34 上から目線、嫌いな事柄です――仲良くするって難しいよね(自省含む)
「おうおう、騒がしいなー! 英雄様の帰還を待ち侘びてたってところかぁ!?」
冒険者協会、レイラルド支部の中。
私・
レートヴァ教の庇護を飛び出して、領主の息子さんの元での生活を選んだクラスメート達ですね、ええ。
一応残した手紙をメインで書いていたのでこの面子のリーダー(?)なのだろう
寺虎くんと仲が良くていつも行動を共にしている
寺虎くんや永近くんのいる所に一緒に佇んでいる、クラスで一番大きくて少し無口な
女の子にモテたい事を始めとして欲求ドストレート、
昔のドラマや漫画でよく見かけた所謂スケバン風味な女の子、
家がとてもお金持ちらしくて、自信満々に家の事を、そしてそれ以上に自分の事を自慢する、
そして、クラスの誰とも仲良くなれるコミュ力抜群ギャル的な女子、
そんな総勢7名全員がいて、その後ろには見覚えのない中肉中背の男性が一人。
身に纏っている服装の上等さ、綺麗さからして、おそらく結構良い身分の人なんじゃないかな。
――なんとなく、誰なのか想像はついたけど、あくまで推測なので確定するまでは様子を見よう。
早とちりで勘違いしたら恥ずかしいし、うん。
ともあれ彼らは周囲の視線を浴びながらも堂々と歩みを進めていく。
視線の大半は怪訝な、何かを計りかねつつも注目せずにはいられない、という雰囲気だった。
そんな彼らが足を止めたのは――当然と言うべきか、私と、一緒にいる
「よう、久しぶりだな――つっても、数日くらいだけど」
何事もなかったかのように話しかけてくる寺虎くんにちょっとピキッとしてしまう私。
うふふ、どんな気持ちで話しかけてるのかなぁ?
いけないいけない、冷静に冷静に。
思う所はあるけれど、意見の相違ってだけだと思うし、思いたいし、うん。
「み、皆、元気だった? 怪我とかしてないかな?」
そうして心を落ち着けた私は素直に思う所を口にした。
なんだかんだあるけれど、クラスメート、同胞なのだ。
皆元気であってくれる方がいいに決まってるよね。
「おうともよ」
「うん、なんとか――」
「――」(無言で頷いていた)
「ぜーんぜん。むしろ紫苑ちゃんは大丈夫だった? その綺麗な身体に傷でもついたら人類の損し――ごほぉっ?!」
「うっさいぞ翼。まぁうちらは無事だ」
「見てか分かりません? わたくし達は絶好調ですよ――クスクス、おバカさんですね」
「そうだねー あたしらは贅沢三昧で元気一杯かな」
そんな問いに、彼らは一人一人律義に応えてくれた。
実際元気そうだし、こちらに対して大きな悪感情を抱いているわけでもなさそう。
少なくとも、何か生活面以外の、根本的に相容れない事があっての離脱という訳ではなさそうで安心安心。
「というか
聞いたよー? ゴブリン相手に大暴れだったって」
「へ? ど、どうしてもう知ってるの?」
麻邑さんの言葉に首を傾げると――。
「この街で起こる、そこそこの大きさの出来事はつぶさに調べさせているからね。
数時間前の出来事も把握済みだよ」
そう言って一歩踏み出してきたのは、寺虎くん達と並んで歩いていたこちらの世界の人。
彼は丁寧に一礼――しっかり学んで習熟させてきた事が見るだけで伝わってきた――して、私達に名乗った。
「はじめまして。私の名前は、コーソム・クロス・レイラルド。
ここ一帯の土地を修める領主、誉れ高いファージ・ローシュ・レイラルドの息子だ」
あ、やっぱりそうだったんだ。予想が当たってちょっと嬉しかったり。
うふ、うふふふ……あ、思わず浮かべた笑顔でちょっと引かれてる。
表情を整えて、と。
「――こ、ここ、これはご丁寧に。
わ、私は、そちらにいる寺虎くん達と同じ学び舎で学んでいた八重垣紫苑です」
「同じく堅砂一です」
「おお、こちらこそご丁寧に――やはり、今回の召喚者達は随分と礼儀正しい」
そう言いながらコーソムさんはちらりと寺虎くん達へと向けた。
――その際の彼の表情は若干ジト目というか呆れ顔だったような気がする。
「だがそこの彼らや君達の仲間――先走りの勘違いで、あの薄汚い少女のために私と対立する事を選択した愚か者との会話で、暴言には慣れたからね。
君達も身分を気にせず気軽な言葉で話しかけたまえよ。
まぁ異世界人たる君達には身分さえないのだけれどね」
なるほどー、これは守尋くん達が思わず怒りを抑えきれなくなるのも納得かも。
少し偉そうな話しぶりも表情も誤解され易そうというか、ちょっとにこやかではいられないかも、くらいにちょっとイラっとしちゃうなぁ。
いけないけない、そういう偏見良くないよね。
なんせ私も誤解されやすい立場だからNE☆……いや、私の場合誤解じゃないか――自分で考えてて悲しい。
とは言え、先日の出来事に不満を持っての、若干の挑発めいた部分もあるんじゃないかな?
そうじゃなかったら苦情入れて、私達の保護猶予期間の短縮なんかさせないだろうし。
「えと、その、あ、有難いお言葉ですが、ご遠慮させていただきます。
そ、それに、今の彼女は汚くないです!
