会えずの鳥居

ヤミヲミルメ

会えずの鳥居

 親愛なる我が読者よ。

 梅本の遺体は、梅本がかつて住んでいた空き家の庭に倒れていた。


 空き家の屋根に上って何かをしていたところ、足もとが崩れて転落したと見られる。

 第一発見者は、先日お会いした隣家の老人だ。


 梅本の手には鳥居の模型がにぎられていた。

 模型の大きさは、そうだな、大人でも私ぐらい痩せていれば匍匐ほふく前進でくぐれそうだな。

 しかしまぁ、取りあえず今わかるのは、こんな鳥居をくぐったところで神には会えずじまいだということぐらいだろう。

 そういえばこの島には『会えずの鳥居』という伝承があるそうだ。

 梅本たちの宝探しの手がかりかもな。




 梅本の所持品を調べてみよう。

 気になるのはこちらの三枚の写真だ。




 一枚目。

 おおっと、いきなりすごいのが出てきたぞ。

 島の神社に侵入して、御神体を無断で撮影したものだ。

 どうしてわかるのかって?

 二年前に死んだ竹宮の遺体も同じ写真を持っていて、そのときに竹宮の親御さんが確認しているんだよ。

 私はその資料を警察で見せてもらったのさ。


 撮ったのは六年前。

 梅本が島から引っ越す直前だ。

 御神体と一緒に宝探しの仲間五人が写っている。

 みんな若いな。

 梅本に竹宮に大松のお坊ちゃまに……

 あとの二人は祭りの出店のわたあめ屋とかき氷屋かな?


 御神体は龍の像だ。

 全体的に丸っこく、愛嬌のある顔をしている。

 この顔で連続殺人事件が起きている島の守り神とはね。

 せっかくのツノも、まったく鋭くない。

 一般的にリュウのツノなんてのは洋の東西を問わず先端が尖っているものだというのに。

 この龍のツノは、寸胴とでも言えばいいのか、丸太のような円柱だ。

 しかも、ナンだこれは? 耳の後ろにも小さな円柱状のツノが、左右に二本ずつの計四本も生えているぞ。

 大きいのと合わせて六本。

 虫の脚でもあるまいし。




 さて、二枚目の写真は……

 おやおやこれは、洞窟の奥に隠されていた祠じゃないか。

 祠と一緒に大松お坊ちゃまが自撮りしている。

 お坊ちゃまのほかには誰も写っていない。


 祠の扉が開かれて、中の御神体が見える。

 なんてことだ! 祠の中に鳥居がある!

 梅本の死体がにぎっている模型の鳥居にそっくりだ!


 ……写真をもっとよく見てみよう。

 木材の様子が、前に私が見たものと異なっている。

 鳥居のサイズは祠のサイズにギリギリ。

 おそらく大松お坊ちゃまが鳥居を取り出す際に祠を壊して、だから庭師に修理させたのだろう。

 その鳥居を、なぜか梅本が持っている。




 三枚目の写真は白黒で、ほかのものよりずっと古い。

 立派な屋敷の前での七五三の写真だ。

 こんなに立派な屋敷はこの島には大松邸しかないはずだが……

 いや! 屋敷の背景の山は、ここから見えるこの場所だ!

 この屋敷はかつての梅本邸だ!


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 待たせたな。隣家の老人に話を聞いてきたよ。

 梅本の一族はもともとは由緒ある名家だったが、今回亡くなった梅本青年の曽祖父の代にはすでに、老朽化した屋敷を修理できないほどに落ちぶれていた。

 ゆえに家屋の傷んだ部分を切り捨てて、こじんまりした家に改修。

 豪奢な庭を畑に変えて祖父の代を乗り切ったが、次の代で島を出ていったのだそうだ。






 空き家の玄関の前に立つ。

 私の足もとにはかつての栄華の名残りの鬼瓦が転がっている。

 鬼瓦……だよな?

 鬼にしては妙に愛嬌のあるデザインだが……

 しかもツノが見当たらない。

 頭頂部に妙な凹みがあるが、落ちて壊れたというよりも……ふむ……






 梅本の死が事故か殺人かは今はまだ断定できないが、梅本が屋根に上った理由はわかった。


 キミも当ててみたまえ。

 シンキングタイム・スタート!



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  ↓



 正解発表。

 まず頭に置いておいてほしいのは、私たちが少し前に不動産屋のおともでこの空き家に来たとき、鬼瓦は屋根から落ちてはいなかったという点だ。

 玄関先のこんな目立つ場所に転がっているのを見逃すわけがないだろう? 踏んだら危ないし。


 梅本は鬼瓦を目指して屋根に上り、何らかの理由で梅本も鬼瓦も転落してしまった。

 では、梅本は鬼瓦に何をしようとしていたのか?

 答えはこうだ。







 鳥居の模型を上下逆さまに持つ。

 この形状に見覚えは?




 神社の御神体の龍のツノさ。

 これを鬼瓦の頭にセットする!




 聞こえたか?

 ガチャンと言ったぞ。

 これが梅本たちがやっていた宝探しのユメの答えだ!

 何が出るかは次回以降!

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