空雪の双眸、望むはただの一日で。

ロクボシ

第壱話 山とその遥か その1



 夏。



 それは、み嫌う人もいれば、愛する人もいるような不思議な季節。



 いつもは何か変わったことがあるわけでもなくただ過ぎていくだけだったが、この年はどうしても忘れられそうになかった。




 ◇◇◇




 1節 —風変わりな二人—


 俺、矢月流永やづきりゅうえいと、幼馴染の弓月空ゆみづきそらは他の人とは少し違う特徴がある。



 何が変わってるか、というと、瞳の色だ。そしてもう一つ、こっちは空だけだが、髪の色。



 俺の両目は明るい空色。他の人から見ると“夏の空みたいな色”とのことで、矢月家の血を持つ人はほとんどの人がこの色らしい。髪色は、至って普通の黒色。強いていうなら他の人よりも黒みが強いくらいだ。



 空の両目の色は白色。まるで雪のようで、その瞳だけでは表情も感情も読めない、人によっては冷徹とも言うほどの無機質な目。その感情の読めない目を気に入ってか、なぜか学校で空はポーカーフェイスの無口キャラで通している。実際は無口でもなんでもないので、たぶんただの厨二病だ。ついでに空は髪の色も変わっている。



 その色というのが、銀髪。銀髪白眼なのだ。絹のような腰まである長い銀色の髪は、様々な人の目をく。加えて容姿もよく整っている。が、学校ではポーカーフェイスで無口というのが表れ(?)あまり人気というわけではない。



 また、俺と二人でいることが多いので、二人まとめて《空雪くうせつ》と言われたりもする。




 それが人とは違うことによる羨望せんぼう軽蔑けいべつか、はたまた恐れなのかは俺たちに知るよしはない。





 2節 —キャンプ場へ—


 そんな不思議な目を持つ俺たちは今、想い出の山へ登っている。



 小さい時に俺の家族と空の家族でキャンプに行った場所がある山。ありきたりではあるが、ふと2人で思い出して自転車を走らせてきたのだ。そのキャンプ場で、キャンプをするために。



 荷物は俺の自転車の後ろに左右二つ装備した荷物袋パニアバッグに積み込んできたので特に問題はない。山と言っても車道を道なりに進めばそんなに急な坂があるという訳ではないので安心だ。



「あと何分くらいだっけ?」



 そう自分の前を走る空がく。自転車に取り付けたスマホで通話を繋いでいるので彼女の細い声もよく聞こえる。



「このままのペースならあと20分くらいかな」


 そう答えた。


「えー疲れたよやだよー……」


「こっちに空の分の荷物まで積み込まされた俺はどうなるんだ」


「ん〜〜、ごめんねぇ?」


「本当にお前ってやつはな……」



 まるで子供のようないじらしい声で謝られるので怒るに怒れない。空のこういう部分に弱いのはどうにかしたいところだ。見た目ほど暗い性格ではないのはいい事なのか悪い事なのか……。



 とりあえずキャンプのことだとかそれ以外のことだとかで雑談しながら、最終的に会話する余裕がなくなり息もえになったが何とかキャンプ場に辿り着いた。もっと日頃から運動しとけばよかった。



「お〜久しぶりだねーここ!」


「そう……だな……」


「あ、ホントに荷物色々運んでもらっちゃってごめんね」


「大丈夫。生きてるから」


「そんな深刻だったの!?」


「嘘だよ。さっさと昔行ったとこ行くぞ」


「え?あ、うん」



 自転車を降りて押しながら、8年前にテントを立てたあの場所に行く。その場所というのは、近くに小川おがわが流れている場所。周りの景色が一望できる、このキャンプ場でも特に標高の高い場所だ。



「よーし着いたー!」


「さっきからテンション高いな」


「そりゃそうじゃん!8年ぶりだよ?」


「まあ気持ちはわかるがな」


「とりあえずさ、流石に悪いから適当に椅子出して休んでて?テント立てるのは私がやるから」


「え?いいのか?」


「めちゃめちゃ嬉しそうに聞くじゃん……いいよ大丈夫だから。休んどいて」


「助かるわ」



 そう言いパニアの中から折り畳み式の椅子を取り出す。それを展開した俺は休むことにした。

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