~配信ポイント、ゲットだぜ~
眠っている間にポイントが付与されていた。
その数字は――
「2700ポイント……」
これは、果たして多いのか少ないのか。
比較対象がいないので、どうにも判断ができない。
「初期値が1000ポイントあったから、悪くはない結果だと思うけど」
ゲームバランス的にはどうなんだろうか。
ボクはスキル画面を開いてみる。
ウィンドウに並んでいるのは、昨日に取得したスキル。そのどれもがレベル0であり、全てが初期状態だ。恐らくだが、今は何の効果も恩恵もない。
もっとも。
パッシブスキルかアクティブスキルなのかも分かってないけど。
「う~ん」
レベルを上げるにはポイントが必要らしいが……
試しに【ウェポン・クリエイター】を選択してみる。
ウィンドウにウェポン・クリエイターという文字が大きく表示され、現在レベルである0ということも記されていた。
そこに現在ボクが持っている3700ポイントも表示されている。
「レベルをあげるには……これか」
スキルレベルの横に上向きの三角形があった。
それを押してみると――レベルが1となり、ポイントが3600に減る。
ボクはそのまま三角形を押し続けると――
「レベル5までか」
手持ちの3700で上げられるスキルレベルは5までだ。
どうやら、途中から必要なポイントは跳ね上がるらしい。当たり前といえば当たり前だけど。
「これを考えると……まぁ、そこそこ妥当なポイントをもらえた、と考えるべきか?」
果たしてレベル5にどこほどの恩恵があるのか分からないので。
決断はできそうにない。
とりあえずスキルレベルはキャンセルしておき、シルヴィアに声をかけた。
「おはよう、シルヴィア。起きてる?」
『おはようございます、ムオンちゃん。私はAIなので寝ていませんよ』
なんかシルヴィアは眠そうな表情をしているので、寝ていても不思議じゃないんだけど。
やっぱりAIなので寝てないのか。
システムメンテナンスっていう感じで寝ていても不思議じゃないけどね。
「教えて欲しいことがあるんだけど。昨日の配布ポイントで一番ポイントが多かったプレイヤーを教えて」
『昨日、一番ポイントが多かったプレイヤーは【EVA_NOVA】です』
ん?
やけに発音が良かったけど……
「もしかして、外国人?」
『はい、そのとおりです。プレイヤー【EVA_NOVA】はアメリカから登録されたアカウントでプレイをされています』
そうか……そうだよな……
世界的なメーカーが集まって作られたゲームだ。プレイヤーが日本人だけなわけもなく、海外にだって大勢のプレイヤーがいる。
ボクの知らないVtuberだってたくさんいるだろうから、【EVA_NOVA】っていうプレイヤーが物凄い登録者数を誇っていてもおかしくはない。
世界規模で有名なVtuberだったら、初めから注目を集めていても不思議じゃないし、ポイント数がトップになってもおかしくはない。
「ちなみにそのエヴァノヴァさんって何ポイントだったの?」
『具体的な数字は公開されていません』
そうか。
「じゃぁ、日本人の中で一番のプレイヤーは?」
『地域【日本】から登録されたアカウントで一番ポイントの多かったプレイヤーは【左良井るく】です』
左良井るく。
聞いたことがある名前……というか、トップVtuberじゃないか。
企業所属のVtuberで、登録者数は200万だったか、300万だったか。いや、一桁足りてない可能性もある。
なんにしても超有名人でテレビとかCMなんかにも起用されたVtuberだ。ゲーム実況などもやっていて、歌ったり踊ったりイベントがあると盛り上がっているのを良く目にした。
どうやら左良井るくも、このゲームの中にいるらしい。
「いっしょに街に落ちていたら会えたのか」
別にファンだったわけじゃないけど。
もしも会えるんだったら、一度は会ってみたいものだ。
なにより、このゲーム世界だとアニメみたいに見えるわけで。
きっと、本物よりも本物らしい左良井るくに会えたと思う。
「まぁ、納得のトップってわけだなぁ」
