第2話 見えてきたのは剣と魔法の世界らしい
目を覚ますとみえてきたのは見たこともない景色。というのも目を開けているはずだが、ぼやけていて自分がどこにいるのかどういった状態なのかわからない。体も自由に動かせない。話している言語も日本語ではないだろう。何を話しているのか理解できない。ただ自分がさきほどまで女子高生を助けようとしていたこと。車に轢かれたことは覚えている。とりあえず自分がどういう状態か確認しないと。あぁでも眠たいし、なんだかよくわからないけれど、持ち上げられて背中をたたかれる。
あれ? おれの体小さい? 持ち上げられてるけど? 背中叩くなよ。痛いよ。
「ううぅ・・・・・・」
音が漏れる。おれが新たな世界への初めての叫びだった。
──────
言葉も理解できるようになったのは1歳過ぎてから、さらに記憶に定着するようになったり、自身で言葉を発するようになるのには2歳を過ぎた。これでも親からは「天才だ!」とか、「この子は魔女よ!」とか言われて、恐れられたりちやほやされたりした。そしておむつを替えているときに、いやおしっこをもらしたときに気が付いた。やけに股がスースーするなと。短い手では、自分の大事ないちもつのある部分まで届かない。どうにかこうにか足を動かすことで確認するが、いっこうにぶつを確認することができない。あぁやっぱりそうなんだ。「この子は魔女よ!」って言われたことを認識してから疑問だった。
魔女?
いやおれ転生したら女の子になってるじゃん。35歳だったおれ女の子じゃん。
これには少々立ち直るのに時間がかかった。笑わなくなったおれを両親はとても心配し、同じ日にうまれたオースティン家に何度も通った。別にオースティン家が医者ってわけじゃないんだけれど、心配だから誰かと一緒に過ごしたかったんじゃないかとおれは思う。オースティン家にはヴェンという男の子がいる。
そしてなにより、おれが転生した日。生まれたのはおれだけじゃなかった。どうやらおれは双子の姉妹の姉らしく、さらに同日オースティン家の次男のヴェンも生まれた。生まれたときから三人一緒なのだ。妹の名前はエミリー・ロクサスという。この子はものすごく可愛い。2歳だからかもしれないし、身内だからなのかもしれないが、とんでもなく可愛いのだ。姉だからどんなに触っても怒られない。双子の姉妹最高。男だった記憶はあるが、せっかくの異世界転生、女の子で成り上がってやろうじゃないか!
意外とすぐに立ち直った。
「エミリーは可愛いねぇ」
いつもの通り、顔をぐりぐり触っていた。
「ねぇね! ヤダっ!」
たったったた・・・・・・
ぐりぐりしていた手をふりほどかれ、たぶん母の元に走っていったのだろう。おれの妹ことエミリー・ロクサスは普通の女の子である。普通のというと少し違うが、転生者ではない。言葉を話せるようになってから、もしかして同じ日に生まれたということは妹も転生者なのでは? と思い話しかけたが会話にならなかった。なお、今も会話にはなっていない。暇だから、魔術書でも読むかと思い小さいからだを動かす。
「よいしょっと」
「アイリーンはおじさんみたいに体を動かす前によいしょって言うよね。本当に2歳の女の子なのかな」
おれは背中から両手でつかまれ、そのまま屈強な体の男に抱きかかえられる。
「あぁでも可愛い。可愛すぎるよアイリーン」
この男はおれの父親トラウト・ロクサスである。この村の村長であり、元騎士団長だ。
「痛いです。お父様」
「おっ顔に掻き傷があるな。またエミリーのこといじめて仕返しにあったのかな? アイリーンのほうがお姉ちゃんなんだからあんまりいじめてはだめだよ。まずは傷を治さないと」
父は左腕でおれを抱きかかえながら、右手の中指にはめている指輪を傷に向ける。
「回復せよ《ヒーリング》」
唱えるとおれの顔にあった傷はみるみるうちに治っていく。
「お父様ありがとうございます」
「アイリーンは大事な娘だ。傷一つ残しちゃいけない。アイリーンは天才だからすぐに魔術が使えるようになるかもしれないけどね。なんか難しい本も読んでいるらしいじゃないか。エミリーも魔力総量が多いけれど、アイリーンはさらに魔力総量が多いようだからね、きっとすごい魔術師になれるよ。まぁ魔術も大事だけど、父さんの剣術もマスターしてほしいから、一緒に修練に行こう。もちろんアイリーンは見てるだけだけどね」
おれはだまってうなずく。うずうずしてしょうがないのだ。ラノベでしか知りえなかった世界が目の前にあるのだ。
そうここは剣と魔法の世界なのだ。
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