共感覚ふたり
白千ロク
本編
同じように数字や文字、音などに色が見える人がいると知ってから、私は安堵した。だって私は『変』じゃないから。自分自身がおかしいのではないのかと思ったこともあるが、長くないのには理由があった。
みんながみんな、言葉に色が見えているわけではないと解ったのは保育園に行ってからだ。母さんや父さんはあらあらそうなの、どんな色なの? といった風だったから、てっきりみんな同じなのだと思っていたのだ。それに、年に数回会ういとこのゆきちゃんだって、同じだったものだから勘違いをしていた。環境というのは恐ろしい。
こうして大学に通うまでに調べた結果、これは『共感覚』というもので、世界中に一定数いるのだと理解した。文字や音の人は大変だなと棚上げしたが、言葉も日々に寄り添ったものだから消えることはない。つまり、文字・音・言葉・匂いに対しての共感覚持ちは、自身が死ぬ間際まで付き合う必要があった。いわゆる一生なのだから。
共感覚持ちは共感覚持ちでも、個々によってまた様々だから、本当の意味での共感は難しいだろう。解りやすくいうと、動物好きでも、小動物好き、犬好き、猫好き、鳥類好き、爬虫類好きと分かれるみたいなものである。ゲームでも、オンラインゲーム、家庭用ゲーム、スマホゲームとがあるようにね。それでも、同じような人がいるというのは安心を覚えるものだ。ひとりではないというのは心強い。
待ち合わせの食堂は、相変わらず色で溢れていた。愚痴は寒色、推しを語る子たちは明るい色。味を伝える言葉は暖色。
「お待たせ」
小走りに寄るゆきちゃんの声はいつも柔らかな色が見える。言い訳や嘘は灰色だから、すぐに解るんだよね。
対面に座ったゆきちゃんはトートバッグから小さなペットボトルを出して一口飲んだ。赤いパッケージの紅茶らしい。
「新発売のお菓子があったから買ってきたよー! ぶどうのグミ!」
私もトートバッグから買ったお菓子を出すと、ゆきちゃんは「お昼を食べたら一緒に食べようか」と笑う。なにを食べようかと話し始めるのがランチタイム前の日課だ。
同い年だけど確実に大人びている彼女といると何度も妹に間違えられたが、ゆきちゃんは自慢なので間違えられてもいいかなと思う。ふっふー、素敵なお姉さんの隣にいるのは私なんですよー!
ゆきちゃんの見ている世界はどんな風なんだろう。私の声はゆきちゃん曰く『暖かい』らしいが、私からしてみれば、ゆきちゃんこそお日様なんだよね。
ゆきちゃんは優しいし綺麗だし時にはかっこいいし、最高の女性だよ。声高らかに宣言したい。恥ずかしがるから言わないけど。
あーと
あ、すみません。愛が爆発してしまいました。
(おわり)
◆◆◆
【 あとがき 】
私は共感覚持ちではないので、どのように見えたりするのかは解りません。また、実際の事情などとは一切関係ありません
共感覚ふたり 白千ロク @kuro_bun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます