第8話

エマが産まれてから2か月近くたち、11月になった。クラウス兄さんも学園の入学試験のために王都に向けて出発した。そして、今日からマティアスも魔法の授業が始まる。


「マティアス様、旦那様から本日から魔法の授業を始めるようにと仰せつかっております。」


「やった!」


ベルタがネルフューア家にやって来てから早7か月。ベルタの授業は難しいが、聞けばなんでも返してくれるので、勉強自体は楽しくなっていた。そして、ついに魔法の授業をしてくれることになった。


「マティアス様はまだ、魔法を使える年齢ではありませんのであくまでも座学です。魔法の基礎知識をお教えします。」


「うん、わかってる。」


そう、僕はまだ4歳で適性検査が終了していない。5か月後にある適性検査が終わるまで魔法は使えないのだ。


「それでは本日の授業を始めます。まずは、魔法とはどんなものだと思いますか?」


「え?うーん…。」


最初から質問され、僕は考え込んでしまう。ベルタの授業はいつもこうだ。最初から僕に問題を出して考えさせる。


「質問を少し変えましょう。今までにどのような魔法をご覧になりましたか?」


僕が答えにくそうにすると質問を変えてくれたり、ヒントをくれたりする。授業自体は難しいがベルタの授業は受けていてわかりやすいし、楽しいと感じるのはこの進め方が理由だろう。


「水を出したり、風を吹かせたり、火を着けたり?」


見たままのことを答えた。


「魔法はそういった魔力を使って自然的な現象を引き起こすことを指します。そして、その自然的な力で分類したものを属性と呼びます。属性についてはご存知ですか?」


属性については昔ラインハルトから聞いたような気がする。


「『火』『水』『土』『風』『光』『闇』の6属性があるんだよね。」


「その通りです。『火』『水』『土』『風』は四大属性と呼ばれ、練習次第では誰でも使える属性とされています。『光』『闇』属性は稀少属性と呼ばれています。この二つの属性が稀少属性と呼ばれる理由は、適性を持つ人間が極端に少ないことと、適性を持たない人間が練習しても『光』『闇』属性の魔法は使えないからです。」


「へぇー。ちなみに、どのくらい少ないの?」


「はい、光属性か闇属性を持つものどちらかがハイルムベルク王国では1年に二人生まれるかどうかといったところでしょうか。そのため、稀少属性持ちは魔法師団の研究協力を条件に、魔法師団からの推薦や学園の費用負担などの待遇を受けられます。」


そういえばこれも昔聞いたことがあった気がするぞ。


「ベルタは何属性なの?」


「私は土属性と風属性です。それでは授業を再開します。」


「はい。」


話が少しそれてしまっていた。

ベルタが仕切りなおして授業を再開する。


「先ほど四大属性は練習次第で誰でも習得できるとお伝えしました。しかし、この習得の速さや度合いには属性の相性があるとされています。」


「相性?」


「はい。火と風、土と水の組み合わせは互いに相性がよく、火と水、土と風の組み合わせは互いに相性が悪いです。適性属性以外の習得のしやすさはそれぞれこのようになっています。」


―――――――――――――――――

火:風>土>水 ・ 風:火>水>土

土:水>火>風 ・ 水:土>風>火

―――――――――――――――――

ベルタが紙を指しながら説明した。


「ここまで説明したことはあくまで基本に沿ったお話です。例外というのは存在しますし、実際はまだはっきりと分かっていない部分もあります。」


「そうなんだ。」


まだ、魔法の属性の話だけなのに知らなきゃいけないことが多くて大変だ。

ベルタはそのまま授業を続ける。


「この属性の習得の相性ですが、私のような複数適性にも適用されると思っていただいて大丈夫です。しかし、適性が複数ある場合は少々複雑ですので順を追って説明いたします。」


そういってベルタは紙を見せながら説明を始めた。


「この話を進めるにはまず適性属性とは何かを説明する必要があります。適性属性が何かはご存知ですか?」


「習得しやすい属性のことでしょう?」


「はい。基本的にはその認識で間違いありません。というより、実際のところそれ以上のことはまだよくわかっていません。今わかっているのは、複数適性がある場合は適性属性の中でも優先順位があるということです。」


「優先順位?」


「はい。例えば私は土と風の属性に適性があります。しかし、どちらも同じくらい上手に使えるわけではありません。私の場合は土属性の方が速く習得できました。とはいえ、適性属性がない人よりは風魔法の習得も速く、上手に使えますが。」


なんだかよくわからなくなってきたぞ。

少し複雑になって来てマティアスは頭が追い付かなくなっていた。


「失礼しました。ここまでは大丈夫でしょうか?」


「最後の方がちょっとよくわからないかな。」


僕は素直にわからないことを伝えた。するとベルタは一瞬だけ考える素振を見せてもう一度話し始めた。


「そうですね、もう少し広い範囲で例えますね。カルラ様は運動が得意だと伺っておりますが間違いありませんか?」


「うん、そうだね。あっているよ。」


「カルラ様には長剣と双剣の才能があり、他の人に比べどちらの扱いも圧倒的に上手です。しかし、カルラ様の中では双剣より長剣の方が覚えるのが簡単だったし、使っていてしっくりくる。というようなイメージです。」


「何となくわかった気がするよ。ありがとう。」


「いえ、少し複雑な話をしましたし、ここからも複雑な話が続きますので今日はここまでといたしましょう。」


こうして、初めての魔法の授業は終わった。

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