苦手なもの

 ダイニングに入ると一人の男が豪快にステーキにかぶりついているのが目に入った。まるで野獣のような食いっぷりだ。

「隣を失礼しても?」

 梶田の問いに男は首を縦に振る。

「よし、君は僕の向かい側に座ってくれ。ディナーは会話も楽しまなくちゃ」

「賛成だね」


 席に着くと佐々木さんが熱されたプレートに載せてステーキを持ってくる。

「さあ、うちの自慢の一品をどうぞ」


 ステーキを切り分けると程よく赤味がかった中身が姿を表す。これが経費で食べられるのだ、記者という仕事も悪くはないな。おっと、雑誌に載せる用に写真を撮らなくては。写真を撮ろうとした瞬間、ステーキがフレームアウトする。代わりにオレンジ色の物体が画面いっぱいに映し出される。正体はニンジンだった。


「おいおい、いくらニンジン嫌いだからって、僕の皿に乗せることはないだろ」

「いや、残すのはオーナーに悪いからね」

 推理力は抜群でも、こういう部分は子供だな。


 そんなことをしているとさっきの男が隣に座った。片手にはゲーム機を持っている。勘弁してくれよ。雰囲気が台無しだ。



「それにしても美味かったな。さすがに発火能力とステーキのうまさの関係は企業秘密だったけど」

「まあ、そりゃそうだろうな。これじゃあ、君の編集長は満足しないだろうな」

 

 そうそれが悩みの種だった。ある程度の記事を書かなくては雑誌が売れない。当然、給料は少なくなる一方だし、下手したら会社が潰れかねない。



 そんな会話をしていると向こうから例の女がやって来た。

「あなたたち、あの下品な男は食べ終わったのかしら」

 ゲーム機を持った男を言っているのだろうか? それとも食いっぷりのいい男か?

「もういいわ。この目で確かめて来るわ」

 答えを待たずに女は僕たちの間をすり抜ける。

(やっぱり、この人とは合わなさそうだな)

 梶田は苦笑いをして同意した。

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