第3話 ステータスとかあると思うじゃん?

 アイリーンは憂鬱だった。


 転生したのだと気づいてから知識を詰め込み、剣術を磨き、実践を経験していき、いかに冒険者として実力をつけるのかを目的として悔いなく生きていこうと固く決意していた。せっかくの異世界転生、この世界を楽しむために自分自身の力を上げることで自由が広がる。三十五年生きてきて学んだことは何をするにも積み重ねが重要だという事。そして、その積み重ねを始める時期が早ければ早いほど未来は明るい。


 苦労は早めにしろってことと、楽に稼げる(強く)ことはないってことだ。



 またとないチャンスだと思った。三十五年間特に山もなければ谷もない人生で、自分のやりたいことも見つけらずただ淡々と会社員として過ごす日々。進まない日々、進もうとしない自分。進まなければ後退していくだけ。そんな人生から抜け出せると思った。ただ美女とイチャイチャするという夢は儚くも生まれた瞬間に散っていたのだが・・・・・・。まぁそれはそれである。女の子なら、セクハラはたぶん合法だ。あれやこれを触り放題・・・・・・。やべ考えてたらよだれでてきた。


「アイリーン・・・・・・なんで君はそんなに悪い笑顔をするんだろうか。社会的微笑といっても将来どうなるか心配だよ」


 お父様は心配性だが当たっている。おれも自分の将来が心配だ。男という意識が抜けぬまま成長するのか、どうなのか気になるところだった。とは言っても心配しても何一つ解決はしないのでこの世界の言葉を理解することに注力した。 


 言葉を理解し、話せるようになったのは2歳。かねてからおれは確かめたいことがあった。誰も見ていない聞いていないときを見計らって試す。




「ステータスオープン」




 特になにも起きない。次は手を使いウインド画面を開くようなしぐさをするがこれまたなにも起こらない。




「スキル確認」


「開け」


「いでよステータス!」


「状況確認!」




・・・・・・。




 最近の異世界転生って自分のステータスが確認できたりするんじゃないの?


 転生したから特別なスキルを持っているとか、こう自分の能力をみれる的なのがあるんじゃないの?


 2歳になってからこの子は天才で魔力総量が人より二倍以上あるとか言ってたのは何を見て言っていたんだと疑問に思った。魔力総量という概念があるからこそ、自分自身のステータスを確認する術があるのだと推理するに至った。魔力総量が人より二倍以上あるというのは同じ村で子供たちに勉強を教えているというグレッグさんからお父様に伝えられた。お父様はたいそう喜んでおられたが、おれはまだ魔術も使えなかったので実感がまるで湧かなかった。だから、試した。


「いでよ! 炎!」

「・・・・・・」


 なにも起こらないし、自身に魔力が流れているというのも視認することができなかった。

 まぁ人生そんなうまくいくわけないし、ステータス確認とかってゲームの中の話だよな能力って結局自分で努力して体鍛えて、勉強して身に着けるものだし、人生甘くないよな。


 そう思ったのが2歳のときで、憂鬱の始まりだった。ここからおれはたくさん本を読み、親の目を盗んでは実践し、たまに妹の体を触りまくりを繰り返していた。


「魔術を起動するにあたっては魔力を集める道具、そして起動する術式を記述するもしくは詠唱することが魔術を起動する基本であり、土台か・・・・・・」


 家の中には魔力を集められるような杖は見当たらない。お父様は剣術の修練ばかりで魔術をまるで使わないのでなにを魔術を起動する媒介としてるかわからない。まぁとりあえず庭に落ちている枝でも使うか。


「ふぅーー。魔法というと杖を前にだして呪文を唱えるって感じだよな。よしっ!」


 お母さまは妹のエミリーの世話で忙しく、お父様はでかけている。庭にはおれ一人。基本魔術という本を開く。


「火を灯せ《ライト ア ファイア》」


 ぼぅっ!!! と小さな火が現れ持っていた枝を燃やす。おれが想像してぐらいの火がでてきた。


「おぉぉお! これだよ!」


 ステータスとかあると思うじゃん?

 そんなのなくたって魔法が使えれば楽しいんだ。


 嬉しくて魔術をたくさん試しているとお父様に見られて、「この子は本当に天才だ!!!」 と小一時間ちやほやされ、村に天才が現れたと一瞬にして広まった。


 いま思えばこれまた憂鬱の始まりだった。

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