24 住めば都というけれどまずちゃんと住まない事にはねぇ……え?私嫌われてます?

「ダメ。どう計算してもお金が足りない」


 その日の夜。

 食事を終えてから、そのまま食堂で今日の事を報告し合う中、クラス全員としての経理を担当する事になった網家あみいえ真満ますみさんは、淡々とそう告げたのでした。

 

「俺達が貰った金貨の全部掻き集めても足りないのか?」


 クラスの中心人物、そう言って過言のない人物で、現在は冒険組――冒険者となった上でやりたい事のある面々――のリーダーである守尋もりひろたくみくんが尋ねると、彼女は小さくプルプルと首を横に振った。

 

「足りない。皆結構使っちゃってたからというのもあるけど――別の理由もあるから」

「別の理由? なんだそれは」


 私と個人的に手を組んでいて、拠点組――私達異世界に召喚されたクラスの、異世界での居場所を作るためのグループ――の男子側の責任者である堅砂かたすなはじめくんが上げた声に、真満さんは淡々と答える。

 

「私、今日神官さんに頼んで付いてきてもらって領土管理者の所に行った」


 領土管理者――ここ一帯を治めている領主様、レイラルド家からこの街の土地の管理・運営を任されている役職だという。

 私達の世界で言えば不動産業というべきか、国土交通省というべきなのか……多分その二つの真ん中ぐらいの立ち位置なんじゃないかな?


「私達が使っていい、買っていい土地について話を聞いたんだけど、全部値段をふっかけられてる」 

「え、えと、それは、網家あみいえさんの『贈り物』を使って確認したの?」


 私、八重垣やえがき紫苑しおんは一応拠点組の女子責任者であるので、確認した方がいいだろうなぁとおずおずと聞いてみる。

 すると、網家さんは私に向かって小さくピースサインをして(ただし顔は無表情)答えた……うん、かわいい。


「もち。最低でも3割、酷いのになったら桁数すら違ってた」 


 彼女、網家真満さんが神様(推定)から貰った特殊な力――『贈り物』は【数の暴力】。


 元々網家さんは私達の世界では数学が苦手だった。

 私も正直得意とは言えなかったので、時々一緒に勉強したりもした仲です。

 ……多分友達だよね、うん、きっとそう、そうあってほしい、思い違いだったら土下座します(定期的ネガティブ)。


 そんな彼女は、ここに来る際の事を夢か何かだと認識したらしくて、どうせ何かくれるんなら数字に強くなりたいと謎の声に主張、結果その『贈り物』が決定したのだという。


 彼女の【数の暴力】は、シンプルに数字に強くなるのみならず、数字にまつわる様々な事柄の答や真実を見抜く事が出来る能力だった。

 実は彼女自身自分の能力を把握しきれてなかったので、私が私の『贈り物』であるステータスでそう表記されている事を伝えた事で、改めて能力の全貌を知ったようだった。


『じゃあ、試してみよう。紫苑、バストサイズを虚偽の数字で言ってみて』

『え? べ、別にいいけど、何故バストサイズ?』

『趣味』

『あ、うん、そう――えっと、じゃあ、82』

『ほほう? へぇ――すごいね、紫苑は。それよりずっと大きくて8きゅ――』

『わー!? 恥ずかしいからやめてぇ!?』


 と能力確認の為に、そんなやりとりを交わした事が脳裏に過ぎる。

 あれから時々話を聞いていた男子が微妙に私の胸をチラ見してるのは気のせいなんでしょうか――うん、ちょっと自意識過剰気味になってるだけだよね、うん。


 さておき、そんな彼女が確認したのだ。値段が吊り上げられているのは間違いない。


「異世界人だからバカにされてるのかしら?」


 守尋くんの幼馴染で、共に冒険組である伊馬いま廣音ひろねさんが首を傾げる。

 それを網家さんはパタパタと手を横に振って否定した。


「違う。値段の酷さに見かねて口を出してくれた神官さんに、嫌味たっぷりにこう言ってた。

 領主様のご意向によるものですぅー 

 それに、異世界人の最終的な動向にレートヴァ教の口出しは厳禁なのではぁ?とか」

「っ、それは物真似なのか?」

「うん。こんな口調だった」


 モノマネが可愛かったからか面白かったからか、若干吹き出しそうになる守尋くん。

 まぁ私達の大半がそうだったけど。

 いつもクールな堅砂くんもちょっと吹き出しかけてましたね、ええ。ちょっとかわいい。ふへへへ。


「八重垣……また顔が崩れてるぞ」

「うひぃっ!? ご、ごめんなさいっ!」

「わざわざ謝らなくていい。ただ改善をしてくればな。

 さておき、網家。

 その辺りを見破ったからって値段を戻してくれそうな気配はなかったのか?」

「無理だと思う。領主の意向――私達で言えばお役所様が決めた事、みたいな感じだろし。

 管理者のおっさん、ずっと薄ら笑いしてたしね」

「逆に言えば領主の一声で本来の値段にする事も可能かもな」

「そ、それは――領主様がそう思ったら、できるかもだけど、そうするには領主様の考えを知らないといけないんじゃないかな」


 堅砂くんが言うとおり、領主様の意向でそうなっているのなら、考えを変えれば適正価格には出来るかもしれない。

 だが、そうするには領主様が何を思ってそんな事をしているのかを把握しなくてはならないんじゃないかな。

 そう声を上げると、皆の視線が一斉にこちらを向いた。


 うぐぐぐ、み、見ないでくださいー!?

