世界は色で、できている。

赤目

私の色

 外に出て、大きく息を吸った。空気を肺に溜めて、私も世界の一員になる。そうして、目を開けば鮮やかな世界が広がっている。


 景色は色だ。遠くで朧げに佇む緑の山も、脇道に根付く桃色の花も、燦々さんさんと煌めく真っ赤な太陽も。


 永遠に続くような水色の空だって、そんな空に羽を広げる黄色い蝶だって、雪で覆われた銀世界だって色でできている。


 私はそんな街を目的地もなく歩く。世界は文字通りこんなにも色づいている。活気に溢れたこの街は、一年変わらず色がある。


 季節は色だ。春はピンク、夏は青、秋は茶色、冬は白。季節の流れとともに色を変え、私たちに彩りを与えるのだから。


 歩いていると、いろんな音が聞こえてくる。小学生のはしゃぐ声、車のクラクション、水やりの音に小鳥のさえずり。耳に入ってくる全ての音が、私は生きていると実感させる。


 音は色だ。人の声を声色と言い、楽器の声を音色と言う。歓声の声は黄色い声と、恐怖の声はオレンジの声と形容する。二つ目は真っ赤な嘘。なんちゃって。


 そんなことを考えてクスッと笑う。こんなつまらないことで笑えたら、素晴らしいと思わない?気づけば足は軽やかに地面を蹴っている。感情が、私の気分を作り出す。


 感情は色だ。元気で溌剌とした黄色も、怒りに身を任せる赤も、慈愛に溢れたピンクも、冷静で落ち着いた青も。


 憎悪と嫉妬の黒に、清廉で純粋な白に、安穏と気安の緑。私たちは自分の感情を色で表現する。だから顔色なんて言うのかも。


 公園にあった時計を見れば、家を出てから30分も経っていた。楽しいことをしていると時間はあっという間に過ぎていく。だから私の1日はすっごく短い。でも、楽しい日が明日もやってくる。


 時間は色だ。鮮やかだったものも、時が経てば褪せる。色は経年変化で記憶と共に濃くなって、違う色を見せてくれる。


 野球をしていた子供達のボールが私のところに飛んでくる。ボールを山なりに投げてあげると男の子はニコッと笑ってお礼をしてくれた。


 感謝されただけなのに、こっちも嬉しい。人と関わるって、やっぱり良い気分。


 人は色だ。「朱に交われば赤くなる」、一人一人に色があって、人と混ざり、混じり合うことで、自分の色を深めていく。それこそ私たちは皆んな赤子から始まった。そしてそろそろ、私は青年になる。


 命は色だ。だから、流す涙は青く、吐く息は白く、染めた頬は赤い。


 趣味は色だ。それゆえ、多くの趣味を持つ人を多彩と表現する。


 夢は色だ。だって、夢は想いものだから。


 愛は色だ。そして、皆は恋沙汰に花を咲かせる。


 人生は色だ。なぜか、人は嫌な過去を黒歴史と呼び、過去の記憶はセピア色と呼ぶ。


 家に帰ろうと、公園のベンチから立ち上がった。なんてことないただの散歩だけど、この時間も今日を色付ける一つの出来事。それぐらい気楽でいいと思う。


 もう一度世界を見渡す。赤、青、緑、黄色。色んな色に包まれて、私も輝く。


 世界は色で出来ている。だから今日も、私は私の色をちょっぴり世界に残す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界は色で、できている。 赤目 @akame55194

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