青いカーバンクルの冒険~灰色の習作~

大月クマ

第1話

 私、ジャン・スミスは、同居人アトルシャン・ミックスとメイドのやり取りに少しだけ興味を持ったが……またしても、ろくでもないものかもしれない。

 それは感謝祭の休日週間を控えた時であった。

 1年間の収穫を祝って行われる感謝祭。

 世間は前後して1週間程度の休みに入り、家族と過ごすのが通例であろう。

 ただ、私は祖国オルフェス公国には帰らずに、国際都市ノクティスにいる。

 公務も休みだが、世間が浮かれているこういう時期こそ諜報活動は活発になる。

「とりあえず、これどうしようか?」

 下宿の同居人、アトルシャン・ミックスは一言そういった。

 先程、メイドから何かを渡されたようだったが、その手にした物体を私に見せてくれた。

 その大きさはクルミの実ほどの大きさもある。青みを帯びた緑色の宝石だった。

 ミックス君は、

「これは……さっきの新聞!?」

 ピョンと飛び出すように小走りで暖炉の前に来ると、ソファの上の畳まれた新聞を取り上げる。そのまま新聞を机に広げると、持っていた宝石で記事をなぞりだした。

 しばらくして該当の記事を見付けたようだ。指先でその該当記事を叩く。

「これだ! スミスさん。宝石盗難事件!」

 同居人が興奮したまま、私にその新聞を押し付けてきた。読めと――


 内容は、宝石の捜索に関しての懸賞金であった。

 数日前、ノクティス鉄道ホテルに滞在中の○○夫人の家宝のひとつ『小さな炭カーバンクル』が盗まれた。それに対して、情報もしくは現物のありかを知っている者に、中々の高額な懸賞金を出すというもだ。

 最高額は労働階級の1、2年分の年収ではあろうか――


「ミックス君。待ってくれ、君の手にしている宝石が――」

 同居人に声をかけようとしたが、奇妙な行動を取っていた。

 その青緑色の宝石を窓の明かりに当てて観察していたのであるが、急に肩を落とす。そして、ヒョイッとゴミでも投げるかのように私に投げてきたのだ。

「宝石が!?」

「いや、ガラス玉――」

「なんだって?」

 慌てて受け取ったが、手にした美しい宝石がガラス玉偽物というのか。

 そもそも何故、メイドが持ってきたのも不思議だ。

 そういえば昨日、「西アスクリス料理を食べさせてあげる」と言っていたが、そのことに関係しているのだろうか。

 西アスクリスは、ミックスの故郷だと聞いているのだが……私は「西アスクリスに料理はない」と言った。祖国の食事に比べて彼の地の料理は、非道いとの噂を聞いているからだ。

「昨日の夜、ダチョウガンスを買ったんだ。感謝祭の特別な料理を、西アスクリス料理を食べてもらおうとしたのだけど――」

「この宝石……は、どこから?」

「ガンスをメイドに捌いてもらったら、胃袋からこんなものが出てきた」

 なるほど――あのメイドはまともに話したことはないが、たいした腕の持ちのようだ。掃除洗濯、食事の用意まで完璧にこなしている。

 それよりも、何故この青緑色の宝石――実際、偽物だが――は、ここにあるのだろうか

「決めた! 今日はこの件について片付ける。君も1日ヒマだろ?」

「いや、私は――」

「どうせ1日、新聞を読んでいるだけだろ。さあ外出の準備をして!」

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