もともと登録者数が多かった彼女だ。
こんな状況でも、きっとファンは彼女を応援してくれるだろうし、企業所属だから助けが――
「んん?」
『どうしました、ムオンちゃん』
「左良井るくは企業所属のVtuberでしょ。だったら、その企業が助けてくれそうなんだけど……」
いくらなんでもゲーム世界に閉じ込められて、外部から配信を見られている状態だとしたら。
ぜったいに通報とか助けとか。
そういうのがありそうなものだけど……
『外部からの接触はありません。この世界は単一で完結しております』
「どういうこと?」
『外部サーバーとの接続は有りません。スタンドアロンで実行されており、その状況が各部配信されております。ムオンちゃんは気にせず、引き続きゲームをお楽しみください』
またしてもシルヴィアではなくゲームマスターが答えたようなニュアンスがあった。
それはさておき――
「スタンドアロンなのに配信? 矛盾してない、それ?」
外部と繋がっていない状態で配信されている。
それって不可能な気がするんだけど。
『ムオンちゃんは気にせず、お楽しみください』
「シルヴィア。君はボクの味方?」
『もちろんです。あなたの不利になることはしません』
「……」
『言いたいことは言ってください、ムオンちゃん。目は口ほどに物を言うのは、3Dアバターでは実装されておりませんので』
「お見通し、じゃないか」
『ふふん』
いや、褒めてないけど。
無表情で自慢気な声とか出さないで欲しい。
「じゃぁ、言わせてもらうけど。この世界から脱出したいんだけど?」
『――よろしいのですか?』
「……」
むぅ。
そう言われると……ちょっと考えてしまう。
ボクは引きこもりでずっと部屋の中でゲームばっかりして生きてきたわけで。
むしろ、こんな外に出て自由に活動できていることは記憶にないくらいだ。
この状況を喜ばしいと思っているのも事実。
いきなり与えられた自由。
不自由だけど、不自由じゃないっていうのかな、
それを捨てられるか、とシルヴィアに暗に言われているような気がした。
「シルヴィア。君はボクのことを知っているの?」
『個人情報へのアクセスは許可されています。必要であれば、すべてを閲覧できる権限が私には与えられています。ムオンちゃんの情報を読み上げましょうか?』
「いらない。それはボクが一番良く知っている」
ボクは、はぁ~、と大きく息を吐いた。
「ちなみに。終わらせてくれ、と言ったら終わるの?」
『いいえ。私にその権限は与えられておりません』
でしょうね。
なんとなく分かってた。
『素直にゲーム生活を楽しんではいかがでしょうか、ムオンちゃん』
「そうかもしれないし、そうじゃないのかもしれない」
なんとも判断ができないところだ。
「とりあえず、サバイバル生活を続けるしかなさそうだ」
他のプレイヤーは街に集まって解決方法を探してくれているかもしれない。
有名Vtuberがいるんだったら、外部から何らかの方法でアクセスを模索してくれている最中とも考えられる。
元より、人間がゲーム世界に入り込んでいる時点でおかしな話なんだ。
このゲームを動かしているスタンドアロンのパソコンか何かの電源が落ちれば、すぐさま外に出られる可能性だってあるわけで。
「ボクがどうこう動く必要はないか」
そういう難しいことは街に落ちたプレイヤーたちに考えてもらって。
ボクはせいぜい、このサバイバルでスローライフ的なゲーム生活を楽しむ方が良いのかもしれない。
「むしろ、せっかくのゲームなんだから『プレイ』するっていうのも有りか」
『有りよりの有りですね』
余計な茶々を入れてくるAIをギロリと睨みつつ、ボクは湖で顔を洗った。
別に顔を洗う必要はないんだろうけど。
なんとなく朝の儀式のようなものは必要な気がして。
「歯ブラシも欲しいし、お風呂にも入りたいな」
別に歯を磨いたりお風呂に入らなくても大丈夫なのは分かってるけど。
無いって思うと、無性に欲しくなるのが人間ってものだ。
「そういう意味では、お米が食べたい」
