第38話 戦いの決着
☆☆☆回想
物心ついた時から俺はクソ親父に虐待同然の生活をしていた。……いや、もうこれ虐待って言ってもいいだろう。
人とは思えないような特訓を積み重ね、一定の基準を満たすと山に放置され一人で生き残る生活を送っていく。
何度か骨が折れて死にそうになったこともあるし、熊に襲われて死にそうにもなった。
そのたびに親父は『この程度で死ぬようならそれまで』と言わんばかりの、冷めた顔をしていた。
一度だって俺が大怪我しても心配なんかされたことはなかった。
首を吊られた時は本当にあの世が一瞬見えたし、地獄なような日々を送っていた。
友達は当然いなかったし、出来たものと言えば消えることのない身体の傷だけだ。
当然こんなことをする親父を憎んだ。憎み続けていた。いつか絶対に倒すと……
そんな時に出会ったのが京都だった。
漸く地獄のような日々が終わり公園に立ち寄った時のこと。
京都と出会ったことで、俺の交友関係は少しだけ広がった。
あの時あいつは俺のことをかっこいいと言った。
それが幼いなりに嬉しかったんだ。実力を認められたことが……
最初は弟分が出来た気分だったし、あいつが女だと知ってからも、そう気持ちは変わらなかった。
べったりくっついて離れなかった京都。
その傍に居たいという気持ちがいつの日か恋に変わったんだ。
そして俺はその気持ちに気付いた瞬間好きだと伝えた。
京都が好きだ……
そう。俺は京都が好きなんだ。その気持ちがあれば、俺は無敵だ。
京都……京都……京都……
☆☆☆立ち上がれ
途切れ行く意識の中。京都の声が聞こえた。
「せんぱい……勝ってくださいっす!」
そして、その言葉は……俺の意識を一気に晴らす。
「せんぱぁい!」
つまり……京都も俺のことを認めてくれたんだ。
全身が痛い。骨だって色々折れてるだろう。だけど、それでも、目の前にいる京都を裏切る真似は出来ない。
痛みは慣れている。骨が折れていたって構わない。今の俺じゃ親父に勝てないことなんて最初から分かっていた……なら最後のチャンスにかけるしかない。
正直口を開く体力すら残っていない。だから……
俺は京都に『大丈夫だ』拳を向ける。
「せんぱぁい……」
「無駄なあがきだ。いくら根性論で起き上がろうと、人の身体には限界がある。俺はお前の状態が手に取るように分かっている。肋骨粉砕骨折。前頭骨及びに上腕骨粉砕骨折……左肩関節亜脱臼……膝関節……背骨もか……」
正直親父の言ってる部位に関してはさっぱり分からないのでいいか……
身体が動けば大丈夫だ!
「何を言ってるかさっぱり分かんねえよ!」
俺は親父に殴りかかった。
「無駄だ……! もう終わりにしてやる……!」
当然俺の攻撃は躱される。知ってるさ!
親父の一撃が飛んでくる。
「その瞬間を待っていた!」
俺は紙一重で親父の一撃を躱し、親父を掴む。
「打撃では勝てないからと投げるとでも? 愚策!」
親父の袖を掴むフェイント、狙いへ別のところだ。
親父の大木の様に太い首にフロントチョークを仕掛ける。
「っぐ! 締め落とす気か……だが、お前も知っているはずだ。俺は例え首を吊られても五分は意識を保ってられる……お前の力でも、さしずめ二分だな……その間にお前は無防備になる。愚かだったな……このまま叩きつけるぞ!」
当然俺のこと持ち上げ地面に叩きつける気だろう。
恐らく高層ビルから落ちたような衝撃が訪れる……
「っふん!」
叩きつけられる瞬間俺は姿勢を変える。フロントチョークを解かないまま、足を親父の首に三角締めをした。
「っぐぅぅぅん! 何!?」
「うおおおおおおおおお!」
もうこれしかない。今ある全ての力を使って親父を締め落とす。
「足と腕の力があれば一+一=百。つまり十倍の威力がある!」
「っぐぉぉぉぉおおお!」
親父の動きが鈍くなる。もう力は残されていない……全力で搾り上げる。
「落ちろぉぉぉぉぉ!」
頸動脈を……落とせ、落とせ、落とせ!
そのまま親父からどんどん力が失われて……ばたりと倒れた。
完全に意識を失っているのを確認する。戦闘中に五秒も意識を失っていれば俺の勝ちだ……
「京都……勝ったぞ……勝った。俺は勝ったぞ……あれ……?」
あ、床が……
「せんぱい……せんぱい……せんぱい!」
そうか、俺もう意識ぶっ飛ぶ寸前だったんだ。そりゃあんだけ殴り合っていれば脳が何回も揺れて、そりゃ……骨も折れてるんだから歩けないよな。
でも京都に伝えないと……だって、京都は俺の恋人なんだから……
「京都……大好きだぞ」
「せんぱぁい!」
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