分冊②
分冊②【小刀の章】
彼女は手を洗い、濡らしたハンカチで柿汁を服から搾る用に拭き取り、小刀も洗い、私に見せつける様に、素早く片手の手の内側で小刀を回し、刀身の水滴を振り飛ばすと同時に折りたたんだ、手元で蝶が羽ばたいて見える様に美しい早技である、
「凄いと」私が言ったら
「ふふふ私を怒らせると怖いわよチョンギッチャウよ」と、キョトンした顔で下着を覗かれたお返しの言葉をカマしてきた。心の中でその顔マジでやりそうで怖いからヤメレーと思った。
キョトンとした顔(赤信号)の次は女王様モード(事故発生)になるパターンはわかった、今後は彼女を色んな意味で刺激しない様にしないとと心に固く誓った。
読者の方も疲れるだろう……
いささか冷静さを取り戻した私は、気になって小刀を見せてもらった、改造された物である、ベースは昔、駄菓子屋なので小学生用に売られていた小遣いで買える手頃な携帯用の量産型小刀である様に思われる。
彼女の物は可動部分の止め金は質が良い物に付け替えられていて、鞘はアゲハ蝶の羽柄にマニュキュアか何かで塗り変えられている、だから小刀が手の中で回っていると残像効果で小刀が生きてる蝶の様に見えるのだろ。
刃は丁寧に研ぎ直されており、かなり鋭かった。
最大の特徴は持ち手兼鞘になる部分の中央の辺りにドーナツ型のベアリング部品が両面に一個ずつ溶接で取り付けられていた。
また鞘の底にライトらしき極小の赤電球が2個、蝶の目の様に付いている。
ベアリングの回転と訓練された手捌きが相まって彼女の華麗な早技が完成されるのだろうと考えた。模型が趣味と言うだけの事はある、素人にはできない改造だと思った。
まぁ使いこなすには何回か指を切る練習が必要になるだろう。
彼女に小刀を戻しながら
「これは君が改造したの?」と聞いてみた
「戦利品よ、凄いでしょ、この子、中に目眩し用のレーザーライトも仕込んであるのよ。私は果物を剥くのに使うぐらいだけど」
なるほど、盲目の達人でなければ、この武器の特性を前もって知って対処方を考えていない限り、どんな達人も光は見えないし刀で受ける事もできない、赤い目の蝶の羽ばたきを見た時、視界を奪われ気づいたら首を斬られてるという事か、もちろん真剣勝負に次は無い! 見たら最後、対処法を考える事はできない。
恐るべき必殺の暗殺用武器である、また目の前の彼女はその暗殺者を倒したという事か! と男子の楽しい妄想をしてしまった。
「戦利品? 誰と戦ったの?」
「冗談よ、自作よ、欲しいの?」
その時また後頭部の辺りがビリッとし精神が曖昧になり頭の中で映像が沸いてきた、若い女王に跪き両手を差し出し、剣を授かる貴公子の姿を見た……
素直に「欲しい」と言ってみた
「うーんじゃ……何でも言う事を一つ聞いてくれたらあげる」とまた少女の目が妖艶な感じにチェンジした……
何か想像を超えてくる物凄い事をされるかもしれん気がしたのと内容を聞いたら断れなくなると思い。
「少し考える」
「あらザーンネン覚悟できたら言ってね」
なんの覚悟なのか? マニアック系の性的強要か、もしかしたら私の体の一部を改造しようとしてるのか? 最初は清楚に見えた彼女だが、だんだんヤバい魔性の子なんじゃないかと思えてきたが、タイプ的には瞳が吸い込まれそうに澄んでいて嫌いでは無いと思った、女の子は顔が一番である、性格は良くて当たり前である。
そんなやり取りをしてるうちに店主が店を閉める掃除をしだしたので場は出発する雰囲気なった。
【決意の章】に続く。
【決意の章】
彼女は立ち上がり私に手招きし
「そろそろ行こうか」と言って歩き出した、時間は七時を過ぎていた 一時間近く話していた。
私はただ後を見捨てられないように付いて行くのみである。
自分でもこの時は気づいていないが後で思えばこの時点で私の調教は完了していたと思う……
私を先導する彼女の黒いポニーテールはお尻の辺りまで垂れて左右に揺れていた。
周りも薄暗くなってきてコオロギや鈴虫の鳴き声が聞こえてきた。だが私に剣術の達人の女王様がいや違った!
軍師が付いている!
