14話 奴隷たちの装備品を買う
「はー、食った食った。ごちそうさまだぜ」
「ふぅ。久しぶりにお腹いっぱいになったのです。ありがとなのです」
「ジタロー様、こんなにご飯を食べさせてくれてありがとうございました」
ファルとミューが満足そうにお腹を擦りながら笑顔でお礼を言い、ニケはやや大袈裟に跪いて言った。
「ど、どういたしまして」
結局あれからニケ、ミューはパンを4回串焼きを5回牛乳を3回おかわりしていて、ファルに至っては更に3つずつ多く食べていた。
細身の女の子たちが大量のご飯をあっと言う間に腹に収めていく光景は壮観だった。
「じゃあ次は服を買いに行こうか」
「……服、買ってくれるのです?」
「ああ。言っただろ? 衣食住は保証するって。……とりあえず、下着と普段着、寝間着と装備一式は揃えるぞ。他に必要なものがあれば、教えてくれ」
そう言うと、三人は驚いたように目を丸くしていた。
「ジタロー様、奴隷にそれは大盤振る舞いが過ぎるわ。下着と戦闘用の装備だけ買ってくれればそれを普段着と寝間着にするわ」
「姉様、この人変なのです。亜人の奴隷に対する扱いじゃないのです」
「この人、じゃなくてジタロー様ね。昨日から言ってるでしょ。彼は聖人様だって」
俺に対して奇異の目を向けているミューに、ニケは俺が聖人だとか吹き込んでいた。
丈が足りない薄汚い奴隷服のままだと目のやり場に困るし、一緒に歩いてる俺も恥ずかしいからまともな服を買うって言ってるだけなのに。
「オレもとりあえず、戦闘服だけで良いぜ。服とか選ぶの面倒くさいし!」
三人とも普段着や寝間着を買うのはあまり乗り気じゃないみたいなので、下着と装備品だけ揃えることになった。
ニケもミューもファルも、見た目が良いんだから可愛い洋服を買ってあげたいし、着た姿を見せて欲しいんだけど……。
まあ、大きい街の方が良い服は揃ってそうだし、三人のファッションショーはその時までお預けとすることにしよう。
まず向かったのは、下着屋さんだ。
下着屋さんは、飲食店と同じく亜人の入店をお断りしてくるスタイルだったから、俺が一人で入って三人分の下着を購入した。
下着は着替えと予備で、3着ずつ買った。
パンツのサイズは目測と勘で選び、色やデザインはなるべくシンプルで適当な感じのものを選んだ。……あんまり派手なのだと、三人に俺が変態だと思われかねない。
そしてブラは、ミューにはキャミソールタイプのを買い、ニケにはスポーツブラタイプ、ファルには晒しというか大きなバンドみたいなデザインのを購入した。
理由は正確な胸のサイズを聞けなかったから、多少サイズの違いがあってもブラとしてちゃんと機能しそうなものを優先して選んだ。
他意はない。
成年してそうで、これから仲良くなっていけばそういう機会があるかもしれないファルにはちょっとエッチな奴を買って渡したい衝動もあったけど、理性で抑えた。
先に下心を見せてしまうと、仲良くなるのも難しくなってしまうだろう。
男一人で上下9着ずつの女性用下着を買うのはめちゃくちゃ恥ずかしかった。
店員さんにもかなり奇異の目で見られてたし……。
俺は、ニケ用、ミュー用、ファル用に分けて貰った三つの紙袋をそれぞれに渡す。
「サイズとかなるべく合いそうなやつ選んだけど、合わなかったらごめんな」
「ううん。ジタロー様が選んだ下着だもの。大事に着るわ」
「うわっ、なんかいっぱい入ってるのです。これ、何着買ったのです?」
「着替え用と予備用に3着?」
「買い過ぎなのです」
「ジタロー様、これだけ買ったら結構高かったんじゃない?」
「んー、まあ言うて金貨一枚くらいだったよ」
「金貨一枚!?」
「……それ、そんな気軽な感じの金額じゃないのです」
ニケが驚き、ミューが呆れたような顔をする。
って言っても、この金貨拾ったものだからありがたみが解んないし、これがどれくらいの価値を持っているのかもあんまり理解してないんだよなぁ。
二人の反応を見るに結構な大金っぽいことは察しがついたけど、替えの下着三着は必要なものだったし後悔はしていない。
「なあ、ダンナ。そんなことより、オレたちの戦闘服も買ってくれるんだろ? 戦闘服! 早く装備屋行こうぜ!」
下着を少し確認してから、ずっとうずうずしていたファルが堪えきれなくなったように俺の服の裾を引っ張ってそう言う。
「そうだな。その代わり、ちゃんと俺のことを守ってくれよな?」
「勿論だ! 任せろ!」
ファルはダダダダッと、一人で装備屋に向かって走って行ってしまった。
「ちょっとファル!」
ニケが追いかける。俺も続いて追いかけようとするけど、ミューはゆっくりと歩いていた。
「装備屋の場所は解っているし、ミューはゆっくり歩いて向かうのです。お前は先に行ってて構わないのです」
「……俺も走るのはあんまり好きじゃないし、歩いていくことにするよ」
奴隷服を着た小さい女の子を一人になんて出来ないしね。
「いらっしゃいませ。あの、貴方はアレの主人でございますか?」
装備屋に着いて、中に入るとそそくさと気弱そうな店員が出迎えてくる。
「はい、そうですけど」
「そうですか。その、うちは奴隷に限り亜人の入店を許可しておりますが、その、あまり目を離さないでください。襲い掛かって来るかもしれないじゃないですか……」
