好きって難しい?

川木

好きって難しい?

「しつもーん、この花を塗るとしたら何色にしますか? 赤、青、黄色、ピンクから選んでください」

「え、急にまた心理テスト? 前田、本当にそう言うの好きだね」


 放課後、授業が終わったので帰ろうと廊下を歩いていると急に高校に入学してからの付き合いで隣の席の前だが、ぐいっとスマホ画面を見せながら質問してきてから私の言葉にむーっと頬を膨らませた。子供みたいだ。可愛いけど。


「いいじゃん。山田は嫌いなの?」

「嫌いじゃないけど苦手、かな。特にそう言う質問、何色にすればいいのかわからないし」

「えー、好きな色で選べばいいだけじゃん。どーんないろーがすき? なんてね。この四色には好きな色がないとか?」

「と言うか、好きな色っていうのがよくわからないかな。嫌いな色ってないし、例えば服なら組み合わせとか季節で選ぶ色って変わるし、一つに選ぶのって難しくない?」


 好きな色、好きな食べ物、好きな教科、なんて自己紹介で簡単に言う人がいるけれど、どんなものにもいい面と悪い面がある。どれか一つだけ、他の追随を許さないほど明確に好きってどうやって言えるのだろう。


「えー、山田、頭かたすぎない? そんな意見初めて聞いた。こわっ」

「じゃあ、前田は何の色が好きなの」

「私は黄色かな。この間一緒に買い物行った時、私黄色の傘買ってたでしょ? こう、目に入ると気分が明るくなるって感じ? お気に入りの色っていうか、テンションがあがる色。そう言うの一つもない?」


 その言い分に私は考えてみる。見るだけで気分が明るくなって、憂鬱な雨の日でもテンションがあがる。それはどう考えても一つしか思い浮かばない。


「前田、かな」

「は?」

「私が見るだけで嬉しくなるの。前田を見ると嬉しいし、明るい気分になるよ。でも、前田は一色じゃないから好きな色っていうのはおかしいし」

「い、一色とかそう言う問題じゃないでしょ。おま、ほんと、もー。そんな難しいこと言ってないじゃん? その、パッと見て好きか嫌いか、どっちがより好きかって、そんだけの話だって。直観だよ直観」


 真面目に答えた私に、前田は顔を赤くするとバンバン私の腕をたたいてきた。私はそんな前田の腕をつかんでおろさせ、前田の進行方向の壁に手をついて足止めさせる。

 ぎょっとして立ち止まり振り向いた前田に顔をよせ、人に聞こえない声で尋ねる。


「そんだけの話なら、私のことが好きかどうかも、そろそろ返事が欲しいんだけど?」

「!? そ、それはー、また別の話じゃんかぁ?」


 前田は真っ赤になってうつむいてしまった。五月のGWの時に告白してから、一か月以上たっている。急かすつもりはないけど、たまにはこうして言っておかないとなあなあで流されたら困る。

 それに、最初告白したときは驚くばかりだったけど、今はちょっとは違う反応みたいだし、まあ今はこれでいいか。


「そう? 私にはよくわからなくて。……まあ、ちょっとは意識してくれてるみたいだしいいけど」

「い、意識って……そりゃ、それくらいはするでしょ」


 私が腕をおろすと、前田はむすっとした顔で睨んできたけど、まだ頬も赤いし、身長的に下からなので上目遣いで可愛いしかない。


「で、なんだっけ。前田は黄色? 黄色だとその心理テストはなになの?」

「えっと、これは何を我慢してるか、本当は何をしたいかがわかるやつで、私の見たらネタバレになるからまだ見てないし、早く選んでよ。黄色以外だと赤と青とピンクだから」

「はいはい、じゃあピンクで」


 とりあえず最後のピンクを選ぶ。もうどんな花の絵だったかも覚えてないけど、直感でいいなら適当でいいだろうと答える。こういう心理テストが好きなところも、乙女っぽくて可愛いとは思うので、付き合ってあげることにする。


「ん。じゃあ答えね…………、やっぱなし。次の問題いくよ」

「は? ちょっと見せて」

「あっ、てめっ、人のスマホとるとか信じらんない!」


 歩き出しながらスマホにまた目をやって、しばらく読んでスクロールさせてから収まりかけた頬の赤みが復活したので、私は体格を利用してスマホを取り上げる。前田は腕をのばしてくるけど、その肩をつかんで反対側にスマホをかかげながら読む。


「えっと」


 青は知的なコンプレックスがあり、賢いと思われたい。赤はオシャレやメイクをしたくても我慢してしまい、本当は可愛く思われたい。なるほど?

 黄色は本音でのやり取りを我慢していて素直になりたい。ピンクは好きな人の前では委縮するから心から恋を楽しみたい、と。


「……これ私はあたってるっちゃあたってるけど、前田は?」


 私は別に委縮はしていない。素直に気持ちを伝えている。でも、前田が保留にするから遠慮しているのは事実だ。もっと、前田と恋をしたいと思っている。だからある意味当たってはいる。

 こんなものは誰にでもあてはまるものだったり、全然適当でとりあえず話のタネになるならそれでいいくらいの、いい加減なものがほとんどだと思ってる。

 あたってもはずれでも、大して気にすることじゃない。なのに、前田は今これを読むのをためらった。


 つまり、前田は自分が素直に気持ちを言ってないと自認していて、かつ、それを私には知られたくないと思ったと言うことじゃないのか?

 それは、少しは期待してもいいのか。都合よく前田の心を想像してしまう。


「……知らない。心理テストなんて、こじつけだし」

「えー、前田から言い出したくせに」

「うるさいなぁ。いいから返して、ドロボーじゃん」

「はいはい」


 前田は耳まで真っ赤になってうつむいてしまったので、仕方ないからスマホを返す。私を見もせずにずんずん歩き出す前田についていく。

 この調子では、いつまでも返事をもらえなさそうだ。だけど、素直じゃない前田も可愛いから、しばらくはいいか。

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好きって難しい? 川木 @kspan

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