頼もしい感じがした。
そのうち突き当たりに十字架が掘られた大石が祀ってある、T字路に突き当たった。
彼女に案内は此処迄と最初に言われている。
お互い行先を確認した、左の方角に街灯に輝く商店街と奥に駅が見えた電車に乗れば私は家に帰れるはずだ。
彼女は此処から道なりに行けば一本道で迷うことなく駅に着くのでここまで来ればもう大丈夫と言った。
彼女はT道路の右の方角に住まいの家があるらしい、私は駅の場所を確認できた安堵感から緊張が解けたみたいでその反面、何か彼女の身に急に不安を感じた、ここは駅まで急ぐべきだと思ったが、思い返し、道案内のお礼に家まで送って行くと申し出たら、付いて来ない方がよいと言う。
「私の事は心配無用、私は昔から逃げ足は飛ぶように早いのよ。護身術も子供の頃から習ってるから大丈夫。」と言う、彼女が帰る道は険しそうな山道で、山の中腹の辺りに教会らしき物が見えた、時間も遅いの周囲はスッカリ暗くなっていた虫の鳴き声と複数の蛍が舞っていた。彼女は私に別れを告げると一瞬だけ寂しい顔したがすぐにニッコとして
「あ、忘れるとこだった、ちょっと待ってねっと」と私が気になっていた先程の小刀を取り出し、片膝を地に跪き目を閉じて、おでこに小刀を当て数秒祈りの言葉を唱え、十字を切った。
「はい、お守り代わり大事にしなさいよ。しっかり生き抜いてね。君ならできる私が保証する」
と私に祝福された小刀をプレゼントしてくれた。その時、彼女から何やら波動を感じ頭が軽くなった気がした。
「ありがとう一生大事にするよ」
「嬉しいけど帰り君は丸腰で大丈夫?」
彼女は髪留めを外し、
「もう一本持ってるのよ真打を」と髪留めにも使える様に改良された降りたたみ小刀を見せてくれた。
その小刀は私のより少しサイズが大きく紫アゲハが描かれていた。
そして彼女は軽くニッコリして頷き真顔なって私を観つめた。
私も観つめ返した。
なるほど何か途中から心に引っかかっていた疑問が解けた。
私はドSな聖職者と旅してたのか。
教えにある慈悲の心を持って、赤の他人の私に手を差し伸べたのか、それとも宗教の教えとは関係が無い、彼女の正直な心の行動かは解らんが、どちらにしても純粋に彼女の行為は賛美に値するものだし、素直に嬉しかった、それに彼女からSM行為はあったが宗教の勧誘行為は無かった!
※SMプレーが嬉しかったと言ってるわけでは無い……
この頃には私は彼女を完全に好きに成っていた。
頭と心の中から中々離れなかった、一年程前に別れた過去の彼女の事は完全に忘れていた。
後に私はこの小刀に柿乃守と言う名を付けて今も御守りとして愛用している。
彼女は終電を逃してしまったら駅の近くに二十四時間営業している宿があるとも教えてくれた、夜は経営者の翁は帰ってしまいセルフで無人らしい。
無人の宿と聞いて少しヤラシイ想像をしてしまったやはり自分も男である。
そして少女のような彼女は軽く一礼した後、顔が上げると顔を隠す様に素早く背を向けた、舞った髪からフワッとリンスの匂いがしたてきた……
そして山道の方に歩いて行った。別れ惜しい気がして彼女の背中を眺めていたら途中で一回振り向き笑顔で手を振ってくれた、私も笑顔で手を振り返したその時何か心の中で葛藤のスイッチが入った!
このまま行かせていいのか?
この先も彼女の支えが必要な気がしこのまま別れ、手放したら一生後悔すると思う感情が溢れて、たまらず彼女を追いかけて、
「ま、まってくれ」とおもわず寂しさの余り叫んだその時と同時に何処からか女性の歓喜の喘ぎ声のような、蝉の断末の鳴き声のような、2つの音が重なり合って周りに響た!
その鳴き声に共鳴したのか? 眉間から流れた汗が目に入りしみてしまい瞬きをしたら昔の映画のようなフイルムが劣化してボヤけた感じの様な映像越しに彼女が走って引き返してくる姿が見えた。
手に持ってる「柿乃守」も2つの音に共鳴しギューンと異様な音を鳴らしながら光り輝き天に向かって一線の光線を放った!
その光線は私の頭の天辺を突き抜けて行った!
その影響なのか? 私を覆ってた憂鬱な殻が蝉の殻の様に真ん中から左右に別れそのまま外れ落ち気づいたら私は彼女を抱きしめていた。
彼女の耳元で
「小刀のお礼になんでも言う事を聞くよ、言ってくれ」と囁いた……
彼女は私の胸に顔を埋めたまま
「女の口から言わせる気、最後までダメな人ね」と涙を含む声で囁きながら私の乳首を軽く抓った
「あ、もっと強く」
「もうバカ!最後ぐらい決めなさいよ」
「だっていきなりつねるから」
数秒見つめ合ったあと同時にお互いの唇を奪った。
そして周りが真っ白になり新しく生まれ変わったように力が溢れ
希望の光で目の前が明るくなった……
ここから物語は蝉の殻の様に2つに分かれます。
【分記・家の章】分冊③へ
【分記・少女背徳の禁章】分冊④へ
※どちらに進むかはご自由に。
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