出逢いの日には、風が吹く

林風(@hayashifu)

第1話

あ~、疲れた。

毎日、毎日、仕事ばっかり。たまに休みの日は、ベッドの上で横になるだけ。あとは、飯食べて、母さんの仏壇のお茶とご飯の用意をする。他にすることは、なにもない。

これでも、最初の頃は、仕事が決まって、ホッとして、ジョギングに出かけたり、ボランティアに通ったり、いろいろしてきた。でも、仕事が難しくなってくると、もう、なにもやる気出ない。休みの日は、こうやって、布団に寝っ転がって、ボケーッとするだけだ。


休みの日、相変わらず、ベッドに寝っ転がっていると、姉さんから、電話がかかってきた。

「もしもし?なーに?姉さん」

「なーに?姉さんじゃないわよ。あんた、また、ベッドに寝っ転がってるんでしょ!」

「なにか、悪い?しょーがないだろ。ふぁ~あ...… そうめんでも、ゆがいて食べよっかな」

「休みの日でも、少しは、外出なさいよね!いーい?寝転がってるでけじゃだめよ!」

「それだけ?へ~い。わかりやした~」


起き上がって、そうめんをゆがき、昨日の冷凍しておいた、ご飯を電子レンヂで温め、仏壇に持っていった。

深く深呼吸を三回し、鐘を鳴らす。「母さん。毎日がつまらなさすぎです。今年こそ、彼女でもできますように...…」

母さんの名前は、「風子」。風の強い日に生まれたらしい。名付けた、じいちゃんがいつも、

「いいか?風の強い日は、チャンスだぞ!」

と言っていた。

なにが、チャンスなのか、わからないまま、この年までやってきた。じいちゃん、なにが言いたかったんだろう...…


外に出てみると、太陽が照っていた。でも、風が強い分、心地良かった。

遠くの書店でも、歩いていってみようか...…

ふと、そんな気が起こった。


休みの日に外に出るなんて、久しぶりだった。風が南から吹いてくる。すごく心地いい。太陽の暑さなんて、どうってことないような、涼しさだった。


通り曲がった家から、ピアノの音色が聴こえていた。これは、『エチュード』かな?幼い頃、ピアノを習っていたので、知っている。

向こうの曲がりかどから、女の子が曲がって歩いてきた。髪の長い、母さんにどこか似ていた...…。ぼくは、靴ひもがほどけたので、直していた。すると、女の子のかぶっていた麦わら帽子が、風にとばされ、ぼくの方にとんできた。

「あ...…」

と、その子は、言った。

ピアノの音が聴こえてくる。

「これ、どうぞ」

帽子を拾って渡すと、

「ピアノの音きれいですね」

「そうですね」

「ちょっと、歩きませんか?」

「......いいですね!」

風が強い日がチャンス!!

じいちゃんの残したことばだった。

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