崔の最初の黒歴史、6年間。

崔 梨遙(再)

始まりは小学5年生。

 僕は、小学生の時は毎年、バレンタインでチョコを複数もらっていた。それが当たり前だった。僕は感謝という気持ちを忘れてしまっていた。そして、小学5年生の時は、家に女の子3人が来きてくれた。貴子、沙織、優香の3人。3つのチョコをもらった。豊作だった。母が、


「せっかくやから、家に入ってもらいなさい」


と言ったので、3人に家に入ってもらった。


 僕は、その頃から“女子と何を話したらいいか、わからない病”にかかりつつあったが、女子が3人集まれば勝手に盛り上がってくれる。僕は相槌をうつだけで良かった。だが、急に空気がマジモードに変わった。“いよいよ本題に入る!”といった雰囲気を感じ取った。そして、優香が改まった口調で言った。


「崔君、私と付き合ってほしいんやけど」


 貴子と沙織もチョコをくれたのに、貴子と沙織は優香を推してくる。そうか、今回のメインは優香だったのだ。


 優香は、美人だ。一般的な美人だ。好みによらず、皆が美人と言うだろう。背も高く、中学生くらいに見える。貴子も背が高く発育がいい。小学生とは思えない。彫りの深い顔で、こちらも美人だ。貴子は女子のリーダー的存在だった。


 詩織も美人だ。しかもかわいい。詩織は、発育の良い他の2人と比べると小柄で1番小学生っぽいが、僕はこの3人の中では沙織が1番好みのタイプだった。


 だが、僕にはこの3人以外に好きな同級生がいた!

 

 当時の僕は、“好きでもないのに付き合うことは罪だ”と思っていた。だが、面と向かって断ることは出来なかった。女子3人から圧をかけられていたからだ。結局、


「少し考えさせてほしい」


と言って、その場で答えることは避けた。


 しかし、小学生で“付き合う”ということがピンとこなかった。デートする? どこへ? 映画? 喫茶店? 小学生のお小遣いではデートも出来ないのではないか? 僕は深刻に考えてしまった。もっと気楽に考えれば良かったのかもしれない。

 

 ホワイトデーは、男子の前で渡すと冷やかされるので、PTAをやっていてクラスの生徒の母親と親しい僕の母経由で、3人にホワイトチョコを渡した。



 そして、小学6年生のバレンタイン。また、家に3人娘がやって来た。まさか2年連続で来るとは思わなかった。そして、その夏、僕はなりゆきで好きな女子のひかるに告白して、見事にフラれていた。だが、フラれても好きだった。そして、また優香に言われた。


「私と付き合ってや」


 今回の告白は大きな意味を持つ。今回は、“中学に入っても付き合いましょうね”ということだからだ。この時も、また僕は、お茶を濁した。


「少し考えさせてくれ」


 僕なりに悩んだ。好きな女子にはフラれている。優香はキレイだ。だったら、付き合ってもいいのではないか? いやいや、フラれてもまだ、僕はひかるが好きなんだ。こんな気持ちで優香と付き合ったら、優香に申し訳無い。優香に失礼だ。悩んだ末に、僕は優香の告白をキッパリと断ることにした。この時のことを、後々まで後悔することになる。大人になれば、さほど好きでなくても付き合うこともある。だったら、好きな女子がいても、もうフラれたんだから、美人の優香と付き合ったら良かったのだ。と、大人になってから思う。


 また、ホワイトデーは母親経由でお返しを渡した。優香へのお返しに、正直な気持ちを手紙に書いて添えた。


“今、好きな女子がいるから優香の気持ちには応えられない、ごめん”



 結果、僕は優香に激しく嫌われることになった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る