第37話 ジェニの戦闘

 『チェノ』まではここから後一日半かかる。

 そのことを地図を見ながらジェニに伝えると、まだ歩くのかと露骨に嫌な顔をされた。

 そしてどこか泊まれる村はないのかとも聞かれた。


 あるにはあるが、野宿には慣れておく必要があるだろう。

 特にこれから旅通しだからのう。


 そう答えるとジェニは「分かったよ……」と少し拗ねた顔をして進行方向を向いた。


「早く着かないかなぁ」

「まあ、なんだ、次街に着いたら馬を一頭買うかの」

「え、本当!? ってかリド爺馬乗れるの?」

「乗れるのう。軍で一通り練習させられたんじゃよ」

「ああーなるほどね」


 そんな会話をしながら太い木に腰掛けていたわしは立ち上がる。

 【気配感知】に飛んでいる魔物の気配が引っかかったからだ。


 気配のする方を見上げるとそこには木の枝に降り立ち、わしらを見定めるように凝視する銀色の鳥が居た。

 目の周りに濃い紫の紋様が見える事から、あれは魔鳥種だと思われる。

 それに加えて銀色という事は、銀魔鳥ぎんまちょうだろう。

 

 完全にまんまな名前だが、あれでもE級。

 この道中出逢った魔物の中では一番強い。

 わしの【威圧】もギリギリ気絶には至らんだろう。期待できる効果は、銀魔鳥の羽を麻痺させる事と怯えさせることくらいか。


 敵意は未だ感じない。観察しているって感じだ。


 わしはジェニの方に顔を向ける。

 ジェニも銀魔鳥を見て立ち上がっている。


 ふむ、いい機会だな。


「ジェニ、戦ってみるか?」

「え……っと、僕でも勝てるかな?」

「勝てる筈じゃ。レベルも上がっておろう?」

「そう、だね。頑張ってみる!」


 そう言ってジェニはダガーを引き抜き、構える。

 すると銀魔鳥はジェニが戦闘態勢に入ったことを認めたのか、『ピィィィ!!』と鳴いて双翼をはためかせた。


「行くよ!! 錬成領域っ!」


 地を蹴り一気に距離を詰めるジェニ。

 すると彼を中心に薄い魔力の空間が広がった。


 錬成領域。

 聞く話によると、その領域内で発動者は生産系スキルを意識するだけで発動可能だという。レベル1の状態では半径1mの領域だが、今のジェニのレベルは5。範囲は半径7mである。


 そして――


『ピィッ!?』


 銀魔鳥の背後の枝が刃物のように変形したかと思うと、音もなく伸び双翼に突き刺さった。


「……ほう!」


 わしは少し目を見開き感心する。


 あれは《植躁魔法》と【形状変質】の応用技じゃな。

 恐らく、枝を【形状変質】で刃物に変えた直後に《植躁魔法》で枝を伸ばしたのか。


 よく環境を利用しておるし、良い機転。素晴らしいセンスじゃ。


 ジタバタと暴れる銀魔鳥。


 すると刃物のような枝は引っ張られたように折れ、あろうことか銀魔鳥を突き刺したまま浮き、急加速して地面に打ちつける。

 地面に亀裂が走り、銀魔鳥は地面に減り込んだ。


 枝が折れたにしてはあり得ない挙動をした。それにただ枝と銀魔鳥が落ちたからと言って地面に減り込むはずがない。

 これは錬成領域のレベル5から解禁される能力――念力じゃな。


 ジェニは動かない銀魔鳥に近付き、ダガーを首元にねじり刺して止めを刺したのだった。


 止めを刺して数秒間は、銀魔鳥が痙攣していたのか押さえつけていた。

 そしてジェニは痙攣が止まったように見えても、荒い呼吸を繰り返しながらダガーに力を入れていた。


「ジェニ……? 大丈夫か?」

「……うん! 僕、やれたよ!」


 振り返ったジェニの顔と前髪には銀魔鳥の血が噴き掛かっており、こちらに向かって快活に微笑むその姿に、わしは少し鳥肌が立つような思いをしたのだった。


「ようやった。まず顔を洗おうか」

「あっ……はい!」


 銀魔鳥から少し離れて、《水魔法》で顔を洗うジェニ。

 それを横目で見ながらわしは皮手袋を外して、銀魔鳥の解体を始める。


 まず《血魔法》で抉られている首元から血を抜かすように促す。

 そしてスライムの体液を入れていたいつもの筒に血を入れる。


 銀魔鳥の血は高価だ。

 なぜならこの血は様々な用途がある。錬金術、鍛冶などの素材になる。加えて、この血を煙幕玉、弾のような物にして使うと吸血鬼やアンデットに効果的なのだ。

 基本的にアンデットや吸血鬼は、銀系統の鉱物が苦手。

 この血には銀が混じっているのだ。


 諸説あるが、血に銀が混ざっているため銀魔鳥と命名されたらしい。


 最後の一滴を二本目の筒に入れ終わると、血抜き終了と見做して羽を丁寧にむしり出す。


 ちらりと横を見ると、顔と髪を洗い終わったジェニが真横でわしの解体の様子を真剣に見ていた。

 丁度いい、解説しながら解体して見せよう。


 というかジェニは解体を見ても吐きそうとか思わないのだろうか?

 わしは初めて解体を見た時吐きそうになったものだが。


 まあいい。


「ジェニ、基本的にE級以上の魔物はどの種も死体のあらゆる所を余すことなく使える。ジェニの【錬金術】がいい例じゃ」

「そうだね、僕だったらこの鳥の骨からでも武器が作れるはずだよ。

 後で骨貰ってもいい?」

「よいぞ。そもそもがジェニの倒した魔物じゃ、全てジェニの物じゃぞ」

「あっ、そっか」


 そんな会話をしながら銀魔鳥の各部位の用途について説明していく。


 羽は高級な羽ペンや羽毛布団、魔力を込めたお守り、魔物召喚陣の素材などに使われる。

 肉、内臓は高級食材。眼球、鳥足、爪は精霊召喚、悪魔召喚に使える。




「流石E級の魔物だね~なんかこう、匂いが凄い」

「そうじゃな」


 解体を終えたわしらは、せっかくなので銀魔鳥を食べることにした。

 一口大に細かく切ってフライパンで塩をまぶして焼き、売っていたタレを肉に絡めパンに挟んでいただいた。


 肉から噛むほど出てくる肉汁が凄く美味い。

 肉汁がパンを伝って舌に届く。

 やはり焼いた肉と干し肉では天と地ほどの差があるな。

 パンが進むこと進むこと。ジェニも夢中で食べていた。


 たまには何か魔物を狩って食べるのもいいなと思った今日この頃でした。

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