煙草の煙の様なサレ男のボヤき

クマとシオマネキ

一本目〜馬鹿だから流出の件

 スウゥゥゥ………ハーーーーー………


 皆さんの周りで煙草の煙を溜息の様に吐く人はいるだろうか?

 吸わない人からすると迷惑な行為だと思う。

 しかし、もし喫煙室で、死んだ目でやっていたら憐れんでほしい。


 その人は今、大きな溜息を吐いている所だから。


―――――――――――――――――――――――


 久しぶりにリビングで吸った。

 

「スゥ~…フーーーーーーーーーーーーーーー」


 俺は煙草が好きだ。

 だけど同棲している彼女が嫌いだから家では吸わないし、仕事も禁煙だから、極力吸わないようにしている。

 でも、今は、吸わないと駄目だ。


 俺はため息というものを、ある時期から出せなくなった。

 元から人がしていると気分が悪くなるので嫌いだった。


 それでもどうにも気持ちが浮かない時はどうやって吐き出せば良いのか?

 俺はいつも、それを煙草で誤魔化している。



―あぁ!♥もっと!♥もっと気持ち良く!♥ー



 俺は今、スマホで動画サイトを見ている。

 今年で27歳になった良い大人、しかしエロサイト巡回や無料小説漁りが趣味だ。

 正確にはそれぐらいしかやる事がなくなった。

 昔はバイクに乗ったりライブに行ったりするのが好きだったな。


 しかし、近い内に結婚を考えている。だから貯金をする。すると趣味に金がかけられなくなる。


―愛してる!♥愛してるよ♥だからもっと激しくしてぇ!♥―


 余程の高給取りでなければ金のかかる趣味と家庭は両立出来ない。

 ただでさえ物価は高く給料は低く、結果、我慢する。

 俺は馬鹿だから、大学にも行けなかったから、サラリーマンをした事がないから、だから若い時にやりたい放題やって、後は我慢する

 これはごく自然の流れだと思う。

 



 俺の彼女、頼子は高校時代の後輩。

 部活は軽音楽部に入ってた俺は、音楽とバイクにのめり込んでいた。

 頼子は同じバンド仲間の後輩の同級生、よくライブを見に来た。


 上がっていく煙を見ながら思う…当時は高校生、そして地元という狭い世界でアーティスト気取りの俺を、まるでスーパースターの様な目で見ていた彼女。


 『私は映画を撮りたいんです、私にしか出来ない先輩の音楽に負けない映画を作ります!』


 映画が大好きだった君は、俺の目をまっすぐ見て言った。

 彼女が俺に好意があるのは知っていた。


 俺も同級生と付き合ったりもした。けどなんか違うと、別れてを繰り返す。

 頼子は付き合ってきた彼女達とは違う、純粋で、バンド仲間の後輩で、大事にしなければと思っていたから手を出さなかった。


 そうそう、告白されたんだよな、卒業式の日。

 だけど、断った。

 悪く思ってない、大事にしていた可愛い後輩の一人だった。

 しかし厨二病だった俺は、何かを成すのに受け身になりたくないとか言って断った。


 今考えると意味がわからないな。


 そして俺は、音楽で大成すると思っていたが一ミリも上手くいかず、ただの都内住みフリーターになっていた。

 その後、深夜の仕事やら最終的にアダルト業界に足突っ込んで3年…何もかもバカらしくなって地元を帰り、近所のコンビニで働きながらブラついてた時に、頼子と偶然再開した。


 地元で駅で、成人式の日だっけか?

 何ていうの?着物?みたいなの着て…綺麗になっていたね。

 

『先輩!帰ってきてたんですか!?連絡してくれれば良いのに!』


 まるで子犬の様にぱぁッと笑う彼女。

 外見は変わっても中身は変わってないなと思った。

 アダルト業界にいて悪い意味で人を見る目がおかしくなっていたので、

 後、連絡先を知ってる訳ね〜だろと思いつつ


 『そうだね、それにしても頼子は綺麗になったね?逃したら魚は大きかったか(笑)』

 

 顔を赤らめ照れる、だけど目が泳ぐ頼子、そういう所に俺は疑いをかけるようになっていた。


 そして後日…

 


『先輩、私…ずっと待ってるんですよ?忘れられなかった…先輩一筋なんですよ!』


『そっか…でも、今はただのフリーターよ?音楽もやめたしなんもねぇよ?』


『関係ありませんから!そもそも学生時代の恋に仕事は関係ありません!まだ…まだ好きなんですよぉ!』


 後日、どこでどう繋がったのか知らないが飲み会の帰りに言われた。


 俺はその気持ちに快諾し、めでたくお付き合いしたという訳だ。


 頼子は映画の専門学校に行っていたのは聞いていた。

 都心で一人暮らしをしていたが、就職先は映像制作の会社だそうで、電車一本でいけるからと地元に帰ってきた。

 

  

 それから2人で小さなデートを繰り返し、少しも余裕が出来たら旅行に行き、敬語も無くなる頃、喧嘩もしたけどお互い歩み寄って解決した。


『ねぇ和樹さん、もうそろそろ…結婚…考えてくれてる?』


 夜の営みの後に言われた。

 正直、式とが子育てとか自分に出来る気がしないが…それでも上目遣いで不安げな彼女の顔を見ていると、前に進まなければと思う。


『半年ぐらい、貯金したら結婚しようか?』


 その後、指輪を買ってプロポーズした。

 泣いて喜んでくれた。さぁて、ここからだ。


 ここからが俺の人生の…


―気持ち良い!♥良いよぉ♥イッグゥゥゥ!!♥―

  

 何だったんだろうな。

 

 スマホの動画で女が絶頂を迎え、相手の口を貪る。

 俺の彼女、結婚を約束した彼女、頼子。

 

 無料で誰でも見れる投稿サイトで…今、俺の視界で性行為をする女だ。

 映画學校を出て、自分だけの映画を作ると言って、自分が出演した動画を多分、勝手配信された女だ。


 あ、煙草が根本まで…



 

 

 

 

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