第1話
僕は誰なんだ、僕は一体どこにいるんだ。
白い真っ白な部屋だ。もうここに来てから1週間経った。
「・・・」
何も感じず、何も考えず、体を動かすこともなく部屋の隅で体育座りをしている。
僕はきっと何者にもなれない人間なのだろう。
そうならば、何故僕は生きている?どうして生まれた?何の価値がある?どう考えても僕にはわからない。
別のことを考えよう。
ここ最近であったことを思い出して記憶を整理するんだ。
白い部屋、白い部屋、白い部屋。
・・・?
僕、ここにずっといたんだっけ?
もっと他に何かあった気がする・・・
けれども思い出せない
「・・・」
ピッ
ガラスから瞬く間に光が放たれる。
「我が名はクオルツ、貴様ら"肉壁"の教官として派遣された。今日から強化訓練を実践してもらう。」
「モード変更、仮想転移結界始動」
部屋全体が緑、青、赤、紫と変色し汚色の液体が部屋中を覆う。
気がついた時には別の空間が広がっていた。
数多くの人間がいる。
ぱっと見は14歳程度の少年少女が1万人以上。
見覚えがある。
けれど、記憶の残滓が微かに思い浮かぶだけでいつどこで見たのかはわからない。
「侵食改定神色変化出よコード:エイティピア」
唐突に呪文が脳内に響いてくる。
喉まで出てきているのに脳まで登って来ない記憶の残影。
気持ちが悪い。
その気分に襲われてからは目の前が霞んで、加速して見えた。
液体を纏った巨大な球体(目玉)が現れる
僕以外の少年少女は何かを手から放って一人、また一人と倒れてはドロドロとスライムのように溶けていく。
9人の少女が球体と対面している。
3人が立ち向かい、微風が流れるのと同時に赤く染まる地面。
残りの5人も道連れと言わんばかりに赤く染まっていく。
残りはボーイッシュな子と僕だけだ。
(そろそろだね)
頭の中に少女の声が響いた
(・・・?)
僕はその言葉の芯が分からず、ただ8つの液体を見つめていた。
僕は何をしているのだろう。
このままずっと思考を放棄していたらどうなるのだろうか。
グチュ
目の前の女の子が溶けた。
「ヨウヤクハジマル、サア、コッチニコイ」
耳に声が轟いた。
僕はここに来たことなど無いはずなのに、ここにいた人達は知らないはずなのに、この声を聞いたことなんて無いはずなのに、既視感が沸いてきてしようがない。
この既視感をこの声は知っているのだろうか。
僕は球体に近づいてみることにした。
一歩、また一歩と何ごともなく面と向かって突き進んでいく内に、ふと疑問に思う。
(あなたは僕のことを知ってるの?)
気づけば瞳の目前まで来ていた。とても大きい目玉だ。200mはあるだろうか。
「タシカメテミルカ?」
僕はコクンッと頷いた。
すると、眼球から黒い液体が湧き出し僕の目の隙間に入りこんでくる。
いきなりのことでつい抵抗したが、すぐに辞めた。
僕は、僕自身の過去を否定することをやめた。
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