色①。~ そんなあいつは色男 ~

崔 梨遙(再)

1話完結:約2200字。

 その男、石田は小学生の頃から“色男”と呼ばれていた。最近の若い人は、“色男”という表現は使わないのだろうか? 要するに、イケメンのことだ。大人になった彼は身長175センチ、日本人なのにアメリカの俳優チャ〇リ〇・シーンに似た顔つきになった。勿論、モテていた。


 石田は典型的なガキ大将だった。小学生の時は、彼がリーダーだった。彼は頭も良かった。先生からも我々同級生からも将来を期待されていた。だが、彼の実家は商店街の商人だった。どんな大学を出ても、長男なので、将来は店を継がなければならないと親から言われていたらしい。

 

 それで、彼は、“どうせ店を継ぐのなら、どの大学に行っても同じじゃないか”と思うようになったらしい。小学1年生から塾に通っていたのに、彼は中学から勉強をしなくなった。中学の最初のテストだけは学年3番だった。だが、それ以降はどんどん順位が下がっていった。


 結局、石田は希望していなかった高校に進学、出席日数が足りず、留年することになった。そこで、“留年してまで通う高校じゃない”と言って、高校を中退してしまった。その時は、高等学校卒業程度認定試験(旧大学入学資格検定)を受けると言っていた。僕等は、彼ならやってくれると思っていた。だが、彼は受験しなかった。


 石田は、僕等にとってのファッションリーダーでもあった。石田は流行に敏感で、その時に流行っているブランド物を着用し、コーディネートも上手かった。僕等は、彼の真似をすることが多かった。彼は、真似をされるのが嫌だったらしいが。

 

 音楽、邦楽や洋楽のチョイスも彼のセンスが光った。僕達は、彼が聴く曲を聴き、彼の歌う歌をカラオケで歌ったりしていた。僕達にとって、石田はインフルエンサーだったのかもしれない。


 石田は、どこに連れて行ってもモテた。だが、高校時代の彼女以外、恋愛については誰にも話さなかった。流石に、恋愛に関しては首を突っ込まれたくなかったのだろう。僕等は、彼に恋愛の話はあまりしなかった。


 そして、20代の半ば、石田は彼女を僕等に紹介した。その彼女のことは、僕等も知っていた。同じ中学だったからだ。彼の彼女は池田奈保子、美人というよりもカワイイ系、スタイルが良かった。共通の友人の神谷を介して知りあったらしい。


 そして、結婚して子供も出来たらしいが、僕はしばらく大阪を離れていたので、そこら辺のことはよく知らない。結婚式だけ行ったが、石田達とは疎遠になっていた。


 そして、僕は仕事の事情で3年後に大阪に帰って来た。日曜日、家でゆっくりしていたら、僕の携帯が鳴った。石田の携帯からだった。はて、疎遠になっていたのに、今頃なんだろう? 誰か亡くなったとか、そんな用件だったら怖い。僕は、少し怯えながら電話に出た。


「はい、崔です」

「あ、崔君?私、石田奈保子やけど」

「え、何?なんかあった?」


 奈保子のお母さんが亡くなったと聞いたばかりだった。傷心なのだろうか?


「お母さんが亡くなったって聞いたわ。ご愁傷様です」

「そんなことはどうでもええねん、ヒデ(石田のこと)君のことやねん」

「何?石田がどうしたん?」

「私、今まで、お母さんの介護をするかわりに、お父さんから毎月20万もらってたんやけど」

「うん、それで?」

「お母さんがいなくなったから、その20万円がもらえなくなったんやわ」

「うん、それで?」

「ヒデ君に生活費ちょうだいって言ったら、“お金は無い”って言われたんやで、どう思う? 信じられへんわ。妻と子供がいるのに」

「うん、それで?」

「これは、ヒデ君を甘やかしたヒデ君の友達の責任やと思うねん」

「え!僕達の責任なん?」

「そうやろ、友達やったら、働いてなかったヒデ君に注意するべきやろ?」

「あの、もう1回聞くけど、ほんまに僕等の責任なん?」

「そうやろ?友達やったら悪い所は指摘せなアカンやろ」

「はあ……」

「友達がちゃんと働くように忠告してくれていたら、こんなことにはならんかったはずやで。よく考えたら、ヒデ君、まともに働いたことないもん。友達の責任やろ?」

「……ごめんなさい」


 とりあえず、僕は謝ってみた。


「謝ってすむことちゃうで」


 許してくれなかった。


「友達として、ヒデ君を変えてや」


 無理難題を突きつけられた。


 それから、1時間か1時間半くらい、僕は奈保子に説教をされた。正直、僕は“理不尽だ!”と思っていた。だが、お怒りモードの奈保子に、反論は出来なかった。


 電話を切って、夕方、また石田から着信があった。また奈保子だろうか? 僕は怯えながら電話に出た。


「……はい、崔ですけど」

「ああ、崔君、石田やけど」

「昼間、石田の嫁さんから電話があったで」

「巻きこんですまん、ちょっと謝りたくて電話したんやけど」

「嫁さんから、“石田に真面目に働くように言え”って言われたんやけど」

「わかってる、俺、働くから」

「離婚にならんように気を付けた方がええで」

「わかった、ごめんやで」

「僕はええけど、こういうことから離婚になるケースがあるから、ほんま、気を付けてや。離婚したっていうニュースは聞きたくないから」

「わかった、ほな、また」

「うん、ほな、また」



 結婚式まで、奈保子は石田にベタ惚れだったのに、いつの間にこうなったのか? それからしばらくして、石田と奈保子が離婚したというニュースを聞いた。


“色男、金と力はなかりけり”


 イケメンというだけでは、幸せになれないのだろうか? それでも、僕はイケメンになりたいと思う。







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