35 今は強くなくても地道にいつか――皆仲良くしましょうよ、マジで

「……何を」

「何を勝手に決めつけているんだかな」


 ――そうして、私・八重垣やえがき紫苑しおんが思わず口を開きかけた瞬間、それを遮るように堅砂かたすなはじめくんが声を上げてくれました。


「言っておくが、俺はアンタもそいつらも全然妬んでない。

 何故なら俺はお前らよりも圧倒的に人として上だからだ」


 ここが違う、とばかりに堅砂くんは自分の頭をコンコンと指で叩く。

 その表情は不敵で、揺ぎ無い自信に満ちていた。


「ここにいる人達もアンタらを別に妬んでないだろう。その必要がない。

 たかだか出来る事が少し多いだけで上から目線したがる連中の何を妬むというんだ? くだらないな」


 う、うーん、私が思ってた言葉とはちょっと違うかなぁ……少し強めでは? ドSなのでは?

 でも言葉の方向性は概ね私と同じだったので、ここは口にチャックしておこう。


「へぇ? じゃあ、お前は俺より強いってのか、堅砂」


 そうして話に入ってきたのは、それまで詰まらなさそうに、興味なさそうにしていた寺虎てらこくんだった。

 どうも堅砂くんに対抗心があるらしく、寺虎くんは堅砂くんを見据え、負けず劣らず自慢げに言った。

 

「言っておくが、俺は今日――レッサー……パンダだかなんだかを簡単に2、30体」

「いや、それレッサーデーモンだろう。RPGでは定番の魔物だ」

「あー、そうだそれそれ」


 うん、レッサーは『同じ種類の中の小型』みたいな意味があったはずなので、使い方としてはパンダもデーモンも同じはずだ。

 ……それはそれとして、本当にレッサーパンダを倒してたとか言うんなら、正直寺虎くんを許せない所だったね、うふふふふ。


「そのレッサーを俺は一人でもめちゃ倒したんだぜ?

 俺の必殺技、ファイヤーバーンノヴァで一気にな」


 それは寺虎くんが謎の声からもらった『贈り物』。

 魔力を特殊な炎に変換して放つ、文字どおりの必殺技――らしい。

 実際には目の当たりにしていないんだけど、彼のステータス欄を見せてもらっているのでどういう技なのかは知っている。


 正直、恐ろしい威力過ぎますよ、ええ。

 まともに当たれば大体の生物は消し炭になる。しかも結構な広範囲で。

 いや、うん、個人の自由なんだけどなんでそんな物騒な技を、と思っております。

 

 この世界のレッサーデーモンがどれほどの強さなのかは分からないけど、おそらくゴブリンよりずっと強い筈だ。

 それを一気に倒せるのは正直すごいと思う。


「いいぜ、レベルアップするのはよぉ――! 目に見えて技の威力が上がるのは病みつきになるぜ。

 なぁ?」

「寺虎くんの言うとおりだよ、二人共」

「まぁ悪い気はしねぇな」

永近くんや正代さんあなたがたに同意するのは不本意ですが、自慢が増えていくのは快楽ですね」

「だよなぁ?

 それに、そういう強さを見せつければ、周りが良い眼で見てくれるようになるしな。

 そこの息子のお陰ってのもあるが、楽しい経験が沢山出来るようにもなる。

 なぁ?」

「――そ、そうだね、えへへ」

「……」(無言で赤面)

「うんうん、まったくもって――いや~いいよね、異世界の――ぐふふ」


 寺家君の言葉に男子達が全員デレっとした顔になった。

 ――ちなみに女子は麻邑あさむら実羽みうさん以外すごく顔を顰めております。


 うん、なんとなく想像は出来る。

 倫理観が本来の世界とは違うからどうこうは言わないけど……っていうか、マジで行ったんです?

 い、いったいどんな事が行われたというのでしょうかぁー!?


「うふふふ……異世界のお店……うふふふふ……ハッ!?」


 し、しまったぁー!?

 またしても思わず笑みを零していたらしく、周囲の皆様にドン引きされておりました。

 すみませんすみません、純粋な好奇心だったんですけど、気味悪い顔で皆様を驚かせるつもりはなかったんです、はい。

 やはり私の存在は不要……?(定期的ネガティブ)


「ご、ごごごご、ごめんなさいぃー! ど、どうぞ私めの事は気にせず話をお続けくださいませ――」 

「お、おう。

 ま、まぁ、そのなんだ。

 そんなわけでここにいる奴らも俺には劣るが結構倒しまくってレベルアップして、良い目を見てるわけよ。

 俺らの『贈り物』はお前らとは違うんだからな。

 ――特に」


 そこで寺虎くんは改めて私を見る。

 えーと。

 なんというか、上から目線を感じるんですが?


