色に、まつわる色々（いろいろ）

色に、まつわる色々（いろいろ）

　シンディー・ローパーの『Ｔｒｕｅ（トゥルー） Ｃｏｌｏｒｓ（カラーズ）』が流（なが）れた。喫茶店（きっさてん）、というか食堂（しょくどう）も兼（か）ねている馴染（なじ）みの店（みせ）で、いつも昔（むかし）の曲（きょく）ばかりが掛（か）けられている。この曲（きょく）は好（す）きだから、私も彼女も不満（ふまん）はなかった。

「『あなたの、本当（ほんとう）の色（いろ）を見（み）せることを恐（おそ）れないで。その色（いろ）は虹（にじ）のように美（うつく）しいから』……いい曲（きょく）だし、いい歌詞（かし）よね」

　彼女がそう言（い）って、私も同意（どうい）する。ＬＧＢＴの当事者（とうじしゃ）として、この曲（きょく）には何度（なんど）も励（はげ）まされたものだった。

「心（こころ）は虹（にじ）色（いろ）ってことかしらね。人間の心（こころ）って、はっきり区別（くべつ）できるものじゃないよ、きっと。心（こころ）の中（なか）には色（いろ）んな要素（ようそ）があるの。多様性（たようせい）の時代（じだい）って言（い）われてるけど、それは心（こころ）の中（なか）の多様（たよう）さを受（う）け入（い）れる時代（じだい）ってことじゃないかしら。私に言（い）わせれば、異性（いせい）愛者（あいしゃ）も同性（どうせい）愛者（あいしゃ）も大差（たいさ）は無（な）いわ。ただ、好（す）きな人（ひと）と幸（しあわ）せになりたいだけよ」

　つい熱（あつ）く語（かた）ってしまって、彼女に微笑（ほほえ）まれる。こういう幸（しあわ）せを色（いろ）で表（あらわ）せば、きっと暖（だん）色（しょく）系（けい）なんだろうなぁと思（おも）った。

　週末（しゅうまつ）、彼女とジムで過（す）ごす。隣（とな）り合（あ）ってランニングマシンで走（はし）る時間が私は好（す）きだ。ジョギングと違（ちが）って天候（てんこう）に左右（さゆう）されず、冬（ふゆ）の寒（さむ）さとも夏（なつ）の暑（あつ）さとも切（き）り離（はな）されて、お互（たが）いの呼（こ）吸（きゅう）音（おん）だけに耳（みみ）を傾（かたむ）ける。運動（うんどう）で上気（じょうき）して、私たちの肌（はだ）がピンク色（いろ）になっていくのが見（み）なくても分（わ）かった。

「ねぇ……今晩（こんばん）、家（いえ）に来（く）るでしょ？」

　走（はし）り終（お）えて、いつものように彼女が言（い）う。うなずいて同意（どうい）を示（しめ）した。私たちには、夜（よる）の運（うん）動（どう）も必要（ひつよう）なのだ。

　彼女の家（いえ）で、赤（あか）や白（しろ）のワインを愉（たの）しむ。くるくると視界（しかい）が回（まわ）って、互（たが）いの下着（したぎ）を綺麗（きれい）だと、色（いろ）を褒（ほ）め合（あ）う。私も彼女も笑（わら）い上戸（じょうご）で、世界（せかい）はとってもカラフルになる。女性（じょせい）同士（どうし）だと色（いろ）のオシャレには拘（こだわ）りがあって、今日（きょう）はどんな色（いろ）なのかと披露（ひろう）し合（あ）うのが私たちの楽（たの）しみだ。

　やがて私たちは、肌（はだ）も吐息（といき）も桃色（ももいろ）になる。ジムで知（し）り合（あ）った時（とき）から、私たちは隣（とな）り同士（どうし）のランニングマシンよりも近（ちか）い距離（きょり）で、互（たが）いの息遣（いきづか）いを聞（き）きたく思（おも）っていた。今日（きょう）も私たちの色（いろ）は溶（と）け合（あ）って一（ひと）つになる。