 恥ずかしい――堅砂くんに話しかける感じで言ったから思わぬ視線に顔が赤くなる。

 陰キャゆえ、皆の視線が太陽のように思える時があるのです。


「八重垣さんがなんか悶絶してるんだが」

「本人曰く陰キャゆえの苦悩らしい」


 うぎぎ、この苦悩果たして分かってくれる人はいるんだろうか……切ない。

 ともかく、私はどもりつつ言葉を続けた。


「え、ええ、えと、私達異世界人に対してだけ値段を上げてるんなら、何故そうしているのかを訊かないと、なんともならない気がする。

 何か異世界人に思う所があるのか、あるいは、こう、この街に住む人への建前的なものかもしれないし」

「あー、それはあるかもな」


 私の言葉に守尋くんが同意してくれた。

 このクラス1の陽キャが肯定……すなわち私も陽キャ!?――適当な事行ってすみません(精神的土下座)。


 ともかく。

 領主の息子に私達が逆らったから、それを放置――何かしらの処断をくださなかったら、自分達の威厳が失われてしまう、みたいな考えでやむなく行った可能性もあるかもね。

 単純に異世界人が嫌われているだけかもしれないけど。

 どうも私達より前にこの世界に来た人達はあまり態度がよろしくなかったらしいし。


「でも、だとしたら領主に会って直接話できれば解決できるかもな」

「巧は相変わらずポジティブねー まぁそれが良い所だけど」

「あはは、褒めるなよ廣音。照れるだろ」

「照れてる人は堂々とピースサインしないでしょ」


 相変わらず守尋くんと伊馬くんは仲が良いなぁ――私も一応思春期の女子なので、ちょっと羨ましくなったり。

 私、現実の恋愛は今一つ縁がないので、ええ。


 堅砂くんと最近仲良さげ?

 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、ないないないないないないないない(全力否定)。

 私はともかく、堅砂くんに迷惑はかけられませんしね?


 まぁ幻想はさておき、実際恋人とか彼氏彼女とかいいよね、うん。

 

「夫婦漫才は他所でやれ」


 でも、それはそれとして堅砂くんの呆れた表情の突っ込みもちょっと分かる。


「「まだ夫婦じゃないっ!」」


 あ、問題点そこなんだ。

 

「だが、確かに領主本人に話を付けられたら話が早いな。

 話から察するに、息子も親の意向を笠に着てるだけの様だし、親をどうにかできれば問題解決の可能性は、僅かにある。

 試してみない手はないだろう。

 ――まぁ十中八九門前払いされるだろうが」

「しっかりと手順を踏んでアポを取れば、無碍には出来ないんじゃないか?」


 私達のクラスの委員長で、拠点組に所属している河久かわひさうしおくんが口を開く。

 その際小さく挙手しているのが、すごく真面目だと思う。


「少なくとも僕達が単純な無法の輩じゃないという認識を少しは与えられるかもしれないし」

「それはそうだな。河久、頼めるか?」

「言い出した以上、責任は取るさ」

「そうか。頼む」


 瞬間、河久くんの視線が私に向いた。

 うう、今日は流石にレーラちゃんを連れていけなかったからとお世話をお願いしたので心苦しいです。


 領主の息子に目を付けられて追われていたレーラちゃん……その面倒は皆で交代でみようとはなっている。

 だけど、元々の言い出しっぺとしては出来る限り私がそうしたい、そうすべきだと考えているので、可能な限り私はレーラちゃんと一緒にいようと思っている。


 とは言え、今日のように危ない場所に行く時は流石に難しいので仕方がないのだが――なんとかできないかな。


 ちなみに今は、お腹いっぱいで眠たくなったらしく、一緒に面倒を見てくれていた同じく拠点組の酒高さけだかハルさんの膝の上でうつらうつらしている。かわいい。


 そんな思いもあって、思わず河久くんへと小さく頭を下げる私。


「――」


 あれぇ?

 なんかそっぽ向かれたんですけどぉ!?


 もしかして、私、想像以上に嫌われてる? 何故に? 陰キャゆえに?


 正直ちょっと分からなくて地味に凹む私なのでした――なにかしらの誤解ならいつか解かなきゃね、うん。 

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