どうわではっぴぃ♪

にっこりみかん

【和みたいとき】『かさ地蔵っこ』

 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。


 おじいさんとおばあさんは、ふたりが生活できるくらいの野菜を育てていました。


 しかし、その年は天候が悪く、秋になっても野菜があまり収穫できませんでした。


 少ない食べ物で細々とした生活を送っていましたが、お正月も近いということで、なにか美味しいものを食べようと思いました。


 とは言え、なにか売ってお金に変えようとしても、売るものがありません。


「どうしたもんかねぇ」


 と、考えていたとき、おばあさんは子どものころ、親がカサを作っていたことを思い出しました。


 「カサを作り街で売って、少しばかりのご馳走を食べよう」と言うことになり、おばあさんの遠い記憶を頼りに、ふたりはカサを作ることになりました。


 そして何日かたって、なんとか売り物になりそうなカサが出来上がりました。


 ◇◇◇◇◇◇


 次の日、おじいさんとおばあさんは、同じ数のカサを背中にしょって街まで売りに行くことにしました。


 野菜を売りに行くので、街に行くのは慣れています。


 街までの道中には、ところどころにお地蔵さんが立っていました。


 道しるべのように立っているお地蔵さんの前を通るとき、おじいさんとおばあさんはいつも、


「今日もご苦労様です」


 と、手を合わせ、必ず、お供えをしていました。


 今年は収穫量が少なく、細々と食べていくのがやっとでしたが、家で採れたイモをお地蔵さまの前に置きました。


 街に着くまで、七体のお地蔵さんの前を通ります。


 おばあさんはちゃんと七個のイモを持って来ていて、お地蔵さんを見つけると、手を合わせてから置いていきました。


 ◇◇◇◇◇◇


 やがてふたりは街につき、道の端っこに、荷物を置きます。


 いつも野菜などを売っている場所です。


 おじいさんがゴザをひいて、その上に、ふたりで作ったカサを並べました。


 そして、声をあげます。


「カサだよ~、カサはいらんけ~」


 おばあさんはゴザの上に腰をおろし、カサを布でキレイに拭きました。


 こうして、ふたりはお昼も食べずに、代わる代わるに呼びかけをしてカサを売ろうとしましたが、カサは全然売れませんでした。


 日も傾き、だいぶ寒くなってきました。


「やっぱり、野菜じゃないと売れないのですかねぇ」


 と、おばあさんが言うと、


「おばあさんの作ったカサは、立派なものなのになぁ」


 と、おじいさんは、カサを見ながら言いました。


 ふたりは、疲れたから店じまいして帰ろうか、と話しているとき、おじいさんの頭に冷たいものが落ちてきました。


「おや、雪だ」


「はい、雪ですねぇ~」


 空から静かにゆっくりと降ってくる雪を、ふたりは見上げて、なんとなぁく眺めました。


「すみませ~ん」


 と、声がしました。


 ふたりが雪から声のした方に目を向けると、そこには、何人かの子どもが立っていました。


「おや、どうしました?」


 おばあさんが子どもたちに声をかけます。


「カサを売ってください」


 と言いながら、子どもがお金を差し出しました。


「おや、ありがとねぇ」


 おばあさんは笑顔で言って、


「もう、店じまいしようとしてたから、差し上げますよ」


 と、おじいさんに目を向けると、おじいさんは


「雪も降って来たし、持っていくといいぞ」


 と、目を細めて言いました。


 おじいさんとおばあさんは、子どもひとりひとりにカサを渡しました。


 子どもたちにカサを渡し終えると、持ってきたものが全部なくなってしまいました。


 子どもたちはもらったカサを、嬉しそうに持ち上げたり、かぶったりしていました。


 そんな喜んでいる子どもの間から、ひとりの子どもがやってきて言いました。


「ありがとう、悪いから、お金を置いてくね」


 子どもはゴザの上にお金を置くとすぐに走り出し、その子を追いかけるように、他の子も走りだしました。


「おやおや」


 慌てておじいさんはお金をひろい、子どもたちを追いかけようとしましたが、子どもたちは嬉しそうにカサを両手で持ち上げながら走り、すぐに小道を曲がって姿が見えなくなってしまいました。


