二章 獣人の領土~ドンタイガー領~
一話 領主に会う方法
地図を見つつ、二時間程歩いただろうか、獣人領のドン・タイガー領が目の前に広がった。見事に森の中に位置していて、大きな領主が住むお城の周りだけ綺麗に整備されているようなイメージだ。そういえば、戦争の真っただ中と言われたわりには静かなような気がするのだが…。平和なのは良い事ではあるか。
城門に続く道は整備されていて、とても歩きやすい。ここから、攻め込まれる可能性はある、か。さっきから気になるけど、普通に人間は行き来しているのか。戦争の最中ではあるけど、魔王は本当に気にしていないのか。人間領では獣人なんか見なかったし、見ても、王のコレクションとか言う奴隷だけだったよな。
城門を抜けて…ん?ここはチェックとかしないのか?身分証のチェックしないと、どんな奴が足を踏み入れるか分からないと思うんだけど…。おぉ、中は石材を加工した家が並んでいるのか。この近辺だと…採れそうだし、自然を壊さないような配慮を感じるな。すごいや。
「いらっしゃい!」
声を掛けられた方を振り返ると、そこにはイメージとは違った獣人の姿があった。耳は生えていて、全身が毛でおおわれている。手足はモチーフの動物のまんまで、肉球だったり、爪だったりが見れる。ほとんど動物が二足歩行しただけって感じだ。これは…可愛いな。
「何を売ってるんです?」
「リンゴだ、見ればわかるだろ?」
「じゃあ、一つください」
「あいよ」
もらったリンゴを齧りながら、目的を探す。そういえば、魔王に会ってみるというのを掲げた気がするな。会うためには…領主の印が必要なんだっけか?全部集めるためには…すべての領土を回って行く必要があるか。あ、丁度いい、聞いてみるか。
「領主に会いたいのですが、どうすればいいと思いますか?」
「さぁ…分からないね。」
「そうですか、ありがとうございます」
「あんちゃん、ギルドに行ってみたらどうだい?」
なるほど、その手があったか。そういえば、ギルドは領地や国からの要請で動いているんだった。てことは、そっちで聞いた方が早そうだ。まぁ、そもそもの話、領主にやすやすと会えるなんて事はありえないか。
「うん、迷った。」
ここはどこですか?私は誰ですか…?おっと、自分のことは分かるか!そんなことをしている場合ではない。誰かを捕まえて案内してもらうべきだった…。大通りで誰か来ないか、探していたら、自分より大きな盾を身に着けた少女を発見する。綺麗な真っ白い髪をしていて、ゆるふわなパーマの子。あの子、獣人領の子なのか?
「こんにちは?」
「ひゃい?!」
「取って食おうとしたりする訳ではないので、そこまで驚かないでください…」
「ごめん……なさい」
おどおどしているけど、装備を見る感じ…魔物を討伐するんだよね?それにしても、この子は全身毛むくじゃらじゃないのか。人間に近いのに、角だけは生えてる…白で角か…羊か?!羊かもしれない!可愛いな、羊は好きなんだ、あのひっくり返ったらもうどうにもできなそうな感じが…!
「ギルドに行きますか?」
「あぁ…はい…行きます…」
「一緒に着いて行ってもいいですか?」
「分かり…ました」
着いて行って、ギルドに到着する。ギルドもこっちでは石造りで、周りの家より立派な建物だった。お礼を言って別れて…ってあの子はギルドに用事無かったんだ。ごめんね、なんか悪い事をした気分になる。脅して連れてきてもらったみたいな…感じ?いや、丁寧な物言いだった、大丈夫だ!受付嬢の元に歩いていく。受付嬢も当たり前だけど獣人なんだな…ウサギだ!これはウサギ…可愛いね、雄かもしれないけど。
「どうかされましたか?」
「えっと、登録って必要ですか?」
「え…?登録は必要ですけど…?」
「あ、そうじゃなくて、人間領土で登録しているんですけど、もう一度必要ですか?」
「ああ!そういう事でしたか、それなら必要ないです!ただ、少しばかり態勢が異なりますので説明をさせてください」
カウンターからスキップのような歩き方で外に出てくる。待てよ、そういえば大きくないか?これ、動物たちの特徴そのままに大きくしたって事か?人間って勝ち目あるのか?動物たちの身体能力ってかなりすごいはずなんだけど。もし仮に、倍ぐらいの身体能力を得ているなら…勝ち目はないと思う。
「こちらが狩猟ボードです!」
大きなコルクのボードに魔物のイラスト付きで手配書のようにびっしり並んでいる。クエストにはランクがついていて、報酬も書かれていた。そう、ここまでしないとただただ無駄死にしてしまうだけの危険しかない職業だ、と思う。自分の実力を測る意味でもやって欲しいものだ。
「ランクは下からカッパー、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナになります!」
「なるほど」
「貴方のランクはカッパーからになります!」
うん、無難だ。ここで急にプラチナからです!とか言われたらどうしようかと思った。新手の人間いびり的な、ね。
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