えって見てみれば、それは教室の棚だった。逃げ道はないらしい。


 そして残念なことに、騒ぎに気が付いたクラスメイト達は誰も俺を助けようとしない。薄情だとは思うが…まぁ、俺がそいつらの立場だったとしても何もしないだろう。


「並家ク~ン」

「遺言は~」

「あるかなぁ?」


 拳をポキポキ鳴らす非行少年達の視線が怖い。ここは部屋の一番奥の中央だ。出口までは教室の半分程度の距離。諦めた俺はその場にへたり込む。


「ん?」


 カタッ、と音がして、床へ目を向ける。

 そこには自分のスマホが落ちていた。そう言えばさっき、ズボンのポケットの中に入れたんだった。


 目に入ったのは、閲覧しようとしてた画面だ。


「うっしゃッ…」


 それを見て、喜びの声を漏らす。って、そんな場合じゃなかった。


「無視してんじゃねぇぇえ!」

「あ、ちょっ、まッ…!」


 拳が振るわれそうになり、焦って両腕でガードに移る。


 しかし。


「えっ…」


 突如として、視界の下が青く光る。

 俺と同じく不良達も困惑している様子で、動きが止まっていた。真下の床へと視線を下げる。そこには曲線と複雑な文字のようなものの羅列。どちらも青い光によって形作られていた。

 そう、それはまるで。


「これ、魔法……陣じゃ――」


 言い切る前に、俺は姿

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る