時止め探索者の無双配信~ダンジョンで人助けをしたらワケあり美少女たちが所属する大手ギルドからデビューすることになりました~

須々木ウイ

第1話 面接と美少女探索者の大ピンチ

 ダンジョン、魔物、アイテム。


 数十年前。

 科学では説明できない不可思議な空間が、世界各地に出現した。


 空間の中には未知の生物が生息し、それを倒すことで素材や様々な道具を落とすことがわかった。


 魔力、スキル。


 時を同じくして人類の中にも、特別な力に覚醒する者が現れ、その人たちはダンジョンのもたらす災いを止める、“探索者”になった。


 そんな歴史の延長線上、スマホとスライムが同じ値段で買える世界で、僕は暮らしている。


「スーツよし。ネクタイよし。財布とスマホ、その他諸々よし」


 最近のブームは探索者の行うダンジョン配信。世界中の人々が熱狂する、大人気コンテンツだ。


 複雑な迷宮の攻略、狂暴な魔物との戦闘、レアアイテムの入手など、見飽きないイベントを提供してくれる。


 そんな僕もダンジョン配信に挑戦する、命知らずの一人だ。

 探索者の資格試験には、先週合格したばかりなんだけどね。


「父さん、母さん、ミユ。僕がんばってくるね」


 今日僕は大手探索者ギルドの面接を受ける。


 収益の関係で個人で配信する探索者も多いけど、ギルドに所属すれば最新ダンジョンの情報や強力な装備など、様々なサポートを受けられたりする。


 あと、初配信からたくさんリスナーが来てくれるし、コラボ配信や大型企画にも参加しやすい。


 大手ギルドの人気探索者になれば、一年で数十億円も稼ぐそうだ。

 そういうところも魅力の一つだと、カップラーメンが主食の僕は思う。


「それじゃ、いってきます」


 家族にはスルーされたけど、元気よく家のドアを開けて、庭に停めた自転車に乗る。


 今の時刻が八時で面接は十時からだから、余裕で到着できそうだ。


 僕は都心部の高いビルを目指して、自転車をこいでいく。





「あれ? ダンジョンが出きてる?」


 都心部に入ってコンビニの前を横切ると、道路の真ん中に黒くて大きな穴が出現していた。


 穴のふちには誘うように、いくつも階段があって下に続いている。


 その周りには警察官が集まって、立ち入り禁止のテープで、ぐるりと穴を囲っている最中だった。


「これって脅威度Aのダンジョンなんだろ? ヤバくない?」

「大丈夫っしょ。もう探索者グループが入ったらしいし」

「なんか苦戦してる感じだな。配信画面だと」

「マジ? うっわ、ドラゴンいるじゃん」


 コンビニの近くで立ち止まって、スマホを見てる人がたくさんいる。


 僕もスマホを取り出すと、『緊急ダンジョン速報。脅威度Aダンジョン発生』のニュースが画面に広がった。


「もう一人死んだらしいよ。画像上がってる」

「見せんなって。俺グロはダメだから」

「救援要請とか出てないのかよ」

「これ所属ギルドの謝罪会見あるかもな」


 ……なんだか大事になってるみたいだけど、僕にはどうすることもできない。


 探索者になったのは最近で、ランクも一番下のE級だ。


 実は資格の取れる年齢になる前に、こっそりダンジョンに潜って修行はしてたんだけどね。


 ただ他の探索者と連携して戦ったことは、まだ一度もない。


 下手に足を引っ張ったら、デビュー前から大炎上だ。

 無理無理無理、余計なことはしないでおこう。


 だいたい、他人の心配なんかしてる場合じゃない。

 これから未来を決める、大事な面接があるんだから。


 僕はダンジョンの大穴を迂回するように、自転車を走らせた。






 ◇ ◇ ◇ ◇






 脅威度A『業炎灼岩のダンジョン』。

 その上層二十階で、一人の少女がドラゴンと対峙していた。


「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAARッッ!」

「馬鹿な……氷姫連斬すら通用しないのか……」


 :ハアアアアアアアアアアアアアア!? ウッソだろ!?

 :頭部直撃で無傷!? いまのチカ姉の必殺技だぞ!

 :硬すぎてワロエナイ

 :あ、ダメだこれ、終わったわ

 :こっちの攻撃は効かないのに相手は何やっても効果抜群とか無理ゲー

 :いくら何でもボス強すぎだろ、これ本当に脅威度Aか?

 :ダンジョン協会の判定はガバガバ定期

 :千景ちゃん! 死なないで!!!!!!


 黒のロングヘアを腰まで伸ばした少女は、絶望に目を見開く。

 所持アイテムは使い切り、武器は日本刀一本だけだ。


 対峙するドラゴンの体長は二十メートルを超え、紅蓮の炎を全身にまとっていた。


 疲労の色は見えず、ダメージといえば前足の小指につけられた傷一つだけ。

 眼下の少女が身のほどを理解するように、強烈な咆哮を上げる。


 :勝つのは無理でも逃げられないか?

