第3話

レナに促されるまま魔法陣の真ん中に立ち、呼吸を整える。

なかなか緊張するな、これ。


「じゃあアスマさん、ライフメモを床に置いて置いてくださーい。そしたら自動的にクラス判定が始まります!」

「よし、やってみよう…!」


足元にライフメモを置く。

すると、メモはすぐにグリーンの輝きを放ちはじめ、ふわりと浮かび上がった。


「お、おお…?」


俺が戸惑っているうちに、メモは俺の顔の位置まで浮かび上がり、さらに輝きを強めた。


「…っ!」


眩しくて目を開けていられない。

次いで、足元から一瞬風が吹き上げたかと思うと、メモの光はスッと消えてしまった。


見ると、そこには見慣れない文字で、しかし何故か読める形で、一言「トーカー」と書かれていた。


「トーカー…?」


何だそれ?

そんなクラスは見たことがないぞ?


ライフメモには、円と、横倒しになった三角形が重なった紋様が浮かび上がり、右手の甲にも同じものがあらわれていた。

この瞬間から、俺はトーカーというクラスになったらしい。


「お疲れ様です!アスマさんのクラスは、わっ!すごい!!トーカーですね!!」

「レナ、教えてほしいんだけど、トーカーっていうのはどんなクラスなんだ?」

「それが、私もほとんど見たことがないんですよ!アスマさんで2人目です!」

「2人目!?もしかしてすげーレアなクラスなのか?」

「ギルド組合の分析では、ここ2カ月くらいで誕生した新クラスなんです!だから、まだトーカーの人たちがどんな能力を持ってるのか全然わからなくて…」


まずい。いきなり得体の知れないクラスになってしまった。

まさかサービス終了間際に実装されたのだろうか。


「えーと、スタッフ資料ノートを見てみますね」


そう言ってレナはズボンのポケットから古ぼけた小さなノートを取り出し、ペラペラとページをめくっていった。


「クラス一覧は…と、あったあった。で、トーカーは…トークスキルがトップ。術スキル習得可」

「トークスキル…」

「はい!」

「トークって、要するに会話するってことか。うーん、じゃあ商人系のクラスかな」


くそ、出鼻を挫かれた形だ。ここでパワーマシマシな武闘派クラスになって、モンスターを倒しまくって突き進むつもりだったが…。


仕方ない、考え方を変えよう。商人には商人の戦い方がある。

それに、今後のステータスの伸び次第では武闘派にクラスチェンジもできるからな。仕様が変わってなければ。


「ステータスはこんな感じですね」


レナがライフメモを裏返して見せてくれた。

そこには少々いびつな六角形が描かれていた。


「筋力、体力、素早さ、器用さ、魔力、どれも平均よりちょっと低いって感じです。精神力は人並み以上!」

「あんまり喜べないなー」


精神力だけが強い商人型ね。

うーん、「トレーダー」とか「プラチナバイヤー」とかのハイクラスは体力も素早さもすごい数字だった気がするが…。


「これからのアスマさんの活躍が楽しみです!トーカーの能力がどんなものなのか、私たちにも教えてくださいね!」

「任せろ、詳細にレポートするよ」


何はともあれ、自分のクラスもはっきりしたことだし、次の準備に移ろう。


「おい、クラス判定が終わったんなら早くどけや!」


ふいに後ろから怒鳴られた。

振り返ると目つきの悪い男がこちらを睨んでいた。赤茶色の短髪、日焼けした肌に、筋肉質な体つき、黒いツナギを着たその様は、いかにもガラが悪い。


「はっ、見るからに頼りねえ冒険者だな。トーカーだか何だか知らねえがダンジョンじゃ何の役にも立たねえだろ」

「は?」


いきなり何だコイツは。


「シグロさん!おかえりなさ…」

「おい女ぁ、お前もモタモタしてんじゃねえよ、さっさと出てけ!」


シグロと呼ばれた男はレナを押し退け、乱暴な足取りで魔法陣に乗り込んだ。


先ほど俺が体験したことと同じ光景になり、ほどなくして光がおさまる。

同時に、シグロはニヤリと笑い、こちらを見た。


「くくく、これで今日から俺様はエースディガーだ!ここまで長かったぜ」


そのままシグロは俺の方に寄ってきて、さらにニヤついた表情で続ける。


「おい新人、そんな役に立つのかわからねえクラスで不憫なこった。俺のパーティーに入れてやろうか?こき使ってやるぜ」

「断る。たかだか初心者脱出程度のクラスで自慢されても鬱陶しいだけだ」

「なんだとぉコラァっ!」


こちらの言葉にシグロはあからさまな苛立ちを見せ凄んでくるが、俺はまったく表情を変えない。変えてやらない。


「止まってくださいシグロさん!急に絡むなんて!アスマさんは今日初めてギルドに来たんです、まだわからないことが多いんですきっと!私からも謝りますから」


慌てて仲裁に入るレナの様子に、シグロはチッと舌打ちをして、俺に肩をぶつけてから部屋を出ようとする。

そこで立ち止まり、また口を開いた。


「まあせいぜい頑張れや新人。俺は明日からガランダ銀山で探索だ、お前らみたいなのがいくら来ようと制覇できないフロアでガッツリ稼いでやるぜ。ハッハッハッハ!」


そう言ってシグロは部屋を出て行った。

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