彼女が人気アイドルになり遠距離恋愛になってから、地元の幼馴染が俺に迫ってくる。そして俺はそれを受け入れた。

カイマントカゲ

第1話 三人

『昨日、県内の大学に通う男子大学生の久保楓さんがアパートの一室で包丁で刺され、殺害される事件が発生しました。犯人は久保さんの知人と思われる女性◼️◼️◼️◼️。◼️◼️容疑者は久保さんを刺した後、同じ部屋で自らを久保さんを殺害したのと同じ包丁で刺し自殺しました。警察は◼️◼️容疑者と久保さんの間には女性関係のトラブルがあったとして捜査をする方針です』


 ♢


「東……京」

「うん。向こうの大きい事務所にスカウトされて……。でも私なんかが大丈夫かな? かえで君無しでやっていけるかな?」


 彼女は不安で泣き出しそうな顔をしていた。それを俺は黙って抱きしめる。男らしくとかではない。

 ただ何も言葉が出なかったのを誤魔化すためだけに。


「楓君……?」

真桜まお……」


 行かないでくれ。本当はそう言いたかった。でも口から出た言葉は……


「真桜は世界一可愛いから大丈夫。応援してる!」

「……うん。ありがとう、私頑張る!」


 こうして俺の大切な彼女、西岡真桜にしおかまおは東京に行ってしまったのだった。


 一年後


「では今日のおはようジャンケンは大人気アイドルグループ『Marin Cherry《マリン・チェリー》』のメンバー、西岡真桜さんです!」

「はーい、行きますよー! おはようジャンケン、ジャンケンポン! 私はパーを出しました! みなさん!今日も元気に頑張りましょう!」


 朝のテレビに映し出される真桜を観ながら朝食を食べていた俺はあらためて感心していた。

 アイドルになるため東京に行って一年。真桜は一気にスターダムを駆け上がっていた。今ではこうして朝の番組に呼ばれたり、ゴールデンのバラエティにゲストで呼ばれる事もあるくらいに有名になっていた。


「すっかり別世界の住人になってしまったなぁ」


 あの日から遠距離恋愛となった俺達。

 現代は便利なのでリモートで顔を見ながらの会話もできるし、会いたい時は東京観光も兼ねて会いに行ったりもしていた。だが大学生の俺にはそんなに何度も行けるほどの金はない。

 それに真桜の人気が上がるにつれて仕事が忙しくなり、二人で話すことは次第に少なくなっていた。

 そんなことを考えているとスマホから着信音が鳴り響いた。


「あ、もしもし楓? テレビ見た? 真桜がおはようジャンケンやってたわよ!」


 電話の相手は俺の幼馴染で真桜の親友でもある成瀬麗奈なるせれいなだった。


「ああ、今見たところ」

「凄いわよね、朝の番組にまで出るようになって。もうすっかり人気アイドルね」

「ああ。もう俺が真桜の彼氏だって言っても世間には信じてもらえないだろうな、ははは」

「……」


 俺は自虐もこめて笑いながらそう言ったが、麗奈は黙ってしまう。


「……アンタ最近真桜とは話したりしてるの?」

「ま、まぁ電話したりメッセージでやり取りしたりはしてるけど……」


 一瞬あまり出来ていないと言いそうになったが言葉を飲み込み、出来ていると嘘をついてしまう。麗奈にはあまり心配させたくなかった。


「そう……ならいいんだけど。ところで今日って時間ある?」

「今日? まぁ特に予定はないけど」

「じゃあちょっと付き合ってくれない?」


 ♢


 成瀬麗奈は俺の幼馴染だ。偶然家が近所で、親同士も仲良くて俺たちも気がついたら一緒にいた。

 中学になったある日、友達になってほしいといって麗奈が連れてきたのが当時は地味で暗くて大人しかった西岡真桜だった。

 それから三人に過ごす日が多くなり、三人とも同じ高校に進学した。高二の冬、俺は真桜から告白されて付き合うことになったのだった。

 その後、アイドルにスカウトされた真桜は卒業後東京へ、麗奈はデザイン系の専門学校へ、そして俺は何となくでとりあえず大学へ。三人はバラバラの道へと進むことになった。


「ごめん楓! ちょっと遅くなって」


 俺は待ち合わせの駅前でぼおっと待っていると、麗奈が少し駆け足で現れた。

 ゆるふわパーマをかけ、ポニーテールにした亜麻色の髪。服装はシンプルながらもよく見るとフリルの入った黒いブラウスに、水色のハイウェストのテーパードパンツで元からスタイルは悪くないがさらに細身のシルエットにみえる。カバンと靴も黒で揃え、スッキリとした綺麗な大人の女性感を出していた。


「別に大して待ってないよ。しかし相変わらずオシャレだな麗奈は」

「なっ!? べ、別に普通よ……。学校にはもっとオシャレな子もいるし……!」


 口ではそう言うが、麗奈は顔を赤くして俯きながら前髪を触っている。これは麗奈の昔からの喜んでいる時の癖だ。


「そう? 俺はすごくセンスいいと思うけど」

「あ、ありがと……」


 麗奈は消え入りそうな小さな声で呟く。


「で、今日は何の用?」

「え、あーちょっと服買いたくて……楓の意見も欲しいなって思って」

「服? 別にいいけど俺の意見なんかいるか?」


 麗奈はデザインの学校に行ってるだけあって昔からセンスがいい。別に俺の意見なんていらないと思うんだが。


「ま、まぁいいじゃない! じゃ、いくわよ」


 こうして俺は麗奈と買い物に行く事になった。

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