第5話
学級委員長でもある武は、出席日数はいつも万全だった。
麻生は風邪を引いた日以外は全て学校へと通っていた。
二人の目に高台にある鳳翼学園の校舎が見えて来たようだ。
武の後方から自転車が複数。水飛沫をばら撒きながら追い越していく。二人はいつものことなので気にせずに校門へと向かって行った。
今では、学校へ通う生徒はごくまばらだった。
いい加減に学校側も休校にしたらよいのだが、通いたがる生徒がいるので、仕方なく。小降りの雨なので高台という環境もあってなのか、校舎を解放しているようだ。
午後には決まって水浸しの校舎全体には、明るい笑い声がするので、不思議なことである……。
日本全土の空が泣いていた。
いや、世界中が泣いていた。
昼休みのことだ。
武が麻生と共に理科室でお弁当を取り換えっこしている。
「相変わらずね。武のお母さんって、バランスが良いものばかり。うちって、何故か母さんが西洋かぶれだから……。もう、日舞には厳しいのにね」
武は麻生のお弁当の中華のシューマイを食しながら、
「お前の母さんって、色々な海外の食材が楽しいからな。時々、羨ましいよ。俺の母さんって、家であまりにも肉類ばかりだしていた時があったから、その反省」
そんな他愛もない言葉を交わす武と麻生の部屋の片隅に、武の唯一の親友の
貧相な奴で、いい奴なのだが口数が少ない。
背も低く。常に下を向いていた。
暗い性格だが、けれども、合気道では武と互角に渡り合えていたことを知っている。
武とは中学の頃からの親友でもあるのだ。
「食い終わったから、教室に戻るよ」
そう一言残して、卓登は立ち上がったが、俯き加減のその目は、いつも、武のスキを見出そうとしている武道家の目をしていた。
道という字が好きな卓登は、小学生の頃に酷いいじめを受けてから、合気道の達人へと昇りつめたのだ。
この理科室には、もう二人。麻生の友達がいた。
さっきまでいたが、今は教室へ戻ってしまった高取 里奈という名の女子だ。タロットカード占いが占い師顔負けの的中率の不思議な女で、全校生徒での成績が三番目と頭脳派なのだ。意外にも、おかっぱ頭の可愛い容姿である。
ちなみに、武の成績は全校生徒で二番目である。
もう一人は、麻生の後ろで髪をかき上げている美人で、美貌では学校内で二番目と噂される人気者の湯築 沙羅である。運動神経に大変優れ。陸上県大会二年連続優勝者である。 ここから見ても、茶色がかったボリュームのある髪が特徴的である。
「麻生さん。私も食べ終わったから教室へ戻るわ。後で、体育館裏へ来て」
湯築は何か含みがあるが微笑みを絶やさず教室へと戻って行った。
麻生と武は弁当箱を取り換えると、教室へと廊下を歩きだす。理科室はいつもみんなで昼飯に使っていた。
「ねえ、武。雨がこれからも止まなかったら。どうする? フフ、私は船で武と一緒に無人島へ行きたい。ずっと、二人で暮らしましょう。何もないところがいいの。今生の別れも惜しまずに。二人だけで、日本を捨てても……そこで、幸せになりましょ」
麻生が俯き加減で話し出した言葉に、武はくしゃみをした。
「誰か噂しているな……。俺はそうだなー。案外、学校へ行っていると思うな。この学校って、柔道部の翔先生や数学の鈴木先生に、剣道の尾鍋先生とか、色々お世話になっているからね。あー! また噂している!」
(またあの子たちだな!)
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