「アイテムで代用できるような『贈り物』とはな」


 彼がそう言って取り出したのは、小さな水晶玉だった。


「こ、これは?」


 薄々理解しながらも私が尋ねると、寺虎くんは自慢げに鼻息粗く語った。


八重垣おまえの『贈り物』、それと殆ど同じものが見れるアイテムさ。

 ほら使ってみろよ。まだまだ使えるはずだから遠慮なくな」

「う、うん」

 

 受け取って使用してみると――なるほど、限りなく近いものが見える。

 細かい名称や細部は違うが、各種能力値や所持技能やレベルが確認できた。


「な、なるほどー。た、確かに。ステータスが見れるね」

「どうだ? 自分の贈り物が大したものじゃなくなった気分は?」

寺虎とらっち、あのねぇ」


 私を慮ってくれてか、寺虎くん側の立ち位置である麻邑さんが声を上げた。

 いつも笑顔な彼女が珍しく眉を顰めている――その表情を見たから、という訳ではないのだろうが、寺虎くんは私に笑顔で言った。


「別に嫌がらせで言ってるわけじゃないってぇの。

 八重垣さえよかったらこっちにくればって誘おうって話」

「おおー! そいつは良いな!」


 喜びの声を上げたのは、寺虎くんの仲間であるつばさ望一ぼういちくん。

 というか他の男子も頷いてる?

 いや、そんなに喜ばれても――嬉しいけど、私に皆が喜ぶ要素あるかなぁ?

 さっきドン引きされたのになぁ。


 というか、寺虎くん含めて男子皆、さっきのデレっとした顔に若干なってるような?


 内心首を傾げつつ、私は寺虎くんの言葉に耳を傾け続けた。


「ほら、連中も歓迎してくれるらしいし、戦うのに向いてない『贈り物』で向いてない連中と無駄に頑張らなくてもいいだろ?

 それに、アイテムで代用できるっつっても、消耗ナシでいつでもどこでもステータスを見れるのは便利だからな。

 お前は俺らの後ろで色々と教えてくれるだけでいいぜ。

 そこの口だけの頭でっかちよりも優しく扱ってやるからよ。

 俺らは強いからな、一緒に行動すればレベル上げも楽だぜ。

 レッサーなんたらだろうがなんだろうが、俺達の敵じゃないからな。どうだ?」

「き、気持ちはありがとう。でも、遠慮しておくね」


 考えるまでもない。私は即答した。

 一切の迷いも待ちも貯めもなく返されたためか、寺虎くんは少し驚いていた。


「ど、どうしてだよ?」

「りょ、寮にいる皆とちゃんと話してないのに自分勝手には決められないよ」

「そうだな。そんなのはお前らだけで――」

「ゴホンゴホン!!」


 堅砂くんが無意識なのか無暗矢鱈に挑発っぽい言葉を発しそうになるのを咳払いで隠す。

 気持ちが分かる所もあるけど、私的に『皆仲良く』が一番なのは今も変わっていないので、なるべくそういうのはやめましょう。

 

「そ、そそ、それから、レーラちゃんの面倒を最後まで見たいしね。

 私は、お姉ちゃんだから。うん。

 そ、そして――私は、レベルアップの為に戦ってるわけじゃないから」


 強くなって出来る事が増えていくのが楽しい事を否定するつもりは全然ない。そういう部分は私にもあるしね。

 ただ、私は楽しさそのものに重きを置いていない、というだけ。

 

「わ、私は皆のお手伝いがしたいだけ。

 その中でもし必要があるならレッサーデーモンであろうと、もっと強い魔物であろうとも戦うよ。

 た、確かに私は――私達は寺虎くん達みたいに強い『贈り物』は持ってないから、最初は勝てないかもしれない。

 それでも地道に頑張って――いつかは勝ってみせる。

 そ、そういうのが冒険者らしくて、私はいいなって思ってるから」


 そう答えると、周囲――冒険者の皆さんから『おぉ……!』と静かな歓声が上がった。

 私の考える冒険者と皆さんの考える冒険者はどうやら一致しているようで嬉しくなります、はい。

 友情、努力、勝利、私は大好きです。


「八重垣の言うとおりだな。

 どうもそこの息子にせよ、お前らにせよ力自慢がしたいようだが――俺達には興味がないな。

 必要があれば戦い、勝つために手を尽くす、それだけだ。

 実に理に適ってて、納得だ」


 私が捏ねた理屈が堅砂くん的には満足だったようで、うんうんと頷いている。

 ――ごめんなさい、思ったままに口にしただけで深くは考えていないんです。


 そんな私の内心の嘆きを他所に、堅砂くんは言葉を続けた。


「お前らとも必要があれば戦う時が来るだろう。

 寺虎――俺とお前、どちらが強いかなんて、その時にでも嫌が応にでも思い知らせて……。

 睨まないでくれるか八重垣。あくまでそうなった時の仮定の話だから」

「いや、睨んでは……と、ともかく、できるだけ皆仲良くしようよ――押しつけがましいかもだけど、クラスメートなんだから。

 み、皆仲良く!!」

「そうそう、クラスメートは仲良くすべきだと俺も思うよ。

 という訳で紫苑ちゃん早速もっと仲良く――痛い痛い痛いぃー! 痛いよ静ちゃんー!! 足踏まないでぇぇぇ?!」

「誰彼構わず、しかも状況も読まずにナンパすんな、翼」

「あら、焼き餅かしら?」

「阿呆か、馬鹿犬をしつけてるだけだっての」


 そうして、久方ぶりにクラスメートらしいやりとりを続ける中で。


「じゃあ、折角だしその必要を作ろうか」


 そう告げたのは、クラスメートではない存在、領主の息子さんであるコーソム・クロス・レイラルドさんだった。

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