銀髪村娘と砲金のドナーブッセ 外伝 異色の聖女

土田一八

第1話 聖女召喚

 戦乱が打ち続くユーロリア大陸。西部大陸。フリア地方。


 ある日。小さな教会。神前で初老の神父は願った。早く戦乱が静まりますように。


 それから奇跡が起きるようになった。


 神の意志。すなわち啓示が示されるようになったのだ。


 しかし、示される啓示は一つだけではなかったので、啓示の達成に神父はとても苦労した。


「歳はとりたくないものだな…」


 元傭兵だった神父はしんみりと独り言を言った。


 それが、あんな事になろうとは露知らず。


 栄光と挫折。


 畏怖と憎悪。


 慈愛と弾圧。


 羨望と失望。


 希望と絶望。


 始まりと終わり。


 複雑怪奇なつづら折りが始まろうとしていた。



 洗礼の儀式が終わり、神父は聖具を一人で片付けようとした時だった。


 祭壇に眩しい光が一瞬だけ現れて消えた。黒ずんだ銀色の装丁が施された、一冊の書籍が置かれていた。


「これは…」


 神父が書籍を手に取り、羊皮紙で作られた古ぼけたページを捲ると、それは召喚術を記した魔導書だった。そして最後のページを開く。

「聖女召喚」

 書かれていた短い文章を読んだ時。突然、風が発生してページは一枚ずつ冊子から外れてそれなりの勢いで宙に舞う。外れたページは空中展開をして整然と教会の空間に漂う。そして、白い魔法陣が現れる。白い魔法陣は、聖具の残りである葡萄酒を吸い上げる。かといってこの程度で色が染まる事はなかったが、聖水とパン、祭壇に祀られた花のみならず花瓶の水そして火が付いている蝋燭すらも白い魔法陣は吸い上げた。最後に魔導書の装丁すらも魔法陣に吸い込まれたのだ。


 神父は驚きのあまり、身動きできず声すら出なかったが、魔法陣はそんな事にはお構いなく無遠慮に一瞬白く輝いてからクルクル回り出した。すると、奥からこれまで啓示に従って集めた品々が独りでに魔法陣へと次々吸い寄せられていく。


「これは、神の啓示なのか?」


 魔法陣への吸い込みが終わり風が収まると、神父はやっと口をきく事ができた。


 魔法陣は激しくクルクル回っている。夕方を過ぎて夜になったが、激しい動きは一向に収まる様子がない。


 結局、一晩。神父は寝ずに過ごした。


 朝日が昇って来た頃。魔法陣はようやく動きが緩慢になり、やがて静かに停止した。そして魔法陣は光きらめき、光の幕を下ろす。


 全ての光が消え、同時に魔法陣も消滅する。が、一人の少女がポツンと祭壇の前に立って現れた。


「ご機嫌麗しゅう。我が代父」


 幟が付いた槍を手にし、甲冑姿の金髪碧眼美少女は、微笑んでそう言った。


                                 つづく

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