お前の血は何色だ?
過言
赤い血、青い血
あ、お疲れ様です、先輩。
さっきそこで吸血鬼と会ってきたんですけど、そんなに人間と変わらないもんですね。
黒いマントにオールバックに真っ白い肌、んで牙ぎゅいーんってイメージだったんですけど。
黒くはあったんですけど、普通にスーツでした。ネクタイも黒かったんで多分喪服なんでしょうね。あとオシャレな黒い帽子を被ってたんで、髪型はわかりませんでした。
肌はまあ、そこそこ青白かったです。普通にあれぐらい白い人もいるかなってくらいでしたね。
全体的に、『この世のものとは思えない』とは思えない、見た目でした。
なんの話かって……いや、吸血鬼と会ったんですよ?もっと驚いても良いじゃないですか。
僕は確かに、そんなに驚いてないように見えるかもしれないですけど。会ったその場で驚き尽くしたんで、もう驚きが残ってないってだけですよ。
まあ怖かったです。
周りに真っ赤な血の跡がありましたから。
だから吸血鬼ってわかったのかって?
いや別に、そういうことじゃないんですけど。
先輩は蚊の生態ってわかります?
ああ違くて。謙虚ですね先輩。専門分野とかじゃ全然なくて、ごくごく普通の、常識の範囲だけの知識でいいんです。
蚊は、人間の血を吸いますよね?
食事っていうより、産卵のための栄養補給らしいですけど、そこは一旦無視するとして。
蚊は、自分よりもずっと大きな相手の血を吸って、栄養にするじゃないですか。
吸血鬼もそうらしいんですよ。
本当は。
だから、人間の血を吸うっていうのは、ほとんど共食いみたいな感じらしくて。
結構無理してるんだそうです。
それに赤い血って栄養効率が悪くって、一人分まるまる吸わないと栄養にならないんだとか。
だから、死なない為に、殺さなければいけないんです。
仕方ないんですよ。
元々ターゲットだった、青い血の大きなものたちは絶滅してしまったから。
人間が絶滅させてしまったから。
昔の話です。
先輩みたいな、今を生きるただの人間には関係のない話ですよ。
吸血鬼は長生きですから。
ああもちろん、僕にも関係ない話でしたね。
それでですね、まだ本題に入ってないんですよ。
僕がその吸血鬼に託された、頼みごとの話です。
全く一切関係ない、赤の他人として、ね。
だから先輩に話してるんですよ。
先輩は、赤色が赤色だって証明できますか?
いきなり言われてもわからないと思いますけど、んーと、そうですね……
先輩が見ている赤色は、他人から見たら先輩が見ている緑色と同じ色かもしれない、ってことです。
わかりませんか?
例えば生まれつき色の違いが分かりづらい目を持っている人なんかは、赤色と緑色がほぼ同じ色に見えてたりするわけです。その色を再現した画像とか、ネットで探したらありますよ。先輩にとってその色は何色ですか?……汚い黄緑。なるほど。
それじゃあ例えば、生まれつき赤色と緑色が全く逆に見える人がいたとしたらどうです?
その人の視覚を再現した画像を用意したら、その人が「赤」と呼ぶ色が先輩には緑色に見えるでしょうし、その人が「緑」と呼ぶ色が先輩には赤色に見えるでしょう。それは間違いではないわけです。
でも、その人にとっては、自然の景色の緑が、先輩にとっての赤色に見えていて、それを『緑』と呼ぶんです。自分の体を流れる血が、先輩にとっての緑色に見えていて、それを『赤』と呼ぶんですよ。
先輩とその人は、全く同じものを見て、全く違う色に見えているのに、全く同じ色でそれを形容するんです。
この色って鮮やかな赤だよね、と先輩が言うと、その人は頷きます。この色ってくすんだ緑で、あの草と同じ色だよね、と先輩が言うと、その人は頷くでしょう。
だから、色がみんな同じに見えているかどうかなんてわからないんです。
わからないまま、衝突なんて起こらずに平和に生きていくんです。
つまり人間の目は相対的な色を見るのが精々ってことですよ。
じゃあ正しい色、絶対的な色ってなんなんでしょう?
光の波長?そんなつまんないこと言わないでくださいよ。
何の目ならそれを正しく見られるのかって話です。
それが吸血鬼なんですよ。
先輩。
その目で正しく見た時に。
絶対的に青い血の持ち主は先輩だけだったんです。
だから、だから、
だから、僕と一緒に逃げましょう。」
そう言って顔を上げた彼の目は、この世の何よりも緑色で、澄んでいた。
お前の血は何色だ? 過言 @kana_gon
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