0番目の黒
月井 忠
一話完結
そもそも黒という色はない。
色は人間の目が認識できる可視光の範囲であり、その中に黒はない。
黒は光を反射しない。
色とりどりの世界にあって、光を反射しない部分。
それを「黒」と言っているに過ぎない。
存在しない存在を「0」と言っているのと同じだ。
0には何をかけても0になる。
しかし、足すことはできる。
ボクもそうやって、この世界にやってきた。
ボクはしばらく、世界を観測するだけの虚無な存在だった。
この世界は初め、とてもつまらなかった。
赤いドロドロに溶けた岩ばかりで見るものなど何もなかった。
しばらく目を閉じて、鼻歌交じりにスキップする。
すると、今度は水ができていた。
水は海になって、世界を覆っていた。
ボクは海で泳いで、暇を潰した。
興味深いことが起きた。
海の中に動く物があったんだ。
ボクはソレを追いかけ、一緒に遊ぶ。
そうするうちに、丘に上っていくものたちが見えた。
ボクはソイツらを追いかける。
気づいたら、緑色のヤツらがすでに丘を覆っていた。
コイツらは動かない。
でも、風に揺られ、とても気持ちよさそうに見えた。
陸には動くヤツら、海には泳ぐヤツらが溢れた。
ボクは暇じゃなくなった。
そうして、みんなと遊んでいた頃、不思議なヤツらがやってきた。
後ろ足で立っている、ひょろっとしたヤツらだ。
初めは色んなヤツらに喰われていたのに、だんだん喰う側に回っていった。
ヤツらは変なモノを持っていた。
今までに見たことがないモノ。
木の先に石をくっつけたような、そんなモノ。
それで動くヤツらを叩いていたんだ。
それに、ヤツらはお互いに口を動かして、何かを伝えているようだった。
ヤツらは常に集団で動いた。
一番驚いたのは火だ。
初めの頃見た、ドロドロの岩に似た、真っ赤な火をヤツらは自由に使った。
それからはあっという間だった。
ヤツらを色んなところで見かけるようになった。
特に海とか川とか水のある場所にいた。
しばらくヤツらを見てると、あることに気づいた。
ヤツらはよく争った。
お互いに殴り合うんだ。
別に喰うためじゃない。
だって殴った後に死体を埋めたり、放置するんだから。
わけがわからない。
他のヤツらはこんなに頻繁に殴り合ったりしない。
そりゃ、他のヤツらも食べ物がない場所に閉じ込められると、互いに食べることもある。
でも、生きるためだ。
コイツらは生きることとは関係なく、仲間を殴る。
よくわからない。
そこからだったと思う。
ボクはコイツらに興味が湧いてきたんだ。
ボクの体に色を足す。
そうすることでボクは完全な黒から、存在する体へと移っていく。
0から少しずつ1に近づいていく。
そうしないとコイツらに近づけないから。
話を聞けないから。
コイツらは色んな物を作った。
しまいには、自ら動く物も作った。
コイツらは自分のことを人間だと言った。
この世界のことを地球だと言った。
ボクは学んだ。
それでも、まだわからないことがある。
なんで、殴り合うの?
キミも仲間を殴ったことある?
もしあるなら、理由をボクに教えて。
0番目の黒 月井 忠 @TKTDS
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