『ペイン、ト~魔法の絵描きは【弱者の青】を欲してやまない~』
だぶんぐる
第1話 無為徒色(ムイトショク)
出会いは、一枚の絵画だった。
ただひたすらに色々な青を塗りたくったような、人によっては『子どもが絵具で遊んだのか』と言ってもおかしくないような青い絵。
だが、一人の学生は、近道をしようと初めて通った魔法研究棟への渡り廊下に飾られていたその絵に思わず足を止め、飲み込まれるように近づいていった。
「綺麗な、青だ……」
「ほう、何故そう思う?」
しゃがれた声が聞こえ、絵に引き寄せられていた学生は空色の髪を揺らし首だけで振り返る。そこにはあからさまに手入れのされていない黒髪から黒い瞳を爛々と輝せる。
学園内は白一色で、その男はカラフルな塗料の汚れが付いた白いツナギの上だけをはだけさせ、その下に着こんでいるのが学園指定の水色のトレーニングウェアなので、猫背で前のめりな土気色の顔も相まって首から上だけが浮かんでいるようにも見える。
空色髪の学生はその首だけ男の名前がすぐに思い当たり、愛想笑いを浮かべる。
「や、やあ、はじめまして。ボクはソウ。ソウ=ハヤカワ。君と同じ2学年なんだ」
「神は君の耳を描き忘れたのか? 『何故綺麗な青だと思ったんだ?』と聞いたんだが」
噂通りの変人。
ソウはその物言いに、馬鹿にされた屈辱と、まるで自分が名前を教えたくて仕方ない人間であるかのように見られてしまった事の気恥ずかしさから顔を赤くしたが、彼ならば仕方ないと俯きながら髪で顔を隠し、話を続ける。
「あ、ああ、ごめんね。カイガ君。なんとなく……そう思っただけさ」
「なんとなく、か……ふむ……なんとなく」
その曖昧な答えで一笑に付されてしまうかと思ったが、流石は学園で噂の変わり者。
右こめかみにある大きな傷跡をカリカリと掻きながら、ニチャリと嗤い、呟いた。
「アオい。実にアオいなぁ」
掻いた傷跡から真っ白な血。目を丸くするソウ。カイガはぺろりとそれを舐めとり嗤うだけ。
カイガ=ウタガワ。
この魔法絵描きである男との出会いがソウのこれからの人生がことごとく塗り変えられていくことをソウはまだ知らない。
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