ちゃんと綺麗に洗いっこしましたから!!
それはもうピッカピカに!」
「そ、そうか」
「そ、そして、せ、せせ、先日の事は誤解が双方にあったと思うので、級友への侮辱の撤回を願います、はい」
そういう事を踏まえると、最早私達と彼は少なからずの対立状態になっているので丁寧に接する必要はないのかも。
しかし、だからと言って根本的に礼を失すれば揚げ足を取られかねないので、論理的な言葉を返さないとね。
うぎぎぎ、我慢だ私、ファイトファイト――!
うひひひひ、うふふふ、あははははは!
我慢する為に内心での高笑いで感情を誤魔化す私。
でも表情には出てたらしくて、コーソムさんとやらは私の顔に若干引いていた。
というか、他の人も引いてません?
……すみませんすみません、そんなつもりはなかったんです――うふふ、やはり私は滅ぶべきもの(定期的ネガティブ)。
「お、おお、こ、怖い怖い。ま、まぁその辺りは前向きに善処してあげよう。いずれね?」
「ふむ、じゃあそれを当てにするつもりはない俺は普通に話すとしようか。
それで何か用なのか? 領主の息子とやら。
まさか何もなくて、もしかして領主の息子なのに暇を持て余してるのか?」
そんな堅砂くんの言葉に、冒険者さん達の一部から感心する声や拍手が上がる。
――これ、結構領主の息子さんは領民の人達から嫌われてるのではなかろうか。
それはさておき、私的にも堅砂くんの指摘は気になっていたので、視線をコーソムさんに移す。
すると彼は堅砂くんの言葉が突き刺さっていたのか、若干顔を引きつらせて言った。
「そ、そうじゃないさ。
私が後見人となっている彼ら――なんだったかな、
「ふふん、なんだもう忘れたのか? 頭悪いんだな。
「そ、そういう名前だったね、あはは」
寺虎くんの言葉に、コーソムさんはずっと表情が強張っていた。――これ我慢してません?
他の人達はと言うと、眼を輝かせたり満足げにしてる人もいれば、溜息を吐いている人、素知らぬ顔をしている人もいた。
ちなみに
――私達がもし
さておき、そうして名前を確認したコーソムさんはコホンと咳払いをしてから話を仕切り直した。
「そう、その――ベストなんたら」
「名前聞いた意味あるのか、それ」
堅砂くんの突っ込みに再度表情が引き攣りかけるが、それをどうにか堪えてコーソムさんは言葉を続ける。
「その党団の、成果報告に来たんだよ。
そう、そうだ。
彼らは実に強い。
今日も私の斡旋で依頼を受け、遠出して、魔物の集団を容易く殲滅してきたんだ。
ゴブリン如きに大苦戦する君とは違ってね」
「おいおい、聞き捨てならねぇな。息子様よ」
そう言って声を上げたのは、上げてくれたのは、先程私達に謝罪してくれた
「冒険者は別に強い奴を倒せば偉いって訳じゃあないんだぜ?
この子は冒険者として正しく魔物を退治した――格下扱いで批判される筋合いはねえんだよ」
おお、なんて素敵かつ嬉しいお言葉っ!
その言葉は――私の目指したい
感動して、私が思わず冒険者さんに視線を送ると、彼は不敵に笑い返してくれた。
だけど、そんな素敵な言葉なのに、コーソムさんは呆れたとばかりに肩を竦めた。
「ほほぉ、そういう事ならなんで冒険者に等級制度があるんだろうなぁ?
明確に強い存在を倒せば上に行きやすい制度は、強さによる偉さの証明以外の何者でもないと思うが?」
「ぐ、それは……」
「それに、その理屈を言えば魔物を正しく倒した彼らも批判されるべきではないだろう。
君は――いや、今不満げに彼らを見ている君達は、結局の所妬んでいるだけさ。
私も含め、自分達では持ちえない『力』を持つ存在をね。
そして、自分達に近い側である彼女達を擁護して、自分達を慰めてるに過ぎない。
君達はきっとそんな事にさえ気づいていないんだろうがね。
あーあ、学のない連中はこれだから困る」
ムッカァァァァ……!
―――正直、腹が立ちましたよ、ええ。
数日前、今私達を擁護してくれた冒険者さんも今のコーソムさんのように私達を馬鹿にしていた。
私達は私達でその事に憤慨していた。
だけど、それは互いに『知らなかった』から。
そして、ほんの少し歩み寄るだけで、互いをささやかに知るだけで……ついさっき、親しくなる事が出来た。
それらは私達が『異世界人』で彼らが『この世界の人』だから――世界が違うからだと思っていた。
でも、冒険者さん達とコーソムさんは同じ世界の人だ。
私達よりもきっと互いの事柄を知っているはずだし、理解し合えるはず。
だというのに、どうして彼はそんなにも同じ世界の人の心さえも波立たせようとするのだろう。
――私なりに知ってはいる。そうあってほしくないけど、少し知っている。
そういう人も世界にはいるんだ、と。
コーソムさんにとっては、冒険者さん達と私達に大差はないのかもしれない。
もしそうだとして、何故彼がそう思うかも私には分からない。
それこそ、私は彼の事を何も知らないのだから。
でもだからこそ――。
「……何を」
「何を勝手に決めつけているんだかな」
そうして、私が思わず口を開きかけた瞬間、それを遮るように堅砂くんが声を上げてくれました。
まさに私が言いたかった言葉だよ、かっこいいー!
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