スズメは『色』って言葉を聞いて、真っ先に何を思い浮かべる?
奇蹟あい
今朝見たのはどんな夢?
放課後。
帰宅部のわたしとスズメは、ホームルーム終了直後に、いつも通り連れ立って学校を後にする。
目指すは家……ではなく、商店街!
今日の気分はカラオケかなー。
あ、そうだ。今朝起きた時から気になっていて話せていなかった話題を――。
「ねぇ、スズメー。スズメはさ、『色』って言葉を聞いて、真っ先に何を思い浮かべる?」
「急に何の話~? 色って、赤とか青とかの色のこと?」
スズメがキョトンとした表情を見せながら、わたしの顔を覗き込んでくる。
「なんでもー。漠然としたイメージの話だよー。つまりスズメは『色』って言葉で『赤色』や『青色』を思い浮かべるってことなんだね。うんうん。なるほどなるほどー」
「何よ~? それって心理テストか何か? 教えて~」
「そんなんじゃないって。ただわたしが気になっただけー」
「え~、何それ? 私のほうが気になる~。何の話なのか教えてくれないと……こうだ!」
スズメがしゃがみ込んだと思いきや、一瞬にしてわたしの視界から姿を消す。
「あれ? スズメが消えたー。わたし、もしかして踏みつぶしちゃったかな?」
「もうっ! 私、そこまで小っちゃくないもん! マミがおっきすぎるだけ!」
背後に回り込んだスズメが、わたしの背中におんぶするように飛び乗り、首に手を回してくる。いつものことなので、わたしは握っていたスクールバッグを腕に通すと、素早く手を後ろに回してスズメのお尻を支えた。
わたしの身長は172cm。対してスズメの身長は143cm。約30cmの差があるわけで。クラスメイト達からは、『凸凹姉妹』なんて呼ばれているのだ。まあ、でも、わたしたちは幼馴染みというだけで、血のつながりはない。あったらむしろ困るし。
「スズメも重くなったねぇ。わたしもいつまでおんぶできるかな……」
「おばあちゃんみたいなこと言わないで! わたしだって体重のことは気にしてるんだから……」
スズメが唸るような声で言う。
実はぜんぜん重くもないし、むしろ軽すぎて心配するレベルなのだけど。
とは言わずに、大きくて柔らかなふくらみを背中に感じながら無言で歩く。
もともと小っちゃくて天使みたいにかわいいスズメが、なんと今年になって急に巨乳になってきたのだ……。クラスの男子たちの見る目が変わってきているのをひしひしと感じる。
エロい目でスズメを見るヤツの目をつぶして回ったら、やっぱり犯罪になるのかな……。
「ねぇ~、マミ~。なんでさっきからずっと黙ってるの~? さっきの心理テストの結果を教えてよ~。ねぇねぇ~」
首にギュッと絡みつき、耳に口をくっつけるようにして囁いてくる。
胸がっ! 声が脳に直接響く!
「だ、だから、そんなんじゃないって言ったじゃないのー。心理テストじゃなくて、ホントにただ気になって聞いてみただけなのー」
「じゃあさ~、何が気になったの?」
「あ、うん。夢の話なんだけどね」
「夢? 寝てる時に見る夢のこと?」
「そう、その夢ー。スズメって夢には色がついてる人?」
「うん? どういうこと? それが普通じゃないの?」
「あー、そっかそっか。カラーの夢を見る人なんだね。わたしの夢はさ、いつも白黒なのよ」
正確に言えば濃淡はあるから、グレースケールってやつなのかな。わたしは、生まれてから一度も、色がついた夢を見たことがないのだ。
「白黒の夢? 昔の映画みたいな?」
「もっというとスライドショーみたいかな。パラパラ漫画みたいで、滑らかな動画じゃないの」
「え~! すごい! 不思議ね~」
スズメがわたしの背中から飛び降りた。
「不思議かなー。夢はカラーで見る人のほうが多いみたいだけど、白黒の人も少しはいるらしいよ。なんかのアンケート結果で見た!」
「じゃあ、選ばれし者だ! やっぱりマミってかっこいい!」
スズメがわたしの正面に回り込み、顔を覗き込んでくる。
目が輝いていて全開の笑顔……本気でかっこいいって思っているらしい。
「わたしはカラー動画の夢のほうが良いけどな……」
「なんで?」
「そりゃ……」
その後の言葉を飲み込む。
今朝見た夢の話は……わたしだけの秘密にしたい。
「そりゃ、何?」
くっ……そんな純粋な目で、穢れたわたしのことを見つめないで。
夢の中でスズメにあんなことやこんなことをしていたなんて、とてもじゃないけれど言えないっ! これは墓まで持っていくっ!
あーあ。
あれが夢じゃなかったらな……。
わたしは目を閉じ、今朝の夢の写真に色を落としていく。
「ねぇねぇ、マミはなんでカラーの夢がいいの~?」
スズメ。
わたしだけのスズメ。
わたし以外の人には、こんな色を見せないでね。
終わり。
スズメは『色』って言葉を聞いて、真っ先に何を思い浮かべる? 奇蹟あい @kobo027
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