あの空のかなたまで

136君

最終試行

 たとえばの話だ。


 たとえば今、空を見上げてたら、何色に見えるんだろうか。澄んだ色に見えたならそれでいい。でももし濁って見えたら、それは僕の瞳が濁っているんだろうか。


 人の陰ばかり映してきた僕の瞳には、世界が少し濁って見える。光は全てぼやけ、陰ばかりが強調されて見える。


 そしてそんな自分が嫌になる。


 たとえばの話だ。


 たとえば今、海を眺めたら、何色に見えるんだろうか。澄んだ色に見えたならそれでいい。でも、もし油ばかりが目に入ってしまったら、それは僕の瞳が汚れているんだろうか。


 人の闇ばかり映してきた僕の瞳には、世界が少し汚れて見える。視界はいつでもぼやけ、朧気な光だけが差し込んでくる。


 たとえばの話だ。


 たとえば今、光を見つけたら、何色に染まるのだろうか。澄んだ色ならそれでいい。でも、もし黒く濁ってしまったら、それは僕の心が汚れているんだろうか。


 人の気持ちなど理解してこなかった僕の心には、世界が少し暗く映る。思考はいつでも尖り、ナイフのようにチクチクと突き刺してくる。


 たとえばの話だ。


 たとえば今、言葉を発したら、何のためになるのだろうか。僕一人の一存で、世界なんか変えられるわけがない。でも、もし変わってしまう世界なら、そんな世界を僕が作り変えることが出来るのだろうか。


 周りの人など見てこなかった僕の瞳には、社会というものを把握出来る程のキャパシティや経験がない。だから答えは否だ。


 たとえばの話だ。


 たとえば今、君を見つめたら、どんな風に見えるのだろうか。そのままの姿で、そのままの笑顔で見えたらそれでいい。でも、もし歪んで見えてしまったら、僕の心が歪んでいるのだろうか。それとも、この世界が歪んでいるのだろうか。


 どこかで傷ついてしまった僕の心には、ありのままの世界なんて、まともに映らない。どこかで改変された映像だけがこのふざけた脳に入り込んでくる。


 そしてそんな自分が嫌になる。


 たとえばの話だ。


 次は君の番だ。

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