帝国乙女戦記

@Teruro

 帝都シィヴィの中心、皇帝宮を取り囲む行政区から放射状に伸びる八つの大道路。その東端に校舎を構える紅蒲公英女学園。明日に入学式を控えた入寮日となるこの日、校門前には次々と魔導車や馬車が並び、新入生とその保護者達が集っていた。

 紅蒲公英女学園はベルドアド帝国内でも良家令嬢が主に通う、いわゆるお嬢様学校である。その為に今日は帝都警察が気合を入れて警備に就いていた。

 黒地に薄紅の装飾が入った気品ある真新しい制服を身にまとい、少女達は期待と不安が混ざった表情を浮かべている。そんな初々しく緊張した姿に、女性警官達の表情も心なしか穏やかに感じられる。

 しかし沈黙が辺りを包み込んでいく。その爆心に目を向けた警官隊の顔に、明確な緊張が走った。

 周囲の視線を集めながら、校門前に黒塗りの魔導車が止まる。

 黒が尊ばれるベルドアド帝国では、黒塗りの魔導車や馬車は珍しくないどころか、ありふれている。

 しかし血のような赤で皇帝紋を飾る魔導車となれば別である。

 民衆にとってもあまり印象の良い組織ではないのはもちろん、警官にとっては対立組織である憲兵隊の車だからだ。全員が何らかの厳しい視線で見詰めるのは仕方のない事だ。

 その魔導車から一人の少女と彼女の従者が降りてくると、ほぼ全員が彼女に憎悪にも似た視線を突き刺した。

 真新しさが見て取れる制服から新入生である事は間違いない彼女が、昨日起こった皇女暗殺未遂事件の容疑者であろう事を察したからだろう。

 もしその視線に攻撃力があったなら、跡形もなく消し飛んでいそうな重圧の中、少女は一瞬顔をしかめただけで、むしろ太々しい態度で無視を決め込んだようだ。従者から荷物を受け取ると、気持ち大きく一歩を踏み出した。

(私に後ろめたいことなど無いのだから背は曲げるな。胸を張れ!)

 自身をそう叱咤しながら、少女は足早に門を潜る。

(しかしーーどうして、こうなってしまったのだろうか?)

 心の中でそう呟きながら、皇女暗殺未遂事件の容疑者という、稀有な二つ名を貰うことになったシータ・リーゼはこれからの学園生活に不安を抱かずにはいられなかった。

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