 :転移クリスタルは全部あげちゃったしなぁ

 :できるならとっくにやってると思う

 :え、これ夢? 俺の推しが死ぬわけないよな!? 救援が来て助かるんだろ!?

 :ところがどっこい夢じゃありません……!

 :ギルドの救援チームはまだダンジョンの入口らしい

 :また尻尾で殴ってくるぞ! かわして!


 ダンジョン配信用のドローンが、プロジェクターで地面にコメントを映す。


 同時接続数100万人を超える配信の空気は、悲鳴と怒号で地獄絵図めいていた。


 :いまきたけど、状況どうなってんの?

 :脅威度Aダンジョンが発生→迷惑系探索者グループが無許可で攻略に向かう→イレギュラー発生、ボスのドラゴンと上層で遭遇→グループのリーダーが物理的に炎上、残りも負傷者多数→現場近くにいた大手のA級探索者、小鳥遊千景たかなしちかげが救援要請を受けて現着→負傷した探索者を逃がす→今度は自分がピンチに←いまココ


「GROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーッッ!!」


 ドラゴンは大きく息を吸い、炎のブレスを吐き出す。

 オレンジ色の炎が津波のような勢いで、地面や岩壁を溶かしていく。


「っ……【氷姫雪影ひょうきせつえい】! 大氷壁!」


 対する千景は瞬時にスキルで身を守る。

 スキルとは一人につき、一つだけ発現する特殊な能力。


 彼女の【氷姫雪影】は氷を生み出し、自在に操ることができた。

 しかし──


 :ヤバい、この氷壁さっきよりも低いぞ!

 :アカーン!!!!

 :大って言えるほど高さがねえ!

 :もうスキルに回す魔力が残ってないんだろ、見てわかれ

 :炎のドラゴンに氷のスキルって相性悪くね?

 :しょーがねーだろ、チカ姉しか救援にこねーんだから

 :画像検索したらドラゴンの情報出たわ、炎皇竜えんこうりゅうだって

 :なにその強そうな名前

 :検索できるなら弱点とかわからないの

 :二十年前にA級探索者四十人でハメ殺してるから無理、ちなみに炎皇竜の脅威度はS判定です

 :HAHAHAHAHA! ふざけんなああああああああああああ!

 :もう笑うしかないな!

 :だれかー! 救援に来てくれー!


「あっ、ぐっ、ううううううぅ……!」

(くっ、なんて熱量だ。これはもう耐えきれない……)


 氷の壁が炎の波によって蒸発していく。


 千景は魔力で肌を守り、日本刀を支えにして、一秒でも長く生にしがみついていた。


「チカファンのみんな、すまない。どうやらわたしはここまでのようだ。今日まで配信を見てくれてありがとう。最期の瞬間に一人でないことを嬉しく思う」


 :ああああああああああ! そんなあああああああああああああ!

 :いやだああああああああああああああああああああああっっ!

 :うそうそうそうそ!? これで終わり!?

 :あー終わった終わった

 :千景ちゃん! 頑張れ! 負けるな! 

 :マジで奇跡起きろよ! 起これ!

 :無理、もう画面見れない

 :グロ無理なやつは配信とじろよな

 :ナイスファイト、gg


 千景は配信ドローンのカメラを見て、微笑んだ。


「あぐ、っぅ……くううううぅ……!

(こんな薄暗い場所でわたしは死ぬのか。いやだ……死にたくない! だれか助けて! 助けてよ!)


 圧倒的な炎と熱を前にして、千景はポロポロと大粒の涙を流す。


 配信では武人のように振舞っていた彼女だが、死を前にしてどこにでもいる十八歳の少女に戻っていた。


 目をぎゅっと閉じて、覚悟もできないまま炎に包まれる


 ………………。

 ……………………。

 …………………………。


 だがいつまで経っても、肌を焼く熱も痛みも訪れることはなかった。


(あれ? もしかして、わたしは生きているのか?)


 恐る恐る目を開ける。


(人の体温を感じる。だれかに抱きかかえられているみたいだ。一体だれが……)


 待ち望んでいた救援が来たことに、千景は困惑する。

 コメントの反応を考えれば、とても間に合わないはずだ。


(それにこの服装、探索者ではないのか? まるで就活生のようだ)


 おろしたてのスーツの匂いと、頬に触れるネクタイ感触が余計に彼女を混乱させた。


 こんな格好でダンジョンに潜る探索者は、相当な馬鹿か装備を気にしない天才だけだ。


「あ、あの……あなたは?」

天道一夜てんどういちや。E級探索者です」


 顔を上げた千景に、探索者になったばかりの少年は笑みを向けた。




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