【和みたいとき】『小人のクツ屋さん』

 ここはお爺さんとお婆さんが長年やっているクツ屋さんです。


 今は、営業が終わって明かりが消えています。


 店内は真っ暗ですが、街灯の光が入口の窓から入って来て、作業台の上だけは明るくなっていました。


 お爺さんはいつもこの作業台でクツを作っています。


 いつもは営業が終わった後は、作業台の上には何も乗っていないのですが、おじいさんは片付けるのを忘れたのか、今日はなにかが乗っていました。


 営業時間ではないので、作業台になにか乗っていても問題はなさそうですが、実はそうはいきません。


「よいしょ、よいしょ」


 作業台には棚が付いていて、それを支える柱があります。その柱を伝って、何者かが降りてきました。


 その者は、街灯の光で明るくなっている作業台に降り立つと、


「あれぇー」


 と声を出しました。


 そのすぐ後から、もう一人が柱を伝って降りたちました。


「どうしたのさぁ、そんな間抜けな声を出して」


 と、言いながら、初めに降りた子の隣に立ちました。


 二人は、このお店の屋根裏に住んでいる元気な裸んぼうの小人です。


 お店の営業が終わったあと、作業台はいつも二人の遊び場でした。


 いつもは広々としている作業台の上で、かけっこをしたりして遊ぶのですが、今日はなにやらモノが置いてあります。


「ここに、モノがあるなんて珍しいね」


 一人の小人が言いました。


「なんだろう、アレ」


 薄くて茶色いモノが置いてあります。


 小人はそっと触ってみました。


「あ、コレ、もしかしてお爺さんがよく作っているモノの材料じゃない?」


「あ、ホントだぁ、いつもお爺さんが作ってるやつだ、クツとか言ってたっけ」


 小人たちの周りには、いろんな形をしたモノがありました。


「ねぇねぇ、ボク、クツ、作れるよ!」


 一人の小人が言うと、


「ボクだって作れるさっ、いっつも上から見てるもん」


 二人は屋根裏から、お爺さんがこの作業台で仕事をしている姿を見ていました。


「じゃぁさぁ、今日は、これを作って遊ぼうよ」


「いいね! お爺さんみたいに、作っちゃおう!」


 二人の小人は、薄い茶色のモノを持ち上げてくっつけました。


「お爺さんは、なんだか、細くてとんがったモノ使っているよね」


 革を繋ぎ合わせる針のことです。


「なんだか、棒の先に黒いのがついたやつで叩いてたりするよね」


 クツの底にくぎを打ちこむための金づちのことです。


 二人は作業台の周りを探し始めました。


「あ、細くてとんがっているモノ発見! よいっしょ」


「叩くの発見、よっ、あー、これオモーイ!」


 金づちは二人がかりで持ち上げました。


 道具がそろうと、二人はお爺さんがやっていたことを思い出しながら、協力してクツを作り始めました。


「これはこうやってぇ」


「よっと、ここに入れればイイね」


「よし、叩くよ、抑えといて」


「いいよ、持ってるよ」


 全身を使いながら作業台の上を、あっちに行ったりこっちに来たり、なんとかクツを完成させました。


「ふぅー、できたね」


「うん、よくできたね」


「もう、外は明るくなって来たね」


「うん」


「疲れたね」


「うん、眠いね」


「うん、眠い」


 と言いながら、二人はちょっとフラフラしながら棚の柱を、よいしょ、よいしょ、とよじ登って自分たちの部屋に帰り、ベットに横になると、すぐに寝てしまいました。



 次の日、小人の二人がまた屋根裏から作業台に降りてくると、またモノが置いてありました。


 しかし、今日のは茶色ではなく、赤やピンクのものでした。


「あ、こっちには太い棒みたいなモノがあるよ」


「ホントだ! コレって、お爺さんが女の人によく渡してるやつだよね」


「そうだそうだ、女の人が嬉しそうに持っていくやつだ」


 どうやら女性用のクツの材料が置いてあるようでした。


「ボク、これ作れるよ!」


「ボクだって作れる!」


 二人はまた協力してクツを作り始めました。


 革を縫い合わせたり、金づちで打ち込んだり、昨日も同じようなことをやりましたから慣れたもんです。


 でも、クツの種類が違うので、ちょっと難しいところもあって、結局、クツを完成させたときは、もう明るくなっていました。


「完成したね」


「うん」


「眠いね」


「うん」


 と、言いながら、小人は柱をよじ登って屋根裏の部屋に帰っていきました。



 そしてまた次の日、営業が終わったあとの作業台に小人たちが降りてきました。


「あれあれぇ」


「今日も、なんか置いてあるぞ」


 二人が、置いてあるモノに近づいて行くと、

 なにやら昨日までとは違ったモノが置いてありました。


「今日のは、なんか軽いね」


「うん、薄いし、なんだか肌触りがいいね」


 肌触りが良かったので、二人は、置いてあるモノにほおずりをして、心地いい気分になりました。


「あれ、コレ穴が開いてるぞ」


「あ、ホントだ、切れてて穴が開いてる」


「あ、コッチもだ」


「三か所穴が開いてる!」


「一つは大きな穴で、その先が二つの長細い穴に分かれてる」


 二人は穴に、顔を入れたり、腕を通したりしてしばらく遊んでいました。


「ん? あ、これ、もしかして」


「なに、なに」


「こうやって、こうやって」


 一人の小人が、置いてあるモノの穴に頭を入れました。


「ホラ、顔が出た、手も出た」


「あーっ!!! これもしかして、服かも!!!」


「えっ、服?」


「そうだよ、ボクたちの服だよ!!!」


 二人は大興奮して、作業台に置かれていた二人分のシャツとズボンを身に付けました。


「わーい、服を着たの初めてだよ!」


「ボクも初めて!」


「ぴったりだ!」


「ぴったりだね!」


 服を着た二人は、向かい合ってお互いの姿を見ながら大はしゃぎ。


 でも、まだ作業台の上にはモノが残っています。


「あ、これ、クツじゃない?」


「ホントだ! クツだ!」


 二人は、クツを履きました。


「わーい、クツだクツだ、ボク、クツを履いてるよ!」


「うん、お爺さんがいつも作ってるクツだ!」


 二人はクツを履いて、向き合って踊りました。


「わーい、ボクらは裸じゃなーい♪」


「クツだって履いているーぅ♪」


「おそろいの~ふく~♪」


「おそろいの~クツ~♪」


 作業台の上で、二人は大喜びで歌をうたってはしゃぎました。




 と、その時。


 作業台で服とクツを身につけてはしゃいでいる小人の姿を、気づかれないように、扉を少しだけ開けて、お店のお爺さんとお婆さんが見ていました。


 お爺さんとお婆さんは、朝起きるとクツができていたことに驚いて、昨日は店を閉めた後、こっそりと作業台を覗いていたのです。


 最初、小人が降りてきたことにビックリしましたが、その可愛らしさに大喜び。

 

 近づくと小人たちがビックリしてしまうかもしれない、と思い、こっそりと眺めることにしました。


 そして、クツを作ってくれたお礼をしようと、はだかんぼうの小人のために、お爺さんはクツを、お婆さんは服を大急ぎで作りました。


 作業台の上で大はしゃぎで喜んでいる小人の姿を、お爺さんとお婆さんは、目を細くして満面の笑顔で見ていました。




おしまい


(グリム童話:小人とクツ屋)

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