色彩・色2

飛水 遊鳳

 今日の空は何だか空想的、あまねく非現実感である。

 湿っぽい黒灰色の雨雲の塊や刷毛を引いたような筋雲、飛行機雲に積雲などがさまざま折り重なって雑多になり、果ての遠くにはラムネ色の東空に油絵具で塗り固められたような錫色の積雲が壁画のごとく佇んでいた。

 確かに、入り組んで混雑した情景は、妄想上に散らされた創作にも捉えられなくはないが、私がこのように感得したのは今日の下校時の出来事にあるだろう。

 地下鉄ホームから環状線に乗り換えようと、ステーション内を移動して、いよいよ目的の線へと階段を下っていこうとした時、彼がいたのである。彼は階段の前で「すいません」と手助けを求めているようだったが、そのか細く弱い声は聞き過ごしたり、そのようなフリをするのに充分なほど些細であった。私も大勢と同じように通り過ぎたひとりだったのだが、紙袋を提げた、刈り上げ頭の彼はどうにも忘れがたく、心にわだかまった。

 一旦は帰路のプラットホームまで至ったものの、やはり気になって、来た道を戻って彼を確認し居るならば助力しようと思った。無視したのだから自身の道理に反したような気がしなくもないが、そういうドラマティックな経験はしておいたほうが得にもなると感じていたのかもしれない。結局、彼は既にそこから去っていたが、あれだけ人通りが多く、彼も声をかけ続けていたのだ。誰かが手を差し伸べたろうと思う。

 私も一切の躊躇なく、こういうことに突っかかれる性分であったら、多少の恰好はつくのだろうか。

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