「あー、あげると言ったのに、律儀な子たちじゃのう」


「ホントですね~、ありがたい子たちですこと」


 と、おばあさんは子どもたちが走っていった方に手を合わせました。


「じゃ、おばあさんや、このお金をこの街で全部使ってやろうかの」


「そうですね、きっと、あの子たちも街の子ですから、ここで全部使ってあげたほうが良いでしょうなぁ」


 と、ふたりはゴザをたたみ、帰り支度をしてから、あちこちのお店に入り、食べ物とおもちを買いました。


「さぁ、雪が強くならないうちに帰ろう」


 おじいさんとおばあさんは、おもちを食べるのを楽しみにしながら、来た道を戻っていきました。


 ◇◇◇◇◇◇


 ふたりはいつも、お地蔵さんに手を合わせて挨拶をしながら帰ります。


 雪は降り続け、辺りに積もり始めていました。


 手拭いを頭に乗せ歩いていたふたりは、最初のお地蔵さんのところに来て驚きました。


「おやおや、誰かがお地蔵さんにカサをかぶせてくれたのかのぉ」


「そうですねぇ、雪が降ってますから、優しい人がいたのでしょうねぇ」


 と、言いながら、おばあさんは街で買ったおもちをひとつ、お地蔵さんの前に置いて手を合わせました。


 ふたりは雪降る帰り道をのんびり歩いて、やがて、次のお地蔵さんのところにやって来ました。


「おやおや、このお地蔵さんもカサをかぶっとるのぉ」


「ほんと、優しい人がいるのですねぇ」


 おばあさんはおもちを置き、ふたりはお地蔵さんに手を合わせました。


 そして、次のお地蔵さんのところへ行くと、またカサをかぶっていました。


「おやおや、本当に、優しい人がおるのぉ」


「ホントですねぇ~」


 おばあさんはおもちを置いて、ふたりで手を合わせました。


 その後に出合うお地蔵さんも、みんな頭にカサを乗せていました。


 優しい人がおるのじゃのぉ、と、ふたりは言いながら手を合わせ、やがて家のそばにある最後のお地蔵さんのところまでやって来ました。


「おやおや」


 お地蔵さんを見て、おじいさんは少し驚いた声を上げました。


「カサをかぶっとらんのぉ」


「ほんとですねぇ~、可愛そうに……」


「カサが、足りなかったのかのぉ……どれ」


 と、言っておじいさんは自分のかぶっていた手拭いを外し、


「わしなんかの手拭いですみませんが、かんべんしておくれな」


 と、お地蔵さんの頭にかぶせました。


「おじいさん、それはいいことをしましたね」


 おばあさんは笑顔で言うと、おもちをお地蔵さんの前に置きました。


 そしてふたりは手を合わせました。


 手拭いを外し、あらわになったおじいさんの頭に、ふわっとした雪が降りかかりました。


 おじいさんは、冷たい、と思って身震いしました。


 そのとき「おや?」と何かに気付きました。


「どうしました?」


 不思議そうにたずねるおばあさんに、おじいさんは遠い記憶を探るように静かな口調で言いました。


「カサは何個作ったんだっけ……」


「えーっと、確か、ふたりで三つずつ背負って街にいきましたから、六個ですかねぇ」


「お地蔵さんは、七体いらっしゃったのぉ……」


 と、呟くおじいさんに、


「おや?」


 おばあさんも何かに気付きました。


「子どもたちは、何人じゃったかのぉ」


「はて、数えてませんが、カサが全部なくなってしまいましたね」


 おじいさんとおばあさんは、顔を合わせました。


「おや」


「おや」


 おじいさんとおばあさんは、同時にあることに気づきました。


「最後にお金を置いていったあの子には、カサを渡してあげたかのぉ」


「覚えてませんね……渡してないような気もしますねぇ」


 そして、ふたりは、目の前のお地蔵さんを見ました。


 おじいさんとおばあさんは、お互いの顔を見合わせると、おじいさんの手拭いをかぶったお地蔵さんに、手を合わせて深々とお辞儀をしました。




おしまい


(日本の昔話:かさ地蔵)


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