6月26日(水)_キスの真相に迫れ《2巻4章終了後》

「~~~~!」


 定期試験《星集め》4日目の夜――。


 不知火翠わたしが部屋に戻ると、ベッドにダイブした光凛ひかりさまがバタバタと高速で足を動かしていらっしゃいました。


「……光凛さま?」


 Sランク捕獲者ハンター一条いちじょう光凛さまは人前だけでなくプライベートでも丁寧な生活を送る方です。付きっ切りで助手をしているわたしですが、あまりこういう姿はお見掛けしません。


 ただ、その理由に全く見当が付かない――ということはありませんでした。


 ……それも、思い当たる節が2つほど。


「一体どちらの件でもだえていらっしゃるのですか、光凛さま?」

積木つみきさまに〝光凛〟と名前呼びをされた件ですか? それとも……潜里くぐりさまが、積木さまにキスをしていた件でしょうか?」


「ぅ……ひ、額に、ね!?」


 光凛さまが飛び起きました。


 ベッドを覆うようにふわりと舞う鮮やかな金色の髪。微かな朱色に染まった表情は、同時に複雑そうな色もたたえています。


「何が起こったのか分からなかったわ……」


 とん、と両足をカーペットに突きながら、光凛さまが物憂げな溜め息を零します。


「潜里羽依花ういかさん……だっけ。すいは、あの子のこと知ってる?」


「……いえ、詳しくは」


 来都らいとさんが未来を変えなければ貴女を殺すはずだった人間です――とは、とても言えません。


「1-B所属の生徒だったと思いますが。……そういえば、4月にも積木さまが1-Bの教室を覗いている場面に遭遇しましたね」


「確かに!」

「じゃ、じゃあまさか、来都のカノジョさん……ってこと?」


 しゅん、と寂しげに俯く光凛さま。


 庇護欲を誘うその表情は大変に珍しく、かつ愛らしいものではありますが……あまりいじめるのは、捕獲助手サポーターとしてよくありません。


 というわけで、


「絶対に、有り得ません」


 静かに首を横に振ります。


「恋人のいる人間が光凛さまのオフショット画像をホームに設定し、ポスターまで飾っていたら普通にドン引きですので」

「いくら積木さまでも、そのくらいの良識はあるでしょう」

「……それに」


「それに?」


「もう1つの悶えドキドキ要素ですが――先ほどの事件の際。積木さまは、光凛さまのことを〝光凛〟と呼んでいたはずです」


「ひぁぅっ!?」


「可愛い悲鳴を上げないでください」

「……先ほどの様子を見る限り、過去の記憶を思い出した様子はありませんでした」

「それでも下の名前で呼んでいたのですから……」

「脈アリ、ということかと」


 実際には脈アリどころではないのですが、あえて客観的な情報だけで伝えます。


「ぅ、ぅう~……」


 胸元に枕をぎゅっと抱いた光凛さまは、しばらく呻き声を上げていました。やがて上目遣いでちらりとこちらを見て、ポツリとか細い声を零します。


「ホントに? ホントに、そう思う?」


「はい、もちろん。それ以外には考えられません」


「そ、そう。そっか、うん」

「…………ぇへへ」


 ふにゃり、と可愛らしく頬を緩める光凛さま。


(これは……)

(グッジョブです、来都さん)


 そんな主の姿を眺めながら、わたしは心の中でガッツポーズをするのでした。

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