「奴隷は『絶対服従紋』で縛られてるから、安全なんじゃないんですか?」
「そ、そうですけど、万が一ってこともありますし」
「はい。すみません。気を付けます」
……まあ『絶対服従紋』は俺が『治す』で解除してるんだけどな。
買い物を済ませる前に追い出されても面白くないので、店員に表面上だけ謝ってから、陳列されている剣に目を輝かせているファルの元へ行く。
「おう。ファルは剣を使うのか?」
「いや、オレは素手が基本だし、武器は得意じゃねえ。でもカッコイイから見てた!」
「……その気持ち、解るぞ」
「そうか?」
俺も宝物庫の武器にはめちゃくちゃ目移りした口だしな。
「ところで、ニケはどこだ?」
「あっちだ」
ファルが指さしたのは、軽戦士用の防具が置かれているコーナーだった。
皮鎧や、鎖帷子のようなものまで置かれている。ミューは、魔法使い用のローブが置かれているコーナーを見ていた。
防具を見ていたニケが、店に到着していた俺の存在に気づいてひょこひょこ近づいてくる。
「あー、防具は各々適当に選んでくれ。金額は……特に糸目をつけるつもりもないし、好きなのを自由に選んでくれ」
軽く見てみた感じ、高くても金貨一枚。安いものだと銀貨四枚くらいのものもある。
「あんまり安いの買って、壊れたりしたらそっちの方が勿体ないから、遠慮とかしないでちゃんと良いものを選んでくれよ」
特にニケが遠慮して安いものを選びそうだったので、そこだけ釘を刺してそれぞれが自分の装備を選ぶ。
俺のも……買うか。
今の恰好は、この世界に召喚された時と同じ仕事用のスーツだ。だが、スーツのような恰好はあの奴隷商店があった通りではそこそこ見かけたけど、この町に来てからは一回も見かけていない。
あの通りを歩く人たちは見るからに身分が高そうな人たちばかりだったし、この世界だとスーツは貴族とかが着る服なんじゃないかと予想している。
貴族みたいな恰好で歩くと余計なトラブルも増えそうだし、目立たない普通の恰好をするのが無難だろう。だから俺も三人に合わせて、ここで装備を買おうと思う。
問題は、どの装備を買うかだけど……。
俺の役割ってやっぱりヒーラーだよな? 『治す』あるし。
店を見渡して、ヒーラー用の装備を探してみる。……あ、あった。なんか、結婚式の神父とかが着ていそうな感じの服だった。
日本人の常識だと、ちょっと奇抜な格好に思えるけど、店で普通に売られてるってことはこの世界では普通の格好なのだろう。郷に入っては郷に従え、だ。
ヒーラー装備を手に取り、店員さんの所へ行く。
「すみません、これ試着は可能ですか?」
「ええ、勿論です。……ところで、その装備。お客様は神職の方だったんですか?」
「え? ええ、まぁ」
アストレア様の使徒は、神職……と言っても過言ではないよな?
「そうですか。てっきりお貴族様だと思ってましたが、神職でその格好となると教会で高い身分の方なんですかね? もしやあの亜人奴隷は、ご自分で調達されたとか?」
店員は、ニヤニヤと揉み手で近づいてくる。
なんか、凄く嫌な感じだ。……何やら勘違いされてそうな雰囲気はあったけど、一々説明してボロを出しても面倒なので黙っておくことにする。
「因みに、彼女たちの試着も可能ですかね?」
「ああ、それはすみません。一度亜人が着てしまうと商品価値が下がってしまうので……。ご理解いただけると幸いです」
「…………」
相変わらずの亜人差別だな。
「じゃあ俺のもまとめて、先に金払います」
装備を選び終わったニケ達が一度集まってくる。
値札に書かれている金額は、ニケのが銀貨12枚、ミューのが銀貨15枚、ファルのが銀貨7枚。俺のが銀貨13枚。
この世界の金銭価値は銀貨10枚=金貨1枚だから、金貨4枚と銀貨7枚か……。
「そうですか。では、合計して金貨4枚と銀貨5枚のお支払いでお願いします」
「あれ? ちょっと安くありませんか?」
「ええ、私も敬虔なるマモーン様の信徒ですから」
店員さんはそう言ってお辞儀をする。
俺はマモーンじゃなくて、アストレア様の使徒なんだが……。俺に有利な勘違いだったので、正さないでおく。
「神のご加護がありますよう」
そう言って俺は、金貨4枚と銀貨5枚を支払った。
「そう言えば、早速着ていきたいんだが更衣室はあるか?」
「ええ。そちらに試着室があるのでご自由にお使いください。……但し、亜人奴隷も着替えさせたい場合は同じ部屋で、目を離さないようにお願いします。万が一にも、暴れられたら大変ですからね」
流石に、一緒の更衣室で着替えるってのはな……。
嫌だよね? と、確認を兼ねて三人を見る。
ミューはフルフルと首を振って嫌がっていたけど、ニケは頬を赤く染めて満更でもないような顔をしている。
ファルに至っては、もう更衣室に入ってしまっていた。
「何してんだ? 早く戦闘服に着替えようぜ!」
「……まあ、他に着替える場所もないし、仕方ないわね」
「えっ、ちょ、ちょっと姉様、待つのです」
ニケも、嫌がるミューの手を引いて更衣室に入っていった。
これは、俺も一緒に着替えるしかなさそうだな――
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