今は大丈夫だけど。
そのうち絶対に食べたくなるのがお米だと思う。街とかに行けば売ってるのかもしれない。できるだけ早く辿り着きたいところ。
「あ」
なんて思っていると人魚のシレーニが顔を見せた。
「おはよう、シレーニ」
ぱくぱくと泡となって消えるシレーニの言葉。でもきっと、おはよう、と言ってくれたのは分かった。
同時に、また魚を一匹取ってくれたみたいでありがたく受け取る。
「このままシレーニのクエストを進めなかったら、永遠に魚をもらえるんだろうか……」
そう言ったら、シレーニが怒った顔をした。
「ごめん、嘘です。塩が欲しいので、ぜったい海に行きたいし、行くつもりです。はい、クエストは必ず進めますので」
こくこく、とうなづくシレーニ。
許してもらえたようで、なにより。
魚を持って拠点に戻ると、消えかけていた焚き火に枝や葉っぱを追加して、ふぅふぅ、と息をかけた。
ぼぅ、と火がついて一安心。
魚を礫器でさばいて、枝を通し、火の近くに立てる。
焼けるまでの間に葉っぱの器に湖の水をくんで、これも沸騰させておく。
「あとは――」
ちょっと思いついたことがあるので、森の中に入った。
目的は木の実。
リンゴとか分かりやすいのが有ればいいんだけど、早々そんな良い果物が見つかるわけがない。それこそレモンでもあれば、本当は最高なんだけど……
「これとかどうだろう?」
見つけたのは、赤い小さな実。
ナンテン?
ちょっと違うと思うけど、なんかそんな感じの実があったので、採ってかじってみる。
「にっが!?」
おえええ、と吐き出し、ぺっぺっぺ、とツバを吐いた。
『おめでとうございますシズカ・ムオン。【鑑定士】の称号を得ました』
「ん!?」
鑑定!?
「毒見とか、そういうのじゃなくって?」
『鑑定ですよ、ムオンちゃん。毒見のスキルはありません』
無いんだ。
「いや、でも鑑定のスキルはありがたいかも。アイテムの名前とか効果が分かるのはデカい」
未知の植物も食べられる物とか分かるかもしれない。
よし、これは便利なスキルを手に入れたぞ。
さっそく――
「ん? そういえばスキルってどうやって使うの?」
『スキルとは、言い変えれば技です。使うのは自分自身の能力ですよ、ムオンちゃん』
「えっと、つまり?」
『ゲームじゃないんですから、スキル名を言ったりして発動するわけがないじゃないですか』
「ここゲームの世界でしょうに!」
なんだよ、もう!
期待だけさせておいて、結局は『スキル』じゃなくて本物の『技術』じゃないか、やっぱりぃ!
「はぁ~ぁ」
『落ち込まないで、ムオンちゃん。大丈夫です、レベルを上げればそれなりに効果が発揮されますよ』
「ホントかなぁ……?」
でも、鑑定スキルは重要だ。
この先、どんなことがあっても不必要になるようなスキルじゃない。エリクサーとは違う。たとえ街に辿り着いたとしても必要だろう。
「よし、せっかくだしスキルレベルを上げてみるか」
スキルウィンドウを表示させ、鑑定の項目をピックアップさせる。
「とりあえず……レベル1にしてみるか」
ポイントを100消費して、【鑑定】スキルをレベルを1にしてみた。
「確定、と」
『【鑑定】スキルがレベル1になりました』
シルヴィアと同じ声でアナウンスが聞こえた。
「スキルは使うものじゃないってことは……鑑定なんだから『視』ればいいのかな」
さっきの赤い実をじ~っと見てみる。
すると――
「おっ!」
ウィンドウが表示された。
アクティブスキルっていうか、意識と行動に反応する感じか!
なるほどなるほど。
「で、内容は……」
ウィンドウに表示された赤い実の説明は――
「不確定名称『赤い実』。説明、食べると苦い……それだけ?」
『さすがスキルレベル1ですね。単なるメモです』
「ちくしょう!」
ボクは持ってた赤い実を思いっきり投げた。
なんだこのゲーム!
めっちゃ難しいじゃないかぁ~、もう!
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