氷河期世代は死ぬまで裁かれる。

地蔵

第1話

彼らは死ぬまで罰を受け続ける。


最初の罰は、彼らの多くが団塊ジュニアとして生まれたことだ。

第二次ベビーブームの世代だ。

社会から学歴を求められながら、大学の門が極めて狭い。

受験戦争の世代である。

高校も大学も受け入れを増やすが、人口に追いつかない。

なので倍率が高く、競争が激しくなる。


AO入試なる言葉は存在せず、推薦入試などの枠も少なく、がむしゃらに勉強するしかなかった。


次の罰は、バブル崩壊の余波を受けた最初の世代ということだ。

単に就職がしんどかったという話ではない。

新卒年次に正社員になれなかったというだけの話ではない。

不景気が長期化したことで20代のうちに条件のいい再就職をすることが極めて困難だった。


日本の雇用制度はゆっくりとだが変化している。

正規・非正規の待遇格差をなくし、年功序列型から能力成果型に賃金制度もシフトしていこうとしている。

つまり「若い時は年功序列制度による低賃金に喘ぎ、年配になる頃には賃金制度が変わってしまって、吸い取られ損」


そういう世代である。


団塊ジュニアジュニアは生まれなかった。

第三次ベビーブームは起こらなかった。


自分たちが生きるので精一杯な人がそれだけ多かったということだ。


そして、これから最後の罰を受けることになる。


「就職氷河期世代には福祉を与える必要はない」という罰である。


福祉削減自体はやむをえない側面がある。

高齢者の数が増えていく以上、現役年齢を延長し続けるか、高齢者福祉を減らして調整していかざるを得ないからだ。


だが、その時、まず間違いなく「切り捨てられるのは、彼ら自身に問題があった」というロジックがつけられていく。


そう、自己責任、自業自得、である。

単に弱いものを見捨てるだけでは、自分の心が傷んでしまうので「見捨てられても仕方がない連中」と言う世論形成が始まる。


かつて非正規を救わない「正当性」が作られたように、今度も正当性が作られていくわけだ。


現役世代が少ないのは誰のせいか?

団塊ジュニアが子供を作らなかったからだ。


こんな感じの「正当性」が量産される。

作ろうにも作れなかったからだ、という訴えは通用しない。

ここで必要とされるのは「切り捨てることを正義とするロジック、切り捨てられる者を悪とするロジック」だけで、そうでない話は聞く耳を持ってもらえないからだ。


かつて正社員になれなかったことを「自己責任」とされたように、今度は少子化社会を作り出した罪を問われて、罰を受ける。


それが就職氷河期世代だ。


(こんな悲鳴のような叫びでさえ「言い訳をするな」「お前たちが悪いんだから、黙って死んでいけ。年金受給する前に」などと言われる時代になるということです)

(個人的には、歴史の隙間で不遇の世代が生まれてしまうことはやむを得ないことだとしても、不遇を耐えて頑張ってるところに「悪のレッテル付け」までされてしまうと、ホントにゲンナリしてしまいます……)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

氷河期世代は死ぬまで裁かれる。 地蔵 @zizo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