第2話

英雄の俺はオッサンとして認識されているのか?

プレイヤーIDのアバター設定は武器マークにしてたし、外見の情報は何も入力していなかったはずだが。


とは言え実年齢とはギャップのあるこの姿も何とも言えない恥ずかしさを感じる…。


まあいいや、それよりもこれはマジで転生っぽいな。

正確には転移と言えばいいのか?

まあ、死後の世界でも何でもいい。俺は今この一歩にとてもワクワクしている。

言葉の定義は今ひとつわからないが、俺は31歳の日本人男性としての人生、そして2年半のサンレジェのプレイ経験を持ってこの場に立っていることだけは確かだ。


・・・ヤバい。これはヤバい。

激烈に楽しそうじゃないか、この状況。


「はい、登録ありがとうございます! 今日からアスマさんも立派な冒険者ですよ!」

「ありがとう!」


いいだろう、これが現実なのか夢なのかも知らん、いま俺が楽しくてワクワクしていることがすべてだ。

早速第二の人生を始めようじゃないか。


とはいえ、最初は能力も武器も何も持っちゃいないからな。

せっかくゲーム世界に入り込めたのだから、これまでのプレイ経験で成り上がってやりたいものだが。


そんな考え事をしている俺を横目に、レナが戸棚から何かを持ってきた。


「はい、こちらがレンジャーリングです!」


そう言うとレナは俺の右腕をガッと掴み、右手首に銀色の腕輪をはめた。

すると、腕輪はふんわりと緑色の光を放ち、しっかりと俺の腕に吸い付くように動かなくなった。


「この腕輪はギルドに登録された冒険者の皆さんが必ず身につけているものですよ」

「へえ。じゃあ、冒険者の証みたいなもんか」

「それもあるんですけど、この腕輪は、このヤルダ村ギルドの魔法使いの皆さんと連携してるんです。例えば予定を過ぎても探索から戻ってこない時とか、とんでもなくレアで凶暴な魔物に出会っちゃって助けてー!って時とか、緊急の連絡と対応ができるようになってます!」

「命綱があるってのはありがたいぜ」


サンレジェには、戦闘で全滅なんてことはあっても、ゲームオーバーがなかった。ギルドに戻ってまた鍛錬の繰り返しでクリアしていけるゲームだ。

強敵に負けても「撤退」と表示されるだけだったが、その「ギルドに戻る部分」がこういうアイテムと魔法使いの助けで成立しているわけか。


「そして!さらにさらにー、こちらはビークル王国直々の特別配布軍資金でーす!よいしょ、と、重たーい!どれだけコイン入ってるの、羨ましいっ!」


続いてレナが顔を真っ赤にしながらカウンターに乗せたのは、古めかしい木箱だった。

蓋を開けてみると、金貨がぎっしり入っている。


「先月から、ビークル王国が管轄してる街や村で冒険者登録した人には、もれなく100000コインが支給されることになってます。ひえー、すごい額…。でも皆さんの装備品、どれもお高いですしねー」


これはたしか、サービス開始2周年あたりから始まったログインボーナスのはずだ。

新規プレイヤーがある程度追いつけるようにするための処置で、その後の英雄統一戦実装ではかなりの数のプレイヤーが参加したはずだ。効果はあったのだろう。


やはり時期は2周年の後と見て間違いない。


「最後にこちらをお渡ししますねアスマさん」


そう言ってレナが手渡してくれたのは、ただの真白い紙だった。


「これは…」


「クラス判定を受けるためのライフメモです!」


きたっ…!!

サンレジェの中で最重要要素と言ってもいいだろう、プレイヤーのクラス設定。


このクラスが何になるかでゲームスタートの難易度が大きく変わる。

しかもこのクラス、開始時にランダムで設定され、パラメータも毎度ビミョーに変化するという謎のこだわりようだった。

もちろんプレイヤーごとに違いが生まれるのはおもしろいが、キャラクターメイキング機能で好みの主人公を作成!といった発想とは真逆で、今考えても特殊なゲームだ。


「ではこちらの魔法陣が敷かれたお部屋へどうぞー!」


レナに案内されたのは、石壁に囲まれた薄暗い真四角の部屋だった。窓のようなものもあるのだが、光がさすにはずいぶん小さい。四隅に置かれた蝋燭の火が頼りだ。


部屋の真ん中には大きな魔法陣。幾何学模様をいくつか組み合わせてある。


先客(この時点では先輩冒険者か)がちょうどクラス判定を終えたところのようで、見るからに重そうな鉄の甲冑に身を包んだ男が、右手の甲を確認して満足げに出ていった。


「狼の紋様…あれはホワイトファング! スタート時点であのクラスなら、難易度Dまでは楽勝だな」

「詳しいですねアスマさん!さすが冒険者志望って感じです」

「いろいろ勉強したからねー。能力とかさ」


先客を見送りながら、俺はクラスについて思い出していた。


ランダムに設定されるクラスは、魔物への攻撃特化型から他プレイヤーへの支援型、はたまたこのヤルダ村を拠点として様々な施設を展開していく商人型など多種多様だ。


とは言え、RPGと言えばバトル。そして勝利。

やはり戦闘向きの強力な技を習得できるクラスを希望したいところだ。


剣使いのパラディンやサムライ、槍使いのドラグナーあたりが希望だが…。なれたら絶対カッコいいよな。


一方でこれらのハイクラスは育成に時間がかかる面もある。

さて、どうなるか。

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