結婚記念日

千葉 藍

結婚記念日

今日、八月十五日は彼との結婚記念日。


二周年の今日は藁婚式わらこんしき綿婚式めんこんしきと呼ばれるらしい。


なんでも、夫婦の関係が藁や綿のように弱い新婚の時期を表しているそう。


彼は毎日仕事で忙しいと言いながらも私を優先してくれた。


毎日彼は顔を出してくれるし、身の回りの掃除もしてくれる。


そんな完璧な彼を見てきて私の目に狂いはなかったと毎回自分に自慢する。


悦に浸っていると彼がお酒の支度を終えたようだ。


私の前に彼は屈み、乾杯も言わず呑み始める。


まだ二回しかしていないが、結婚記念日は思い出語りが恒例行事となっている。


彼は懐かしみながら話していた。


野球観戦で一緒に迷子になっただの、変な宗教に勧誘されただの、彼は他愛もない話を続けた。


少し上を見ながら


「みらいは花が好きだったなぁ」


と彼は口を開き、スーツの中から封筒を取り出す。


彼が封筒を開けると一枚の写真が入っていた。


………私だ。


あたり一面のひまわりを背景に白いワンピースを着て笑顔でピースをしている。


覚えている。


これは去年の結婚記念日で訪れた場所だ。


「今年も見に、行けると、思ったん、だけどな」


少し間を開けて、彼が声を絞り、俯く。


写真を持つ手が震えている。


雫が落ちる。


「地味な、花ばっかしか、見せられ、なくて、ごめんな」


そう言って彼は私の前で声を殺して泣いた。


私からはもう、菊や百合しか見えない。


ごめんなさい。


私はもう美しい花畑を見てしまった。


彼は泣きながら盃の酒をあおり、残った酒を私にかけた。




























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

結婚記念日 千葉 藍 @yasasiiosakana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